処方箋なしでは医療用医薬品は買えない? 薬剤師が教える医薬品販売の内情

HARBOR BUSINESS Online 2018/6/5

 病院などの処方箋を元に調剤されることが前提の医療用医薬品は、処方箋がないと買えないと思いますか?
 答えは「いいえ」です。
 自分は、池袋で池袋セルフメディケーションという薬局を経営している長澤育弘と申します。
 当薬局では病院などの処方箋を元に調剤されることが前提の医療用医薬品を処方箋無しで販売しています。このようなタイプの医薬品の販売方法を「零売」といいます。
 当薬局を含め、零売薬局は全国で6~7件経営されています。
 このタイプの薬局は一般的ではないので、業界内では妙な目で見られていますが今後も普及に努めていこうと思っています。
 意外に思うかもしれないのですが、実は薬局が処方箋無しで医療用医薬品を販売することは禁止されている訳ではありません。(全てではなく概ね15000種類の中で7300種類の医薬品が処方箋無しで販売できます)病院の前や町中にある薬局で病院用の医療用医薬品を買おうと思えば受診しなくても買う事が出来るのです。
 しかし実際に薬局に行ってみて医療用医薬品を処方箋無しで売ってくれと頼んでみても応じる薬局はそう多くはありません。
 日本にはコンビニの数より薬局が多いと言われていますが(※日本フランチャイズチェーン協会の統計によれば、コンビニの数は2017年12月の段階で5万5322店ある一方で、保険薬局の数は2014年度の段階で5万7784店・内閣府調査)、この形態をとっている薬局約10000件に1件と僅かです。普通に便利で、誰にでも思いつきそうなビジネスですが、行っている者は少ない……そもそもなぜこのような事になっているのでしょうか。それはこの薬局業界の独特な事情があります。
 医薬品を含めた医療の領域は規制がそれなりに厳しい領域であり、参入には資格が必要であったり、安全性を担保するため施設に基準を設けたりするために投資が必要であるなど参入障壁が高いのですが、普通に業務をを行えばある程度経営できるのでイノベーションが起きにくい世界なのです。

◆処方箋なしでも医療用医薬品を売る店が少ない理由
 現在の薬局業界のメインの業態は「門前薬局」と呼ばれる、病院の前に薬局を作り、処方箋を受けるという業態です。
 このタイプの薬局の経営上のメリットは、普通の商売で必須の広告やマーケティングがあまり必要ではなく、安定して収益を上げることが出来ることです。
 ただし、目の前の病院やクリニック次第で経営が左右されたり、毎年の薬価改定(薬の値段の変化)や調剤報酬改定(利益の変化)がある上に、人材の処理が難しいなど他の業態とは違った苦労が多くあります。
 特に在庫管理や人材の管理はかなり厳密に行う必要があります。
 そのように、経営は簡単という訳ではないのですが、客単価の粗利が普通の水準で慣らすと1500~2000円程度は出るイメージです。
 一方自分の行っている薬販売は客単価が安い上に1人当たりの粗利は300~800円程度です。お世辞にもすごく儲かる商売ではありません。
 直接売っても300~800円程度しか儲からないのですが、処方箋を受けて調剤するのであれば1500~2000円は儲かる訳ですから直接売りたい気持ちはどうしても削がれてしまいます。
 病院や薬局はこの事実を共有していているが為に、この医薬品を直接販売する……という事にかなり消極的なのです。

◆零売を薬局が面倒がる理由は他にも
 また、薬局の立地にも問題があります。基本的に薬局は病院の近くにあるのが当たり前です。
 1つの病院に薬局が1件セットで開業する形態は、業界ではマンツーマン薬局と呼ばれていて一般的な業態です。(病院と薬局って結構セットで営業してますよね)
 この薬局の比率が結構高いのですが、先述した通り、基本的に薬局の経営は店先にある医院にかなり影響されます。
 医院は院内処方と院外処方を選択することができるため、軒先で処方箋無しで薬局が勝手に薬を売りはじめたら、怒って処方箋を発行せず院内処方にしてしまうかもしれない……そうすると収益の柱だった処方箋応需が揺らいでしまいますので、なかなか薬局の経営者は「零売」には手を出せないということになるわけです。
 加えて、厚生労働省が安全の為医師による診断の上で医療用医薬品を使用する事を推奨しているので、保健所の心象もあまりよろしくありません。
 自分も開業直後は至らない点が多かったので、保健所の方々には大変なご迷惑とご心配をおかけしました。
 やはりご指導頂く項目が多くて、守らなければならない事も多いので、そこまでして販売しても利益が小さいのは割に合わない……そう経営者の方も考えてるのかもしれません。
 しかし社会保障が増加し続ている昨今、医療費のウエイトはかなり大きくなっており、これを少なくするのは社会的に必要な事だと考えています。
 病院に行って検査して処方箋を出してもらい、薬局で調剤する。という過程は安全ですが、非常にコストが掛かります。
 例えば何度も使ってるような常備薬やあまり危険性が無いビタミン剤などは、本当は処方箋なしで買っても良いのではないか。
 経験のある軽い症状であれば薬局で医療用でも買って良いのではないか。
 自分は以前からそう考えていて、その為に今後もこのタイプの薬局が増えていけばよいと考えていますし、その為に活動を続けていくつもりです。

一般人の知らない「クスリ」の事情 第1回

<文/長澤育弘>
ながさわいくひろ●薬学部卒業後、救急指定病院在職中に認定薬剤師を取得。その後、調剤薬局やドラッグストア、在宅専門薬局で管理薬剤師を務める。2016年9月に「池袋セルフメディケーション薬局」(http://www.self-medication.co.jp/)を開局。「患者様が自分で健康を管理し自分で治療する」という促進を主な目的に掲げている。

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