「大人のむし歯」防ぐには 根元ご注意、歯茎が衰えて…

朝日新聞  2019年8月28日

 年を重ねるにつれて、子どもの時にできるむし歯とは特徴が違う「大人のむし歯」が増えてくる。歯の根元部分、歯茎との境目にできるむし歯で、磨き残しを気付きにくい。歯周病や加齢などで健康な歯茎が衰え、歯の根元がむき出しになった場合は注意が必要だ。どうすれば防げるのか。

歯と骨はどう違う? 硬くて丈夫なのは同じだけど…
 大阪府吹田市の女性(63)は、同市の安永歯科で歯科衛生士からむし歯を指摘された。歯周病の検査と歯の掃除に定期的に通う中で見つかった。右下の奥歯と、上の前歯の歯茎近くだった。
 むし歯は、口内の細菌が食べ物の残りかすを分解して出す酸が、歯を溶かして起きる。子どもや若者では歯の頭にできることが多い。年を取ってもこのタイプのむし歯はあるが、40代から増えてくるのは歯の根元にできるむし歯で、女性の場合もこれだった。
 歯の根元は本来、歯茎に埋まっている。この歯茎が下がって、根元が露出する原因は主に歯茎に炎症ができる「歯周病」だ。加齢の影響でも起きる。
 歯科医の安永哲也さんによると、女性はむし歯がわかる前に右下の歯茎が腫れ、歯がぐらぐらしてきたため受診し、歯周病と診断された。その後、歯周病の治療を受けた。炎症で腫れていた歯茎がひきしまったが、結果的に歯の根元が露出し、そこにむし歯ができたという。
 歯の頭は硬い「エナメル質」という成分で覆われているが、歯の根元はごく薄い「セメント質」の下に、すぐ「象牙質」がある状態だ。象牙質はエナメル質より溶けやすく、いったんむし歯になると症状が進みやすい。ひどくなると歯を失うことにもつながる。
 女性の治療は、少し削って詰め物をした。使われたのは合成樹脂の一種と、歯科用セメントの一種だ。合成樹脂の一種は固くて丈夫だが、固める際に少しでも水分があるとうまく接着できない。歯茎に近すぎる場合などには、多少水分があっても接着できる歯科用セメントの一種を使う。いずれも保険が使える。色が白く目立たないため、女性は「今はどの歯を治療したのかわからない」と話す。
 歯の根元は磨きづらく、見えにくいため、隣り合った部分が一度に何本もむし歯になることもある。予防には、歯医者で定期的にチェックを受けたり、むし歯を防ぐ効果があるフッ化物塗布を受けたりする方法がある。フッ化物には細菌のはたらきを抑え、エナメル質や象牙質で歯の再石灰化を促す効果がある。
 家庭でのケアも大切だ。細菌が集まった歯垢(しこう)(プラーク)がつくと、むし歯になりやすい。フッ化物が入った歯磨き粉やうがい薬で適切にケアすれば、ある程度防ぐことができる。
 吹田市の女性は今、朝晩3種類の歯ブラシと歯間ブラシを使い、丁寧に歯を磨く。「昔は歯医者に行くと抜かれるイメージで、行くのが嫌だった。もっと若い頃からちゃんとケアしていればよかった」と話す。
 安永さんは、口の中の各部に細かく毛をあてるため、手で歯磨きするよう勧める。ただ、高齢で手が動きにくい場合は電動歯ブラシを使うのも一手だ。毛先が歯にしっかりあたっているのを確認しながら磨いてほしいという。

年齢で変わるリスク、生涯見守りを
 高齢者のむし歯は増えている。健康意識の高まりなどで、年を重ねても残る歯そのものが多くなっていることが背景にある。
 厚生労働省の2016年の調査では、80歳になっても自分の歯が20本以上ある「8020」を達成した人の割合は51・2%。11年から11ポイント上昇。約30年前には10%以下だったとされる。
 むし歯を持つ人の割合は55歳以上では調査年ごとに増えていて、75~84歳では16年に87・8%と、17年間で23ポイント上昇している。10~14歳の子どもでは19・7%で、50ポイントも下がったのと対照的だ。
 高齢などで自分で十分歯を磨くのが難しかったり、歯医者に通えなかったりする場合は、フッ化ジアンミン銀(サホライド)というむし歯の進行を止める薬を使うことも選択肢になる。塗ったところは象牙質が黒くなるが、保険が利き、在宅でも治療を受けやすい。
 大阪大学歯学部の林美加子教授は「子ども、壮年期、高齢者とむし歯のなりやすさや、影響を及ぼす要因は変わっていく。かかりつけの歯科医院で、患者とスタッフでリスクを共有し、生涯見守っていくのが大事だ」と話す。

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