医薬街道 高齢者の「減薬」と「改善」事例で通知

医薬経済 2019/7/1

近藤正觀
 厚生労働省医薬・生活衛生局は6月14日、「高齢者の医薬品適正使用の指針」(療養環境別の各論編)を通知した。高齢者に散見される有害事象を伴う多剤服用(ポリファーマシー)として、18年5月に総論編を公表した。今回は高齢者の療養環境を3つに区分して周知させようという狙いがある。
 有害事象とは薬剤の使用後に発現する有害な症状又は徴候であって、薬剤との因果関係の有無は問わない。ポリファーマシーは単に服用種類数が多いだけでなく、それに関連して有害事象のリスクが増加、服薬過誤、服薬アドヒアランスの低下につながる状態を指す。
 75歳以上の高齢者の現状を見ると、患者の約25%以上が7種類以上の投与を受け、約40%は5種類以上の投与を受けている。高齢患者は代謝能力が低下して排泄スピードが遅くなり、薬物が長く体内にとどまることによって、従来の知見にない有害事象が生じる場合が少なくない。基礎疾患のある高齢患者に新しい症状が加わる度に新たな診療科を受診すれば、足し算方式で処方され、10剤を超える事態が生じる。
 多剤投与による副作用は、「めまい」「ふらつき」「たちくらみ」のほか、「消化器障害」が多い。被疑薬は催眠鎮静薬・抗不安薬・精神神経用剤などだ。高齢者にとくに注意を要する薬剤として、ベンゾジアゼピン系の催眠鎮静剤や抗不安薬を指摘している。
 今回の通知は、単なる減薬ではなく、有害事象の回避、服薬アドヒアランスの改善を目的としている。療養環境は、①外来・在宅・常勤医のいない特別養護老人ホーム、②急性期後の回復期・慢性期の入院医療、③常勤医がいる介護施設︱︱に分け、それぞれの適正使用を示した。

 ②の慢性期環境への移行時の事例は、脳出血に伴う薬物有害事象の発現を挙げた。85歳の女性は左脳出血で入院していたが、半身の重度感覚障害と麻痺があり、リハビリ目的で回復期病棟に移動した。脳出血に伴う活動量の低下があり、血圧も低下しふらつきもあった。処方は「アムロジピン」と「アジルサルタン」「ナテグリニド」を中心とした7剤だったが、アムロジピンとナテグリニドを削除。7剤から5剤に処方変更の結果、血圧は上昇し起立性低血圧も改善、低血糖も見られなくなったという。
 減薬で症状が悪化する場合もあるので、医師を中心に医療職が全体でフォローする姿勢が重要だ。

 ③では老人保健施設入所後にポリファーマシーを改善した事例を示した。84歳女性は、複数の医療機関を受診し、脳梗塞後遺症・変形性頚椎症など全9疾患の診断を受け、処方薬は15種類に及んでいた。薬剤は自己管理していたが、残薬も発生し服薬も徹底していなかった。軽度の認知症もあり、介護施設では内服薬を整理した。降圧剤を「イルベサルタン」1種類に改め、高カルシウム血症のリスクから「エルデカルシトール」と「メコバラミン」を削除。転倒リスクを高めるとされる「ゾルピデム」「エチゾラム」に加え、「抑肝散」「チザニジン」も削除した。処方はイルベサルタン、「ロスバスタチン」「レコキシブ」「アスピリン」「ランソプラゾール」「プレガバリン」の6剤に減薬した。1日2回の服薬方法で自己管理も可能とした。
 そのほか、在宅医療への移行時に7剤を4剤に減薬、在宅で複数医療機関の処方を一元化し13剤を7剤まで減薬した事例、同じく在宅で7剤を3剤まで減薬した事例が示されている。いずれも日中の活動量を増大させ、食欲を増大させる結果につながった。医療機関では、患者個々の特性を見極めた治療に当たることが期待される。

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