男女とも危険にさらされるHPV

yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

HPVに起因するがんは男女ともに起きる

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は、セックスによって感染するウイルスです。大きく分けると、HPVが起こす病気は2種類――「イボ」と「がん」です。

 イボは、「尖圭(せんけい)コンジローマ」といい、とがったイボイボが男女の生殖器に現れます。見た目も問題ですが、尿路をふさいで排尿障害を起こしたり、不安やうつといった精神症状を引き起こしたりして、著しく生活の質(QOL)を損ないます。

 厚生労働省によると、尖圭コンジローマの報告数は、男性で3,382人、女性は2,055人(2017年)でした。これは特定の医療機関の報告ですから、実際にはもっと多く発生していると考えるべきです。

 HPVに起因するがんで最も多いのは子宮頸(けい)がんですが、アナルセックスによる肛門がんや、オーラルセックスから起こりうる口や喉のがん、男性の陰茎がんも引き起こします。

 国立がん研究センターがん情報サービスによると、子宮頸がんによる死亡は2,710人(2016年)。若い患者の死亡が多いのが特徴です。性行動が関係しているからでしょう。40歳代前半の女性のがん死亡の最大の原因は乳がん。第2位が子宮頸がんなのです。

性教育と検診だけでは予防しきれないHPV感染
 HPV感染の予防には、「性教育」「検診」と「ワクチン」の三つが有効です。

 適切な性教育でコンドームが正しく着用されれば、たいていの性感染症は予防できます。ただ、残念ながらHPVはコンドームではおおいきれない皮膚からもうつるため、他の性感染症に比べるとその効果は限定的です。

 一方、定期的ながん検診によって子宮頸がんの死亡が減ることもわかっています。このため、諸外国では、がん検診を20-25歳の女性から行うよう勧めています。

 日本医師会によると、 日本の子宮頸がん検診の受診率は20歳代では22.2%、他の年齢層でも3割前後に過ぎませんが、がん対策先進国のアメリカでは、 対象女性(21-65歳)の86.7%が子宮頸がん検診を受けていました(2010年)。しかし、このアメリカでですら、年間4000人以上の女性が子宮頸がんで亡くなります。性教育やがん検診だけでは不十分なのです。

男性にもワクチン接種を推奨するアメリカ

 そこで、ワクチンの出番です。

 たとえば、B型肝炎ウイルスは、肝炎のみならず肝硬変や肝臓がんの原因ですが、ワクチンで予防できます。

 HPVワクチンも、いくつか開発されており、尖圭コンジローマ、子宮頸がんの前段階、前がん病変を予防します。B型肝炎ワクチン同様、がんの前提となる感染を防ぐことで、子宮頸がんなどのがんも予防できるでしょう。

 多くの国では、尖圭コンジローマと子宮頸がんの被害を減らそうと、HPVワクチンの接種を強く推奨しています。アメリカなどでは、女性は13~26歳、男性は13~21歳、男性同性愛者は26歳までに――という具合に、男性にも積極的な接種を呼びかけています。

 日本でも、HPVワクチン(「子宮頸がんワクチン」と呼ばれる)は、定期接種に組み込まれています。しかし、接種後の副作用リスクを懸念した厚労省が接種の勧奨をやめ、接種率は激減しました。

 確かに、HPVワクチンは接種部位の痛みなどが他のワクチンよりも出やすいのが特徴です。が、長期に症状を起こす副作用や、全身に起きる重篤な症状がHPVワクチン接種で 増えたりしない、という研究結果も発表されています。今年に入ってからはワクチン接種後の重篤な副作用も増加していなかったことが名古屋でのデータ解析で報告されました。

接種時期に柔軟さが欲しいワクチン政策
 厚労省は、HPVワクチンの積極的推奨を復活させるべきです。こうした健康問題を放置していては、行政の責務を果たせません。

 関連諸学会がこの問題の打開に消極的なのも、プロとしてどうかと思います。ワクチン接種をはっきり肯定しているのは日本産科婦人科学会だけで、ワクチンの専門家であるはずの感染症関連の学会やプライマリ―ケアの学会もこの問題には弱腰なままです。

 あらゆる医療行為同様、ワクチンの副作用もゼロではありません。まれではあっても、重篤な副作用は起こりえます。ワクチン接種後の強い痛みがトラウマになり、「身体化」と呼ばれる症状のきっかけになって長く苦しむ人もいるようです。

 そのため、ぼくはワクチンの接種時期にゆとりをもたせる方法を提案しています。

 日本の定期接種は接種時期の年齢幅があまりに限定されています 。しかし、健康や性、がんに対する理解の深さやリスクの高さは、人によって違います。10代で接種した方がよい人もいれば、成人後で十分間に合う人もいます。アメリカでは、推奨年齢外でも接種を受けられるよう、仕組みにゆとりがあります。「追いつく」と言う意味の「キャッチアップ」接種と呼ばれます。日本でも定期接種にキャッチアップの仕組みを取り入れるべきです。

 ところで、「予防接種法」における予防接種は「義務」ではないことをご存じですか? 戦後間もなく作られた「予防接種法」は当時義務接種でしたが、現在は人権などにも配慮して「義務」ではなくなっているのです。予防接種は、国がぼくたちの健康を守るために提供してくれる大事な「権利」。その権利を自分や家族のために積極的に活用すべきなのです。(感染症内科医 岩田健太郎) 

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