「在宅血液透析」に注目 通院せず 暮らしに合わせ 病院と同じ装置と薬剤で 訓練を受けて自ら針刺す

西日本新聞  2019年7月1日

■導入患者全国で680人 「敬遠する病院、多い」の声も
 週3日、1回4~5時間―。多くの透析患者は病院に通い、血液透析を受けている。生きるために不可欠な時間だが、仕事や趣味の時間が制限され、悩む患者も少なくない。そこで「在宅血液透析」が注目されている。通院にかかる時間はなくなり、生活スタイルに合わせてスケジュールを組めるのが最大の利点だ。現場を訪ねた。
 ベッドがある6畳ほどの部屋の奥に透析装置が置いてある。壁に張ってあるのは手順や注意点をまとめた紙。長崎市の三浦文博さん(68)は血液が通る管などを決まった位置にセットし、ボタンを操作する。血圧を確認したら、手際よく左腕に針を刺した。
 「ふぅ」。順調に透析が始まると安堵(あんど)の息をつく。「今日で51回目。だいぶ慣れてきたけど、まだちょっと緊張すっとですよ」。高血圧が原因で腎不全が起こる腎硬化症のため、2017年から長崎腎病院(同市)で透析を受けていたが、今年2月に在宅透析に切り替えた。基本的に1人で行うが、近くに住む妹や弟が毎回見守りに来てくれる。
 「往復で2時間の通院時間がもったいなくて」。民生委員など五つの役職を任され、とにかく忙しい。通院日は時間が気になって仕事に集中できなかった。今は月2回、経過観察のために通院するだけで、自由な時間が増えた。透析中も自宅の方がリラックスできるという。
 医療費の自己負担は変わらず、電気代と水道代が合わせて月1万円ほど増えた。手順を誤って途中で出血したこともあったが、さまざまなトラブルを想定した研修のおかげですぐに止血できた。三浦さんは「透析のためにやりたいことを諦めたくない。まだまだ地域の役に立てますよ」。
 長崎腎病院では25人が在宅透析を導入。公的医療保険で認められる透析の回数は通院の場合、原則月14回までだが、在宅だと制限はない。病状に応じて増やせるので「体調が安定した」「食事制限が緩やかになった」と喜ぶ患者も多い。
 「関心を持つ患者は多いが、導入の壁となるのが自分の腕に針を刺すこと」と話すのは、福岡赤十字病院(福岡市)腎臓内科部長の満生浩司さん。
 13年から在宅血液透析に取り組み、現在患者3人が導入。針を刺す訓練に8カ月かかった人もいる。恐怖心が強ければ、まずは腕の模型で練習してもらう。ピアスの穴のようなものを腕に開け、そこに針を刺すようにすると、少し難易度が下がるという。
 在宅でも病院と同じ装置や薬剤を使う。導入の条件は、本人の強い希望がある▽介助者がいる▽安定した透析が実施されていて支障となるような合併症がない▽16~60歳程度が望ましい―など。住まいの環境によって電気や水道の設備工事に数十万円ほどかかることもある。
 透析中に異常が生じたら、装置が警報音などで知らせる。満生さんは「対処困難なトラブルや判断に迷うことがあったら、すぐに病院に連絡することを徹底しており、これまで大きなトラブルはない」と話す。
 日本透析医学会の調査(17年末)によると、在宅血液透析をしている人は全国で約680人。10年に比べて約2・5倍に増えたが、人工透析患者全体(約33万5千人)の0・2%にとどまる。
 長崎腎病院理事長の船越哲さんは「取り組んでいるのは、透析患者を診る病院の数%。経営が赤字になると誤解し、敬遠している病院が多いのでは」とみる。
 船越さんは一昨年、病院の収支を通院と在宅で詳細に比較した論文を医学雑誌に公表。在宅の場合、病院が装置を無償で貸し出し、導入時の指導に人手も必要となるため、初期費用はかさむ。ただ、その後は人件費が抑えられ、2~3年で初期費用を回収でき、経営上のマイナスはないとしている。
 在宅透析に携わる全国の医療関係者でつくる在宅血液透析研究会の幹事で、上村内科クリニック(熊本市)院長の上村克哉さんは「在宅血液透析を選択できない患者が大勢いる現状は問題。まず各地に在宅患者を受け入れる拠点病院のようなものができればいい」と話している。

【ワードBOX】人工透析
 腎不全患者の血液中の老廃物や水分を人工的に除去する治療法。血液を体内から取り出して人工腎臓(ダイアライザー)を通して浄化する「血液透析」と、体内の腹膜を利用する「腹膜透析」がある。腹膜透析は腹膜の機能低下などで、5~10年で血液透析への移行が必要となる。腎移植を受けない限り、透析を続けなければ命に関わる。国内の透析患者の97%が血液透析を受けている。

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