暴走する介護保険…53サービス乱立で「共食い」状態、介護施設に淘汰の波

BizJounal 2018/5/24

 介護保険法に基づく介護サービスは細分化を繰り返し、厚生労働省のホームページで確認すると、居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービスなどで計25種類53サービスに及ぶ。そのうち医師が常駐している唯一のサービスが、介護老人保健施設(老健)である。
 老健は「要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」と定義され、病院と自宅の間の中間施設として位置付けられてきた。施設数は全国に約4200施設。厚労省は、全国の中学校区単位を基準に医療と介護を一体的に提供して、在宅生活の限界点を引き上げる地域包括ケアシステムを2025年までに構築する方針だ。その中核施設になり得るのが、介護サービスで唯一医療機能を内部に備えた老健である。
 ところが、長年にわたって多くの老健は、本来機能の在宅復帰が脆弱だった。老健は在宅復帰率(入所1カ月以上の利用者が6カ月以内に退所して、自宅・有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅などで介護を受ける割合)に応じて、3つの類型に分けられていた。在宅復帰率50%超が在宅強化型、30%超が加算型、それ以外は従来型で、基本報酬に差を設けて従来型から加算型へ、さらに強化型への移行が誘導されていたが、厚労省の思惑通りに進まなかった。
 核家族、老老世帯、独居世帯の増加で家族機能が弱体化し、復帰先の確保の難しいことが大きな要因だ。ある社会福祉法人幹部は、こう指摘する。
 「病院から退院したり、老健から退所したりした後、家族が介護できないから施設に預けてしまうというケースが多いのです。地域によっては、地域包括ケアシステムは絵に描いた餅になっています」

遅れる在宅医療・在宅介護体制の整備
 地域包括ケアシステムの要を担う市区町村の人事も障害になっている。市区町村では人事異動がほぼ3年単位で実施されるため、保健福祉担当部門にノウハウが蓄積されないのだ。
 その結果、全国老人保健施設協会が昨年9月に実施して今年3月に発表した調査(回答・1529施設)によると、在宅強化型16.7%、加算型31.4%、従来型52.0%だった。今年4月に地域包括ケアシステム強化法が施行されたが、現状では政策と現実のかい離が縮まらず、地域包括ケアシステムの重点施策である在宅医療・在宅介護体制の整備は到底間に合わない。
 そこで、国は今年4月に施行された改正介護保険法で、介護老人保健施設の定義を次のように改正した。
「要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」
 具体的には、リハビリテーションを提供する機能維持・改善の役割を担う施設かつ在宅復帰・在宅療養支援のための地域拠点となる施設である。さらに2018年度介護報酬改定にともない、強化型、加算型、従来型の類型も変更され、超強化型、在宅強化型、加算型、基本型、その他型の5類型になった。どの各類型に該当するかは「退所時指導等」「リハビリテーションマネジメント」「地域貢献活動」「充実したリハビリ」の評価および在宅復帰・在宅療養支援等指標で評価される。この指標は「在宅復帰率」「ベッド回転率」「入所前後訪問指導割合」「退所前後訪問指導割合」「居宅サービスの実施数」「リハビリ専門職の配置割合」「支援相談員の配置割合」「要介護4又は要介護5の割合」「喀痰吸引の実施割合」「経管栄養の実施割合」の10項目である。
 10項目の合計値が20以上で退所時指導等とリハビリテーションマネジメントが算定されれば基本型、40以上で基本型に加えて地域貢献活動が算定されれば加算型、60以上で加算型に加えて充実したリハビリが算定されれば在宅強化型、70以上なら超強化型に該当する。この5類型に設定された基本報酬の差は、老健経営の盛衰を大きく左右する。
 全国老人保健施設協会の東憲太郎会長は、100床の老健が要介護3で満床になった場合について、次のように試算している。
 「現状で従来型が新たに『基本型』になったとして、年間108万円のプラスとなります。次に、現状で加算型の施設が『新・在宅強化型』となった場合には、大きく上がって、1,800万円のプラスに。さらに、現状で在宅強化型が『超強化型』になると、1,872万円 のプラスです。 ちなみに、先程、現・加算型から一気に『超強化型』になる施設もあると述べましたが、その場合、3,600万円の増収です。これは大きい」(全老健機関誌『老健』18年4月号)
 その他型には触れていないが、その他型は減収になるため、老健経営からの撤退に追い込まれるというのが大方の予想である。

介護保険サービス、細分化のツケ
 さらに基本型にとどまることも安泰ではない。次回(21年度)介護報酬改定で、25年に向けた在宅復帰誘導策として基本型に基本報酬の引き下げなどのメスが入る可能性を想定すれば、最低でも加算型を取得しないと、老健経営は厳しくなるのではないか。
 競合サービスも登場した。今年4月に介護保険サービスとして創設された介護医療院である。介護医療院は医療の必要な要介護高齢者の長期療養・生活施設で、病院や診療所からの転換が想定されている。老健との重複が考えられるのは、評価項目の「要介護4又は要介護5の割合」「喀痰吸引の実施割合」「経管栄養の実施割合」にかかわるサービス。利用者にとって介護医療院は医療機関内の施設という安心感をもてるため、参入次第では老健の有力な競合先になり得る。
 こうして老健がふるいにかけられる時代に入ったが、こんな見方もある。
 「要介護者と家族が望んでいるのは手厚い介護サービスの提供であり、老健というカテゴリーを望んでいるわけではありません。手厚いサービスを受けられるのなら、サービスカテゴリーへのこだわりはないと思います。老健というカテゴリーの存続を望んでいるのは老健関係者だけではないでしょうか」(厚労省OB)
 要は、介護保険サービスを細分化し過ぎたツケが回ってきたのだ。ニーズの多様化に対応した制度設計を重ねて新サービスが創設されてきたともいえるが、その挙げ句に「介護保険制度はツギハギだらけの中古家屋のようになってしまった」(自治体関係者)。しかも、国の財政悪化で介護報酬財源が抑制されるなかにあって、財源をめぐって25種類53サービス同士が共食いをし合うというジレンマを引き起こしているのが実情だ。

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