iPhoneで変わったチーム診療 在宅医療・介護の現場に起きた革命

AERA  2018.6.3
桜新町アーバンクリニック在宅医療部では、部屋を仕切らず、ワンフロアに結集。フラットな組織だからこそ、職種に関係なくものが言い合え、自然に和気あいあいとした雰囲気が生まれる(写真:桜新町アーバンクリニック提供)
 情報共有のシステム化で結束した「チーム・遠矢」。今、メンバーによる「発明」ラッシュが続いている。全国に先駆けて6年前から始めた「認知症初期集中支援チーム」の取り組みもその一つだ。
 在宅医療・介護の現場におけるICT(情報通信技術)活用のパイオニア、「桜新町アーバンクリニック」(東京都世田谷区)院長の遠矢純一郎さん(52)を唸らせたスタッフがいた。同院の作業療法士、村島久美子さんだ。
 世田谷区に住む女性は認知症の初期段階で、「大好きな料理ができなくなり、イライラすることが多くなった」と家族から相談を受けたのが支援の始まりだ。自宅を訪問した村島さんらは、台所で女性の「調理」の動きを確認した。すると、女性は短期記憶の低下により、作業の途中に向きを変えるたびに、次に何をすべきか忘れ、混乱していることがわかった。方向転換を極力少なくする家具の配置に変更すると、もとのように調理が継続できるようになった。
 遠矢さんは、「彼女らが補助したことは動線の工夫だけで、薬いらず。医者の僕にはとても思いつかない発想でした」。
 日本で在宅医療が制度化されたのは、2006年。在宅医療に携わる先輩から、「始めて20年になるけれど、一年じゅう患者さんのために街から出ないようにしているんだ」と聞き、「そんな赤ひげの医療(一人診療)じゃ広がらない。患者さんのためになる新しい赤ひげの医療を『システム化』し、持続可能なグループ診療体制をつくらねば」と考えたという。
 折しも、開院した09年は日本でiPhoneが発売された翌年。手にした遠矢さんは、「このツールを何に使えるか?」と模索を始めた。
「システム化」が必要なのは、複数の医療・介護事業所と連携して行う在宅医療には、非効率な面があるからだ。しかも、患者にとっては「ホーム」でも、医者にとっては外来と違う「アウェー」の現場。がん患者も多く、「ジェットコースターのような症状の変化」に対応するためにも、情報共有は必須だ
 今では、iPhoneが24時間365日のチーム診療を担う最強ツールに。カメラ、カレンダー、LINE、地図、スキャナーと、情報共有のために全スタッフが各種アプリを使い倒している。患者情報が絡むやりとりは、機密性を保ちつつ地域連携できるシステムを開発した。
 カルテ作成も、「ICT+チーム体制」により迅速化。診療後に医師が口述した音声ファイルをクラウド上に保存。専属スタッフが文字に起こしてカルテの下地をつくり、医師が確認してカルテを完成させる。患者とフェース・トゥ・フェースの診療に時間を割けるようになった。
 さらに、患者に承諾を得た上で、クラウド上でチーム内にカルテを開示し、治療方針や処方した薬の情報を共有したことで、「メンバーの自律性が高まった」(遠矢さん)。患者への生活援助の手がかりを得て、それぞれがより専門性を発揮するように。
 在宅版の「肺炎治療クリニカルパス」の作成。より重い症状を抱えながらの在宅生活を支援する「看護小規模多機能型居宅介護事業」の立ち上げ。メイキング映像入り「腰痛体操」のDVD作成……。

「発案は全部僕以外から(笑)」
 とはいえ、システム化しても、顔が見える関係が構築される前は、「ICT? 何それ?」とせっかくのツールも使ってもらえず、「ICTの前に“人”ありきだと痛感した」。
 チーム・遠矢の秘策は、半年に一度の「クジ引きによる席替え」。「お隣さん」が変わるたびに、疎遠だったメンバーとも絆が生まれる。
 千差万別なニーズを掬い個別の「最適」をこしらえるオーダーメイドの在宅医療を支えるのは、最強のチーム力なのだ。

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