拒まれる障害者、いわれなき差別 共生社会の実現遠く 施設反対運動全国調査

毎日新聞 2019年12月22日

「子どもたちの安全を守れ」などと書かれたのぼり旗が立ち並ぶ光景を見つめるグループホームの男性。「僕が何か悪いことをしたのだろうか」とつぶやく=横浜市都筑区で2019年11月17日、上東麻子撮影
 障害者施設を巡り、過去5年間に少なくとも全国で68件の建設反対運動が起きていた。障害者差別解消法の施行から3年がたったが、依然としていわれのない差別に苦しむ障害者の実態が見えてきた。障害のあるなしに関係なく、市民がともに暮らす社会の実現への課題を探るため、現場を歩いた。

「どこに住めばいい」施設反対に戸惑う障害者ら
 「運営反対」「地域住民の安全を守れ」――。今年11月、横浜市都筑区の住宅街に建てられた障害者グループホーム(GH)周辺の民家十数軒には、こう書かれた30本以上の大きな黄色いのぼり旗が並んでいた。
 このGHは、同市が2018年3月に設置を認めた。運営事業所で訪問看護サービスを展開する「モアナケア」(同区)は地元住民の求めに応じ、同年12月と今年1月に説明会を開いた。だが、住民は「地価が下がる」「子どもたちの安全が脅かされる」などと主張し、開設に反対。3月になると一斉にのぼり旗を立て、開設反対の署名約700筆を同市に提出した。
 施設側もやむなく対応。5月にはモアナケアと入居予定者の家族が、障害を理由とする差別への相談対応と、紛争解決へのあっせんを同市に申し立てた。障害者差別解消法に基づき制定された市の条例にのっとった手続きだった。
 のぼり旗について、同市は差別に当たるとして降ろすよう繰り返し住民側を指導したが、聞き入れられなかった。施設が完成し、利用者が入居した現在も掲げられた状態が続く。事業者は隣接地に2棟目の建設を予定していたが、開設のめどは立っていない。
 なぜ地域住民は障害者施設の建設に反対なのか。ある住民女性は「(施設入居者が)何をするか分からない。2棟目は絶対に建てさせない」と主張する。毎日新聞によるアンケートでも、反対運動の理由で、住民が障害者を危険視していることを挙げる自治体が多かった。だが、18年の犯罪白書と障害者白書から推計すると、精神障害者と知的障害者に占める刑法犯罪者の割合は0・08%。精神・知的障害者でない人の割合(0・2%)と比べてかなり少ない。さらに、「住民への説明が不十分」との回答も多かったが、障害者差別解消法に詳しい藤岡毅弁護士は「説明義務があるという発想自体が障害者への偏見と差別に当たる」と批判する。
 一方で施設入居者らの不安や戸惑いは大きい。10月に入居した精神疾患の男性(63)は、8件目でやっと見つけた住まいだった。「治療に耐え、病状が落ち着いてやっと退院できた。僕にとって、ここは必要な施設。何か悪いことをしたのだろうか。ここがだめなら、どこに住めばいいのか」と力なく語る。父親が介護を受けたことがきっかけで協力を申し出たGHの地主の男性(66)は「ここがだめなら、どこに障害者は住めばいいのか。同じ人間なのだから、温かい目で見守ってほしい」と願う。
 施設側の困惑は大きい。代理人を務める池原毅和弁護士は「差別的なのぼり旗は違法行為だ。既に9カ月間も続いているが、いまだ改善が見込めない。年を越しても市長によるあっせんの手続きに進む見込みがなければ、法的な手続きを取らざるを得ない。地域の人たちとともに暮らしたいだけなのに」と話す。

民間参入 紛争増え
 障害者の住まいを巡っては、1960年代後半から70年代にかけて「コロニー」と呼ばれる大規模入所施設が郊外に相次いで建てられた。その後、障害者も、そうでない人も平等に暮らす社会の実現を目指す「ノーマライゼーション」という考え方が広まり、90年代以降はGHや精神障害者の社会復帰施設が地域に急増した。ただ、この頃にも施設の反対運動が各地で発生している。98~99年に毎日新聞が行った全国調査によると、精神障害者施設の反対運動が10年間で少なくとも83件あった。
 国が補助金を支出して障害者施設が建設される場合、地元の同意書の提出を施設側に対して慣例的に求めていた時期もあった。しかし、大阪府などがこうした手続きそのものが障害者の権利を侵害しているとして、同意書の撤廃を国に要望。99年度までに全て廃止された。障害者施設の建設は自治体の整備計画に基づくものが多く、反対運動にはいわば自治体と事業者が「共闘」し、住民と対峙(たいじ)する時代だったともいえる。
 それから20年がたち、以前は自治体が決めていた福祉の提供者について、利用者が事業者側と直接契約して決められる方向に大きく変わった。05年に障害者自立支援法ができて以降は、社会福祉法人だけでなく、営利目的の会社もサービスの提供者として参入可能に。行政は「民間同士の問題」として反対運動が起きた時でも介入を避けるようになっていった。
 GHを運営する事業所数は、10年からの7年間で10倍の756に増えた。「土地活用」をうたい、地主にGH建築を勧める経営コンサルタントが関係するトラブルが東京都や神奈川県内で複数起きている。ある福祉関係者は「悪質なコンサルが早く売り上げを得ようと施設建設を急ぐあまり、地元住民との関係を時間をかけて築こうとしないため、建設反対運動が助長されているのではないか」と指摘する。

行政の関与、地域で差
 障害者施設の反対運動を解決に導く重要なカギの一つが行政の対応だ。
 成功例がある。東京都文京区で4年前に開設したGHは、都有地だったこともあり、区や区議会が全面的に建設を支持した。地元住民150人以上が建設反対を訴える横断幕やビラを配り、約300筆の反対署名を都議会に提出したが、全会派一致で採択しなかった。逆に障害者団体が早期実現を求めた請願書については区議会が採択。区も説明会を6回開き、自ら施設の必要性を繰り返し地域住民に説明した。
 当時の区の担当者は「ここで頓挫すると、今後も福祉施設を建てられなくなるという危機感があった」と振り返る。戸別訪問もして、理解を求めた。また、施設を運営する社会福祉法人は区や区内の福祉事業所に呼びかけ、定期的に市民向けの勉強会を開催。ブラインドサッカーの体験や暗闇エンターテインメントなど障害者の理解を深めるイベントを積極的に開いた。次第に反対運動は収束し、開設後も地域との関係は良好という。
 他にもある。民間会社が奈良市で障害者支援施設建設を計画し、住民の反対運動が起きた際、住民側に障害者を危険視する発言が出たため、市は予定地区3カ所で啓発集会を開催。こうした発言が差別に当たり、施設は必要であると説明することで開設を後押しした。堺市でも、住民から苦情が寄せられた場合、施設建設に住民の同意が必要でないことを住民に説明することとしている。
 一方、行政が関与に消極的で問題をこじらせたケースも少なくない。関東地方のある市では2件のGH建設反対運動が起きたが、市は「事業者の仕事」と関与を避けた。その結果、直接の当事者である事業者が住民説明会を催し、自治会長や反対住民への対応に追われたため、開所が大きく遅れた。担当者は「面倒なことに関わるまいと住民の苦情をそのまま伝えてくるだけ」と市の対応に不満を漏らす。
 毎日新聞のアンケートでも、施設側と反対住民を仲介する必要がないとした理由として、「事業所が行うべきだ」「民と民の問題」「市が関わると矛先が変わってあつれきが激化する」など、反対運動に距離を置こうとする自治体の消極的な姿勢が見えた。
 障害者差別解消法の策定に携わった東俊裕・熊本学園大教授(障害法)は「施設反対運動は、国民が優生思想下に置かれている証左だ。福祉施策の実施責任を負うべき市町村は自ら住民に理解を求めなければならない。事業所だけに説明責任を負わせるのは本末転倒だ」と指摘する。

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