データで読み解く病院経営(48)化学療法は外来か⼊院か

キャリアブレインマネジメント 2018年05⽉23⽇

【株式会社メディチュア代表取締役 渡辺優】

■外来か⼊院か、経営的に判断の難しい化学療法の選択
 がん患者に対する化学療法は、選択するレジメンや患者の病態に応じて、外来で実施すべきか⼊院で実施すべきか判断されるものである。故に「外来だから良い。⼊院だから悪い」といった単純な決め付けはできない。ただし、外来・⼊院の選択には、診療報酬上で多少なりとも有利・不利が⽣じるため、経営的な判断が求められていることも事実である。昨今の病床⾼回転化により、病床利⽤率が低下していることは、病院経営にとって深刻な問題となっている。このような環境下で、外来で化学療法が実施できる患者でも、患者の希望などに配慮した上で、⼊院の選択をする病院もあると認識している。
 そこでナショナルデータベースなどの数値から、化学療法の外来化の状況と地域的な差異を⾒ることで、病院経営における化学療法の⽅向性について考えてみる。

■年々増える化学療法の実施件数
 外来化学療法加算の算定件数は、年々増えている=グラフ1=。2014年と15年は⼀時的に減少しているが、これは診療報酬改定による外来化学療法加算の対象⾒直し=図1=の影響によるものと理解している。

グラフ1 外来化学療法加算算定件数の推移
 厚⽣労働省 社会医療診療⾏為別統計を基に作成。2002-12年は中央社会保険医療協議会総会資料(13年11⽉15⽇)の数値を引⽤

図1 2014年度診療報酬改定における外来化学療法の⾒直し クリックで拡⼤
 厚⽣労働省 2014年度診療報酬改定説明資料

■若年層より⽬⽴つ65歳以上の件数増加
 外来化学療法は相対的に体⼒のある若年層で件数が増えているのか、それとも⾼齢者で件数が増えているのか。14年度診療報酬改定以降の3年間の件数を⽐較した=グラフ2=。この結果、5歳刻みで最も件数の多い65-69歳で、16年度に件数が⼤幅に伸びている。さらに70歳以上の区分を⾒ると、いずれも件数が伸びている。⾼齢者の患者⾃体が増えているため、化学療法の外来・⼊院の選択で、外来がより多く選ばれているとは単純に⾔えない。しかし外来化学療法加算の算定件数の年齢⽐率を⾒れば、外来化学療法室の⾼齢化は着実に進んでいる=グラフ3=。

グラフ2 年齢別外来化学療法加算算定件数推移
 厚⽣労働省 社会医療診療⾏為別統計を基に作成
グラフ3 外来化学療法加算の65歳以上・75歳以上の件数⽐率推移
 厚⽣労働省 社会医療診療⾏為別統計を基に作成

■レジメンにより⼤きく異なる外来と⼊院の選択
 外来化学療法が増加している要因の⼀つには、催吐性リスクの低い分⼦標的薬の使⽤拡⼤が挙げられる。主な分⼦標的薬の⼊院と外来の使⽤割合を⽐較すると、ノンホジキンリンパ腫の患者に⽤いられるリツキシマブは⼊院の使⽤割合が⽐較的⾼いものの、それ以外は外来の⽐率が⾮常に⾼くなっている=グラフ4=。⼀⽅、シスプラチンやカルボプラチンのような催吐性リスクの⾼いプラチナ製剤では、今でも⼊院で使⽤している割合が⾼く、特にシスプラチンでは85%以上が⼊院で使⽤されている。このような状況を踏まえれば、⼀律に外来化を推し進めるようなことは現場の理解を得にくいだろう。

グラフ4 主な抗がん剤における⼊院・外来使⽤割合(薬剤ごとの規格単位×使⽤量の合計値で⽐率を算出)
 厚⽣労働省 第2回ナショナルデータベースを基に作成

 さらに、⼀部の薬剤について、14年度と15年度の外来での使⽤割合を⽐較すると、ドセタキセルやパクリタキセル、ベバシズマブなどの薬剤は、わずかではあるが、外来での使⽤割合が⾼くなっている=グラフ5=。

グラフ5 主な抗がん剤における外来使⽤割合推移(薬剤ごとの規格単位×使⽤量の合計値で⽐率を算出)
 厚⽣労働省 第1回、第2回ナショナルデータベースを基に作成

■「雪国だから」「遠⽅から来院するから」、個別理由は多々あれど…
 第2回ナショナルデータベースの数値から、⼊院と外来の割合について都道府県間の⽐較をした。各都道府県のデータのそろっている薬剤が限られているため、フルオロウラシルを選んだ。先発品と後発品を合算した全国計の⼊外⽐率と、先発品だけの⼊外⽐率には、ほとんど差異がなかったため、先発品のデータだけで⽐較した=グラフ6=。

グラフ6 フルオロウラシル(先発品)の⼊院・外来⽐率(薬剤ごとの規格単位×使⽤量の合計値で⽐率を算出)
 厚⽣労働省 第2回ナショナルデータベースを基に作成

 フルオロウラシルは全体で6割が外来で投与されている。岩⼿や滋賀、沖縄のように8割前後が外来で投与されている地域が⾒られる⼀⽅で、⼭⼝や⿃取のように3割前後の地域も⾒られる。フルオロウラシル以外の薬剤の組み合わせにより、⼊院・外来の選択に影響を及ぼしていることを考慮しても、この差異はかなり⼤きい。ちなみに、「うちは雪国だから冬に⽇帰りは厳しい」や「遠⽅から来る患者は⼊院してもらっている」といった、よく聞く「外来移⾏できないあるある」が、地域性を⾒ることで明らかにできないか期待した。しかしながら、新潟と北陸3県の差異、広島と⼭⼝の差異、⿃取と島根の差異など、隣接した地域でも⼤きな差異が⽣じていることは、この「あるある」では説明し難い。
 なお、ベバシズマブでも同様に⽐較したが、フルオロウラシルと似た違いであり、残念ながら「あるある」を⼗分に説明できるような結果は得られなかった=グラフ7=。グラフ7 ベバシズマブの⼊院・外来⽐率(薬剤ごとの規格単位×使⽤量の合計値で⽐率を算出)
 厚⽣労働省 第2回ナショナルデータベースを基に作成(アバスチン点滴静注⽤100mg/4mLの使⽤割合から判断。数値のなかった⾼知、徳島、沖縄は⾮表記)

■外来化学療法を推し進めるには、制度⾃体の変更が不可⽋
 現状、化学療法の患者を⼊院させると、病床利⽤率、「重症度、医療・看護必要度」、複雑性係数、診療密度などの向上と、平均在院⽇数の短縮が期待できる。(複雑性係数アップについては以前のレポート「改善余地の少ない複雑性係数から⾒えること」参照)
 また、医療機関別係数の⾼い病院では、外来で化学療法をするよりも、⼊院させた⽅が増収になる可能が⾼い。(「『⾼額な抗がん剤治療はIII群が不利』に疑問」参照)
 このようなさまざまな影響要因が複雑に絡み合った状態で、各医療機関が合理的に化学療法の外来化をするとは考えにくい。

 以前、千葉⼤学医学部附属病院の井上貴裕⽒が、「外来化学療法の収益性」(https://www.cbnews.jp/news/entry/20180126200156)で述べられていたように、持続可能な医療提供体制の構築に向けた議論の重要性には⾮常に強く同意する。外来診療の質的向上を促す報酬の充実などは早急に期待したいところである。
 そして、分⼦標的薬などの薬剤が次々に登場してくる環境下、化学療法の外来化は、前進が基本であり、⼤幅な後退は考えにくい。それ故、化学療法の患者に「ベッドを埋める」⼿段として期待するのは⻑期的には不適切な戦略と思われる。各病院では、診療報酬制度が変わるその⽇まで何もせず静観するのではなく、その⽇に向け何ができるか考えるべきである。特に、外来化学療法室などのハード的な整備や、⼈員などのソフト的な整備には時間を要するものも少なくない。対応が後⼿に回らないよう、病院幹部のみならず、診療科の医師、コメディカル、患者など、さまざまな⼈を巻き込み議論を始めておくべきだろう。

渡辺優(わたなべ・まさる)
 1977年⽣。2000年東北⼤⼯学部卒業、02年同⼤⼤学院⼯学研究科電⼦⼯学専攻博⼠課程前期修了。同年アクセンチュアに⼊社し、⾦融機関の業務改善などを担当。その後医療系コンサルティング会社に移り、急性期病院の経営改善に従事する。12年に株式会社メディチュアを設⽴。医療介護・健康関連の情報提供サービスやアプリケーション開発のほか、医療機関・健康保険組合向けのコンサルティングを⼿掛ける。

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