快筆乱⿇!masaが読み解く介護の今(40)「介護職なら誰でも採⽤」の事業者は消えていく

キャリアブレインマネジメント 2019年06⽉27⽇
【北海道介護福祉道場あかい花代表 菊地雅洋】

■殺⼈容疑の職員に適性判断をしていたのか
 東京都品川区の介護付き有料⽼⼈ホーム「サニーライフ北品川」に⼊居する82歳の男性利⽤者が、4⽉上旬に介護職員から暴⾏を受け、出⾎性ショックで死亡した。暴⾏したとされる職員は、5⽉下旬に殺⼈容疑で逮捕された。
 利⽤者の背中付近には暴⾏の跡があったほか、肋⾻も4カ所が折れ内臓にまで傷があり、暴⾏の程度は3階建ての建物からの転落にも相当するという。被害者は⼀時的に意識が戻った際に、次⼥に「若い男に蹴られた」と訴えており、犯⼈は強い⼒で蹴り殺したと思われる。残酷極まりないことだ。
 殺⼈容疑で逮捕された元職員は、系列の介護施設で4年以上の勤務経験があり、夜勤帯には「リーダー格」として業務に当たっていたという。しかし、前に勤めていた施設では仮病を使ったり、同僚の持ち物を盗んだりするなど、素⾏の悪さが問題視されていたとの報道もある。今回の施設には、キャリアアップを希望して⼊社した経緯があるそうだが、採⽤時や就業後の適性判断はしっかり⾏っていたのだろうか。
 介護事業所で起こる虐待の原因をストレスに求める向きがあるが、仕事にはストレスが付きもので、介護の職業が他の職業に⽐べて特別にストレスが⼤きいという根拠はない。⼈と向かい合う仕事だから、ストレスが利⽤者への暴⾔や暴⼒に直接結び付くのではと考えるのも短絡的過ぎる。現に虐待と無縁の介護従事者の⽅が圧倒的な多数派である。
 施設として何が間違っていたのかを考えると、「⼈の暮らしに深く介⼊する職業に向いているかという点で⼈選ができていない」「⼊職後の教育が適切にされていない」といったことではないか。
 対⼈援助の職業は、第三者の暮らしに介⼊する職業であるため、バイスティック※の7原則の⼀つである「統制された情緒的関与の原則」等を貫ける資質を持った⼈を選び、育てなければならない。求められるのは、常に「⾃⼰覚知」に努め、スキルを磨こうとする⼈材である。

※⽶国の社会福祉学者。著書「ケースワークの原則」の中で7つの原則を⽰している
■採⽤後も不適切対応のチェックが必要な職員も

 本件のような虐待事件がひとたび職場内で起これば、多額な損害賠償責任が⽣じるだけでなく、社会から批判され、事業継続の危機にもつながる。職員採⽤は慎重に⾏わねばならないし、採⽤後の適性の⾒極めや教育も適当では済まされない。
 しかし介護⼈材の不⾜が叫ばれ、決定的な対処法も⾒つからない今⽇、「介護事業経営の最⼤の課題は⼈材確保だ」と、応募者の適性検査も⼗分にせず、やみくもに採⽤する事業者も多い。そのこと⾃体が、経営リスクに直結すると⾔ってよい。昨今、介護事業所の職員によるさまざまな虐待が明らかになっているが、その根本的な原因は、適性に鑑みない採⽤と、教育システムを整えていない事業者が、知識と技術も⾝に付けさせないまま、現場に放り出しているからではないか。
 本来、対⼈援助の仕事は誰にでもできるものではなく、きちんと⼈を選んで教育する必要がある。数合わせのための採⽤はトラブルを⽣む。職員数が⼀時的に不⾜するのであれば、ベッドの⼀部休⽌や利⽤者定員の⾒直しなども⾏うべきだ。特にリーダーとなる職員に対する⼈権教育を徹底し、部下に対して利⽤者へのサービスマナーを徹底するよう指導しなければならない。マナー教育は虐待の防⽌にもつながっている。
 短期間で複数の職場を渡り歩いているような⼈は、⾯接時にどんなに好印象でも、採⽤は慎重にすべきだ。前職が介護職である場合は、⾯接時に聞き出した退職理由を鵜呑みにせず、試⽤期間中にしっかり⼈物を⾒極める必要がある。正式採⽤後も管理職を中⼼に、利⽤者に不適切な対応が⽣じていないか、チェックする体制をつくるべきだ。その上で不適切対応が疑われる職員なら、介護実務から外して再教育を⾏い、適性がないと判断した
ら転職を促すことも求められるだろう。これらは全てリスクマネジメントとして必要なことだ。
 とりあえず夜勤職員の数を確保しようと、数合わせに⾛る介護施設では、質の低い職員の指導に業務時間が取られ、疲弊して辞めていく職員が多くなる。そのような結果、夜勤職員を配置できずに休⽌に追い込まれる施設もぼつぼつ出てきた。
 ⾼齢化のピークが過ぎ、介護施設の需要が満たされ、供給過多になりつつある地域も出てきている。利⽤者も当然、こうした施設を避けるので、経営に⾏き詰まる所も現れている。

■⾼品質の追求と妥協のない教育が好循環を⽣む
 介護給付費の単価が下げられる中、介護サービス事業者にとって、アウトカム評価としての各加算を着実に算定し、顧客に選ばれ、利⽤者の確保に困らない組織・体制をつくることが最⼤の課題となっている。そのためには、⼈材がどのような場所に集まり、どのように育っていくのかを⾒据えて対策を⽴てるしかない。
 求⼈に応募してきた⼈は、とりあえず全員採⽤しようとする事業者では、⼈材は育たない。そこに居座る「能⼒のない職員」の存在によって、職場の環境は荒廃する。必要な⼈材が流出するだけでなく、施設基準を満たすための「⼈員」さえも逃げていくため、常に職員募集を⾏い、「誰でもよいから採⽤しよう」の傾向に拍⾞が掛かり、職場環境がさらに悪化するといった悪循環がひたすら続く。そんな介護サービス事業者は消えてなくなる
運命の途上と⾔ってよいだろう。
 経営理念を⾼く掲げ、他の追随を許さない⾼品質なサービスを⽬指し、妥協のない職員教育を⾏い、重度障がい者や認知症の⽅にも適切に対応でき、看取り介護でも⾼い評価を得られるような技術⼒を備えている施設は、地域住⺠から選択され、職員のサービスも洗練されていく。
 そうした職場であるからこそ、「⾼品質なサービスを実践したい」「⾃分の技能を⾼めたい」と考える有能な⼈材が集まってくるし、定着率は格段に上昇するといった好循環が⽣まれる。
 技術⼒やサービスマナー意識の低い職員がいても、⼈⼿を失えば収⼊が減るからと、そうした職員を排除できない介護事業者に、洗練された介護技術など持てるはずがない。このような場合、理念が空想化される傾向にあり、職場環境も良くならず、⼈員確保もおぼつかず、まともな経営などできなくなる。
 ⾼品質な介護技術を伴うサービスと、5つ星ホテル並みの職員教育をうまく融合させていく事業所があるとすれば、⽇本の介護の先頭に⽴つようになり、成⻑を続けられるだろう。
 ⽣き残りを懸けた事業戦略を真剣に考えるならば、事務職員の電話対応から、看護・介護職員の⾔葉遣いや所作まで、厳しい躾(しつけ)を⾏き渡らせる必要があることを、事業経営者は⼼すべきである。この部分に妥協が多過ぎるから、いつまでも経営者の⽬指す職場は実現できない。できない⼈員は辞めさせるしかないことを事業経営者は肝に銘ずるべきである。
 つまるところ、介護事業者は⼈だ。最新の介護ロボットを導⼊したとしても、⼈に恵まれなければ活⽤できず、倉庫でほこりをかぶることになる。⼈材確保と育成のためにこそ労⼒とお⾦を使うべきなのである。ただし実効性が⾒込めない⽅法、効果が出ない⽅法を漫然と続け、労⼒とお⾦をかけても“死に⾦”になるだけだ。経営コンサルに丸投げして、資⾦だけかけてもさっぱり⼈材問題が解決していないというのは最悪である。

菊地雅洋(きくち・まさひろ)

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