ALSのミカタ‐医師と患者の立場から思う 悲惨と思ってたALSまさかの発症


m3.comメンバーズメディア 竹田 主子|医師 2019年7月16日

悲惨にみえる難病の重度障害者でも、精神面では健常者と何ら変わらない生活を送れる

 先生がたは大学で習った数々の疾患で、印象に残っている疾患というと何が思い浮かぶでしょうか?

 私があの頃「この病気にだけはなりたくない。悲惨すぎるわ…」と思っていたALSと診断されたのは、今から6年前のことでした。

 「まさか。よりによって、コレに当たったのか…」

 と、まるで通り魔に遭ったような心境でした。

 発症してそんなに年数が経過していたら、さぞかし大変な事になっているのでは…と大半の先生がたが想像されているのではないでしょうか。

 ところが、自分でも予想していなかったのですが、今の私は呼吸器を付けながら、自宅で毎日ハッピーに過ごしているのです。
 皆さまと同じように仕事をして、周りの人とお喋りして、オシャレしてあちこちお出かけしています。

 ここまで来るのに紆余曲折ありましたが、難病の重度障害者でも病気を受容すると、健常者と何ら変わらないメンタリティーで生活を送れること、悲惨と思われている疾患でも、実はそうでもないことを、ぜひ先生がたに知っていただきたくて筆を取った次第です。

 私は、医師としてみていた難病 ALSを、患者と医師、両方の視点からみるようになりました。この連載で共有する私の体験や日常をご覧いただくことで、読者の皆さんの考えや気持ちに何らか変化があると嬉しいです。

人間は、「自分なりの価値」を見出していく生き物

 当然ながらALSは病気となると同時に、進行すれば身体障害者になるということを考えなくてはなりません。
 何の落ち度もないのに、告知を受けた時から、呼吸器を付けるか付けないか、つまり途中で自殺するかどうか、決断を迫られる病気です。

 身をもって体験したことでもありますが、患者は告知されると絶望感でいっぱいになります。

 どんどん身体が動かなくなるのは恐怖ですし、そのうち必ず全介助になるので、家族に迷惑がかかると思うと、いたたまれない気持ちになります。
 そして自分は無力で価値のない人間に思えて、この世から消えてしまいたくなるのです。

 しかし時間の経過と共に、自分の中で価値観の拡大、転換が起こります。

 価値観が変化すると、障害で失った価値以外にも、自分には多くの価値があることや、障害者による外見の変化よりも、親切さ、寛大さ、賢明さ、努力、協調性など内面的価値が、人間としては大事であることに気付きます。

 他人または一般基準と比較するのではなく、自分自身の価値に目を向けるようになるようになります。

 つまり、障害が気にならなくなり、 これが私! と思えるようになるのです。

 これは私だけが考えたことではなく、第二次世界大戦で身体障害者になった人たちの大規模調査でも、同様の心理状態が明らかになっています。

 人はここまできたら病気を受容し、生きがいを見つけられるようになります。

 

支援サービスがあったおかげで、精神的に解放された

 とはいえ重度障害となると、家族や介護の問題が出てきて、それが解決しないと受容もできないという現実もあります。

 介護や福祉制度については、少なくとも私の世代以上の先生がたは学校で習わなかったと思いますので、少しだけ簡単に説明させていただきます。

 私達ALS患者は40歳以上であれば介護保険が使えます。負担割合は1割で、要介護度に応じて利用できる金額が決まっています。
 その範囲内で電動ベッドなどの福祉用具をレンタルしたり、訪問リハビリや訪問入浴などを頼んだり、ヘルパーさんを頼むことができるのです。

 一方で、介護保険を利用しても、せいぜいヘルパーさんは一日合計で3~4時間しか利用できません。これだと、私たちのような24時間介護が必要な障害者は困りますよね。

 そこで、別に重度訪問介護というサービスがあり、こちらも障害の度合いで支給時間が決定され、本人の収入に応じて自己負担が決まります。

 介護保険ではヘルパーさんができることに厳しい制約がありますが、重度訪問は本人がやりたいことを本人の手足になって介助するという、とてもありがたい支援制度でもあります。

 例えば、介護保険では、利用者の食事しか作ってはいけないのですが、重度訪問では家族の食事も作ってもらえます。
 長時間サービスを受けられるので、時間のかかる外出も可能です。また吸引や胃瘻の注入などの医療行為もやってもらえます。

 私は介護保険と重度訪問介護のおかげで、ヘルパーさんによる24時間介護が達成されて、家族に迷惑がかからなくなり、やっと精神的に解放されました。

 ちなみにうちでは延べ20人以上のヘルパーさんが3交代で入ってくれています。そのうち8人は学生さんです。

ALS患者が無限に活動的になれる時代

 さて、普段家ではこんな感じで過ごしています。目の前にあるのは視線で入力できるパソコンです。


普段の自宅での生活ぶりはこんな感じ

 普通のノートパソコンに、Tobiiという視線入力装置をつけて使っています。マウス操作のパネルとキーボードが画面に出るので、普通のパソコンと全く同じことができます。(肢体不自由の診断があれば、市区町村の補助がおります。)
 これを使ってメールやLINEをしたり、生きがいである仕事をしています。

 現在の私の主な仕事は、医療訴訟の際に弁護士が利用できる医療コンサルティングの提供や、看護・福祉系の学校や、医療従事者に向けての講演・講義となります。
 その他にも連載ライターをしたり、介護職の資格の問題作成をしたり、学生さんを積極的に受け入れて、ケアの方法や声が出せない人とのコミュニケーション方法を学んでもらったりしています。

 また、同じ病気で悩んだり、苦しんだりしている患者さんを家にお招きして、悩みを聞いたり、生活の様子をお見せしています。

 自分は迷惑な存在だから消えてしまいたいと毎日思っていた数年前の私には、どの仕事も想像すらできないことばかりです。

 このようにALSは、24時間介護が必要な病気ではありますが、あえて良いところをあげると、第一に、だいたい何ヶ月後にこれができなくなるな、ということが分かるので、
 例えば福祉用具や、コミュニケーション方法、医療の問題を、周りの人に相談したり、自分で調べたりして、十分に準備できます。

 また、アタマは正常なので、パソコンがあれば、なんでもできますし、飛行機で海外や日本国内を飛び回って、仕事をしている人もたくさんいます。
 つまり今の時代、ALS患者は、無限に活動的になれるのです。

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