副作用の恐れありオンライン初診でハイリスク医薬品処方を禁ずるが、訪問看護師等の支援あれば緊急処方可―厚労省
Gemmed 2021.6.9.
「診療録などによる医学的情報の把握」ができない初診患者へのオンライン診療では、映像・音声で得られる情報が極めて限定されるため、「副作用等のリスクが高い」と想定されるハイリスク医薬品(抗がん剤など)の処方を禁じている―。
ただし、患者の傍らに訪問看護師等が同席する、いわゆる「D to P with N」形態でのオンライン初診であれば、患者の状態が一定程度把握できるため、「対面診療などでのフォロー」を行うことを前提に、ハイリスク医薬品の緊急的な処方を認めることができる―。
厚生労働省は6月4日に事務連絡「『「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関するQ&A』の改定について」を示し、こうした点への留意を強く呼びかけました。
看護師が同席する「D to P with N」形態でのオンライン診療、見落とし・誤診のリスク低い
Gem Medで繰り返しお伝えしているとおり、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、臨時特例的に「電話や情報通信機器(ビデオ通話システムなど)を用いた診療」が大幅に拡大されています。新型コロナウイルスへの感染リスクがある中でも「医療へのアクセスを最低限確保する」ために、初診患者も含めた「電話・情報通信機器を用いた診療」まで臨時特例的に認められています。
ただし初診患者へのオンライン診療では、「誤診や重症化の見落としなどのリスク」が高いことから、次のような留意点が厚労省から示されています(関連記事はこちら)。
▼「初診のオンライン診療等が適していない症状や疾病」、「考えられる不利益」、「急病急変時の対応方針」などについて、医師から患者に対して十分な情報を提供し、説明した上で、その説明内容を診療録に記載する
▼地域医療連携の下で実効あるフォローアップを可能とするため、対面による診療が必要と判断される場合は速やかに対面診療に移行し、自院で困難な場合は、「あらかじめ承諾を得た他の医療機関に速やかに紹介」する
また、完全初診患者(過去に一度も受診歴がなく、他院からの診療情報提供などもない患者)では「誤診や重症化の見落としなどのリスク」が極めて強くなることから、次のような制限がかけられています。
(1)「麻薬」「向精神薬」の処方はできない
(2)「特に安全管理が必要な医薬品」(【薬剤管理指導料】の「1」の対象となる抗悪性腫瘍剤や免疫抑制剤等のハイリスク医薬品)の処方はできない
(3)処方日数は7日間を上限とする
(4)「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」は、過去の受診歴とならない(「完全初診患者に対する電話・情報通信機器を用いた診療」を終えた後に、当該患者が再度、電話・情報通信機器を用いた診療を受けたとしても、(1)-(3)の縛りが継続する)
しかし、こうした留意点を遵守せずに電話・オンライン診療を行うケース(不適切なオンライン診療等)が、一部ではあるものの後を絶ちません。5月31日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(検討会)では、▼不適切なオンライン診療等を繰り返す医師・医療機関▼新たに不適切なオンライン診療等を行う医師・医療機関—が混在していることが報告されています。構成員からは「留意点の遵守を改めて周知するなどの対策をとるべき」との指摘が出ていました。
依然として不適切なオンライン診療等があり、繰り返す医療機関、新規医療機関が混在している(オンライン診療指針見直し検討会2.6 210531)
これを受け、厚労省は今般の事務連絡で「上記の留意点をさらにかみ砕いた」Q&A改正を行ったものです。
新設されたQ&Aは次の2点で、留意点が設けられた理由・背景・趣旨を説明し、「その遵守」を改めて求める内容となっています。
(1)初診からのオンライン診療等で、診療録等により患者の基礎疾患の情報が把握できない場合、なぜ診療報酬における薬剤管理指導料「1」の対象となる薬剤(いわゆるハイリスク医薬品)の処方はできないのか
(2)コロナ感染症患者への緊急的な診療が必要な場合に、初診からのオンライン診療等で、患者の基礎疾患の情報が把握できない場合であっても、「患者のそばに訪問看護師が居合わせ、当該看護師から情報を得た」上で診療する場合は、診療報酬における薬剤管理指導料「1」の対象となる薬剤(いわゆるハイリスク医薬品)の処sh方は可能か
まず、前者(1)について厚労省は、オンライン診療等では「患者の基礎疾患の情報等の診断に必要な情報が十分に得られない」ケースが多いことを改めて確認。そのうえで、診療録等により患者の基礎疾患情報が把握できない場合には、「副作用等のリスクが高い」と想定される上記医薬品の処方は対象から除外している、と留意点の趣旨を分かりやすく説いています。
この趣旨に遡れば、基礎疾患情報等のない初診患者に、ハイリスク医薬品を処方する場合には「対面診療による」ことが原則となります。
しかし、緊急事態で対面診療を行うことが困難なケースもあります。この点、訪問看護をお行う看護師が患者のもとに居合わせ、当該看護師が医師に対して「患者の状態」に関する情報が的確に伝達されれば、医師は相当程度の情報を掴むことができます。また、医師から当該看護師に医学・医療的な指示を行うことで、患者がその指示内容をかみ砕いて患者に伝達することも可能でしょう。
そこで厚労省は後者(2)のケースについて、「対面診療を含めて必要なフォローアップを行う」ことを条件に、「ハイリスク医薬品のうち、緊急的に必要な薬剤の処方を実施して良い」との考えを明示しています。
後者(2)は、いわゆる「D to P with N」というオンライン診療の一形態で、スマートフォンやタブレット端末などの操作が不得手な高齢の在宅療養患者などが、オンライン診療を受ける際に、看護師・保健師・助産師(以下、看護師等)が訪問して同席し補助を行うものです。スマートフォンやタブレット端末などの操作を支援することはもちろん、「患者の状態の正確な把握」(専門職である看護師が血圧測定をしたり、電子聴診器を活用して医師に心音を伝達するなど)、「薬物投与にとどまらない治療行為等の実施」(オンライン診療計画に基づき、予測された範囲内での点滴や注射などの診療の補助行為)なども可能になるという大きなメリットがあります(関連記事はこちら)。
検討会での「初診からのオンライン診療恒久化」論議の中でも、「見落としや誤診のリスクは相当程度抑えられる。初診患者にも積極的な実施を認めてよいのではないか」との考えが厚労省から示されており、今後、ますます注目が集まるでしょう。
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