【福島】CTもMRIも水没 被害25億円の病院「再建できぬ」台風19号

朝日新聞 2019年10月20日

 台風19号の大雨は、病院の中にある、医療機器などをぬらし検査ができなくなるなど、地域医療への影響も出ている。
 氾濫(はんらん)した阿武隈川の支流、逢瀬(おうせ)川から約100メートルにある福島県郡山市の星総合病院では、高額な医療機器が水につかるなどし、被害総額は25億円に上る見通しだ。
 浸水は12日午後11時過ぎに始まった。1時間もたたないうちに1階トイレの下水の逆流も始まった。水害対策のため、1メートルの盛り土をした上に立っているが、平均で床上15センチの浸水があり、70センチたまった部屋もあった。敷地内の看護学校や保育園にも浸水した。

地域の中核病院で何が起きたのか。浸水時の感染症リスク・予防についても聞きました。
 入院患者298人のうち、1階の34人は午後10時までに2~4階の病室に移した。医師や看護師、事務職員ら約30~40人で薬や非常食なども上の階に運んだがCT2台やMRI1台、マンモグラフィー、X線撮影装置、骨密度測定器、自動精算機、薬を小分けする自動分配機などは移動できずに水につかった。
 同院は、入院や手術が必要な患者を受け入れる2次救急医療機関で、地域の中核病院のひとつだ。
 2階の診察室を使い、限定的に外来診療を15日に再開した。だが、CTやMRIなどによる画像診断が必要な患者は他の病院に紹介し、手術や救急患者の受け入れも一部しか実施できていない。主に市内4病院で担ってきた夜間や休日の救急診療も一時、他院に任せざるを得なかった。
 「郡山市の救急患者の受け皿は十分ではない。台風の影響でさらに救急患者が増える可能性がある。早く再開する必要がある」と、星北斗理事長が県の担当者らに訴え、自衛隊の移動式CTを一時的に借りることになったが、台風前と同じだけの検査はできない。
 床や壁の張り替えや消毒、CTやMRIなどの機器の入れ替えも必要になる。星理事長は「とても自力では再建できない。地域医療への貢献を考慮し、国は適切な経済的支援をしてほしい」と話す。
 千曲川の氾濫で浸水した、長野市下駒沢の県立総合リハビリテーションセンターでも、1階から2階、2階から3階へと入院患者ら57人を避難させた。人的被害はなかったが、CTやMRIなどが水につかった。丸山賢治次長は「重い機器は1階に置かざるをえなかった。そういう意味では水害に弱いつくりになっていたかもしれない」と語る。
 医療機関の災害対策を調査する国立保健医療科学院の小林健一・上席主任研究官(病院管理学)は、浸水が想定される地域では、非常用電源設備やCTやMRIなどの機器、電子カルテのサーバーなどを1階や地下に置かないことが、水害への備えには有効だと指摘する。自力での避難が難しい重症の患者が多いICUなどの部門を上層階にすることも重要だという。
 ただ、CTは1台約1トン、MRIは数トン~数十トンの重量がある。設置する部屋の壁や天井などには放射線や磁気、電波を防ぐ特別な遮蔽(しゃへい)素材を使う必要もある。上層階に重い機器を置くと、揺れに弱くなるなど建物の構造上は不利になり、診療部門が1階にないと利便性が下がる。
 渡辺浩・群馬パース大教授(放射線安全管理学)は「一般的に重い医療機器は、下の方の階に置く場合が多い。とくに高線量の放射線が発生する、がんなどの治療に使うリニアック(直線加速器)を置く部屋は、遮蔽のために鉛や鉄をかなり厚く入れる必要があり、一番下の階に設置することが多い」と話す。
 小林さんは、水害の多い地域では、重い医療機器を上階に置くなどの対策をとっている病院もあり、備えによって、浸水しても診療や手術の再開を早めることができた例があると言う。そのうえで「これさえやればいいということではなく、立地条件次第。ここ数年水害が頻繁に起きていて、何が起こるかわからない。災害時にも役割が継続できるよう、ハザードマップを確認し、可能な範囲で対策をしておくとよい」と話す。(大岩ゆり、月舘彩子)

復旧作業や被災地生活で気をつけること
手袋やマスクつけて
 建物が浸水すると、細菌が繁殖しやすくなり、感染症のリスクが高まる。日本環境感染学会の理事長を務めた東北大の賀来満夫名誉教授は「清掃と乾燥が一番大事」と話し、屋内の汚れを落としてから乾燥させることが感染症予防につながるとする。
 清掃時には、室内のカビを吸い込まないよう、ドアや窓を開けて換気をする。清掃が不十分だと消毒の効果が得られないため、賀来さんは「泥などの汚れを取り除いてから消毒してほしい」と話す。ただ、アルコールは揮発するまでの間しか効果がない。希釈した次亜塩素酸ナトリウムや家庭用の塩素系漂白剤で拭く方が効果的だ。床下や庭などの屋外は、消毒の効果は低いという。
 汚れた家具などを片付ける時は、けがをしないよう長袖、長ズボンに厚手のゴム手袋やゴム長靴を使おう。すり傷程度でも傷口から細菌が入ると、命に関わる破傷風に感染する恐れがある。傷口は流水で洗い、消毒しよう。土ぼこりにも注意が必要だ。ほこりにはレジオネラ菌など細菌が付着していることがあり、吸い込んで肺炎になる可能性がある。市販の使い捨てマスクでいいので、必ずつけてと助言する。
 また、汚れた手で目を触ることで結膜炎になることもある。日本眼科医会は、コンタクトレンズをつける際には手指を十分にきれいにするよう注意を呼びかけている。加藤圭一・常任理事は「手を清潔に保てない場合、メガネを使えるならコンタクトレンズの利用は控えた方がいい」と話している。清掃や片付けが終わったら、水とせっけんで手洗いをし、消毒することが重要だ。
 ボランティアで被災地を訪れる人がインフルエンザなどの病気を持ち込む可能性もある。聖マリアンナ医科大学の国島広之教授は「体調が悪い人は行かない、無理をしないことが大事」と話す。
 詳細は「感染予防のための8カ条」(別ウインドウで開きます)へ。

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