【東京】マンション暮らし高齢姉妹「コロナで断ち切られた人生」 立ち会えなかった87歳兄に届いた遺品

毎日新聞 2020年6月11日

 東京都文京区のマンションで暮らしていた高齢の3姉妹が新型コロナウイルスに感染した。相次いで入院したが、病状はあっという間に悪化し、うち2人はわずか1週間ほどで帰らぬ人に。感染防止のため、最期の対面や火葬にも立ち会うこともできなかった兄の末利光さん(87)=甲府市=は2人の実名を明かした上、「どこにでもいる普通の姉妹がコロナに突然人生を断ち切られた。コロナの恐ろしさを少しでも身近に感じてほしい」と訴えた。
 「この風邪はなんだか変だ。胸の下が妙に痛い」
 最初に異変を感じたのは貴久子さんだった。4月10日に全身のだるさと喉の痛みがあり、翌11日に近くのクリニックを受診。数日後に別の親族に電話し、自らの症状とともに「芳枝さんも風邪を引いている」と伝えた。
 37度から38度台前半の熱が続いたため、貴久子さんは16日にクリニックに連絡し、保健所から指示された病院を17日に受診。そのまま入院し、その日のうちに容体が悪化して集中治療室に入った。芳枝さんも翌18日に入院。1人残された姉も同じ日に入院し、全員がコロナに感染していることが分かった。
 「青天のへきれきとはこのことか」。利光さんらは8人きょうだいで、既に4人が他界。東京に行けば必ず3人のマンションに立ち寄っており、3月にも一緒に食卓を囲んだばかり。3人の感染を聞き、信じられない気持ちだった。
 そばに駆け付けたいが、感染防止のため病院に向かうこともできない。入院して6日後の23日、病院から貴久子さんが亡くなったと連絡があった。本人とは言葉も交わせないままだった。
 追い打ちをかけるように、芳枝さんも症状が悪化していった。その後、驚くほど弱々しい声で芳枝さんから電話があった。人工呼吸器をつけるかどうかの決断を迫られていると言い、こう続けた。「私には一生鍛えてきた歌い手の喉がある。このままの姿でいたい」
 音大を出てウィーンに留学し、多くのリサイタルを開き、後進の育成にも力を注ぐなど声楽家として活躍してきた芳枝さん。「少しでも長く」と心では願った利光さんだったが、芳枝さんの覚悟に負け「お前の好きにしたらいい」と折れた。小さな声で「ありがとう」と聞こえたのが最後になった。芳枝さんも27日、息を引き取った。姉は回復し、PCR検査で2度陰性になった。
 利光さんらは芳枝さんの主治医らに対し、当時海外の研究で新型コロナを抑える効果が報告されていた抗寄生虫薬を使うよう申し入れたが、間に合わなかったという。
 「電話のやりとりばかりで、亡くなった顔も見られない。どこか絵空事のようだった」と利光さん。死を実感したのは、遺品が入った段ボール箱が自宅に届いてからだった。感染リスクのため1カ月ほど待って開けたところ、芳枝さんの貫いた意志を示すかのように、白紙のままの人工呼吸療法の同意書が入っていた。
 葬儀もままならず、利光さんが1人、自宅近くの寺で住職に読経してもらっただけ。「コロナが終息したら大勢の仲間を集め、2人のために音楽葬を開いてあげたい。それが生き残った兄の務めだ」。2人の遺骨を納めたペンダントを前にそう誓った。

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