【福岡】留置17日間「まるで介護」 76歳、車椅子の万引容疑者

西日本新聞 2019/6/16

万引した疑いで現行犯逮捕された男が留置されていた福岡南署。1974年開設で老朽化が進む
 車椅子に乗った76歳のおじいちゃんを、体格のいい男が3人がかりで階段の上げ下げをする。脳梗塞を患い、足はほとんど動かすことができない。おむつを着け、トイレも入浴も男たちに“介助”をされていた。
 ここは介護施設ではなく、福岡市南区の福岡南署。おじいちゃんは5月5日、スーパーでの万引容疑で現行犯逮捕された。世話係は署留置管理課の警察官だ。
 当時、留置場にはほかに十数人の容疑者がいた。「臭いっ」。トイレへ移動させるのが間に合わず、何度も便を漏らし、苦情が出た。桜の香りのお香をたき、消臭剤と空気清浄器も置いた。
 刑法犯の5人に1人が65歳以上の時代。軽微な罪を繰り返す累犯も少なくない。逮捕した容疑者を一時置く留置場でも、10人に1人は高齢者。警察署はバリアフリーに程遠く、1974年開設の同署も例外ではない。介助が必要な高齢者や障害者を想定していなかった、という事情もある。
 刑務所出所後に自立支援のため福祉につないで再犯を防ぐ「出口支援」は進んだ。識者は施設の充実に加え、高齢者や障害者が軽微な罪を犯した場合、捜査段階で福祉と連携する「入り口支援」の必要性を訴える。
 昨年秋に刑務所を出所、さらに罪を重ね執行猶予中に万引をしたおじいちゃん。5月16日に起訴され、17日間留置場にいた。
 「まるで介護よ。やっと終わった」。署幹部はつぶやいた。

■要介護者の留置手探り 「福祉優先で再犯防止を」
 車椅子のおじいちゃん-。この男(76)はスーパーで電動車椅子に乗り、ちくわ2本とアイス1本を持ったまま店を出たとして現行犯逮捕された。2600円所持していたが、代金397円を支払わなかった。「金を使うのがもったいない」。こう供述したという。
 男は福岡市南区の木造アパートで長年1人暮らしをしていた。7年前に脳梗塞を患い、今年に入り車椅子生活になった。言語障害もあり、要介護1の認定を受けて生活保護も受給。アパートの取り壊しが決まり、次の住まいを探していた。近所の人は「お金がないわけではない。刑務所に戻りたかったのでは…」と推し量る。
 医師の「勾留に耐えられる」との判断もあり、裁判所は勾留を決定。福岡南署は介助が必要との理由で男を「特別に注意を要する者」に指定した。留置場の1人部屋で、プライバシーのための仕切り板を外し、目が届くようにした。
 規則上、留置場は警察官しか入ることができないため、17日間警察官だけで身の回りを世話した。「車椅子の容疑者は初めて。試行錯誤だった」(署幹部)
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 容疑者を起訴するかどうかの取り調べのために身柄を一時置く留置場は、拘置所や刑務所に比べて滞在期間は短い。刑務所では、バリアフリー棟などの設備も整いつつあるが、福岡県内の警察署にある留置場のトイレの洋式率は4割台。4月に開設した行橋署もバリアフリーではない。
 県警幹部は「身体障害がある容疑者の勾留はレアケース。そのために限られた予算を使うのは現実的ではない」。九州のほかの県警も同様で「個別の状況に応じた適正な処遇に努めている」と口をそろえる。
 一方、警視庁は2017年、バリアフリーで車椅子や介護用ベッドも持ち込める「介護用留置室」を、警視庁本部に開設。ベッドはその都度レンタルし、トイレは温水洗浄便座という。青森県警では16~18年、留置担当の警察官ら計約130人が障害者支援施設の職員から介護研修を受けた。
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 16年施行の障害者差別解消法は、警察を含む公的機関に障害を理由とする不便がないようにする「合理的配慮」を義務付けた。
 九州大の土井政和名誉教授(刑事政策)は「強制的に収容する以上は、留置場でも介護が必要な容疑者への人的配置や設備的対応を考える時期だ」と強調。
 「潜在的に介護が必要な人はもっといる。対症療法は本末転倒」。龍谷大の浜井浩一教授(犯罪学)はこう指摘する。ノルウェーでは高齢者が万引など軽微な罪を犯した場合、警察は勾留せずに医療や福祉の関係機関につないで受け皿を探すという。浜井教授は「本人のためにも新たな被害者を生まないためにも、犯罪の未然防止につながる同様の制度を作るべきだ」と提案する。
 罪を犯した障害者の支援に取り組む山西信裕弁護士(福岡)は「弁護士の要請に応じて、容疑者の接見に社会福祉士も公費で派遣する仕組みが必要」と訴える。

■勾留の要件満たさず
 警察実務に詳しいジャーナリスト大谷昭宏さんの話 男は微罪での現行犯逮捕で、証拠隠滅の恐れが低く、車椅子生活で逃亡の可能性もない。刑事訴訟法で定める勾留の要件を満たしていない。警察側は「万引の常習者で再犯の可能性が極めて高かった」と勾留の必要性を説明するだろうが、再犯可能性は裁判所が判断することで理由にならない。警察も逮捕・勾留ではなく、ケースワーカーや民生委員と連携し、地域の見守りによる再犯予防に取り組むといった福祉的な対応へと発想の転換が迫られている。

【ワードBOX】犯罪と高齢者
 法務省の犯罪白書によると、刑法犯で摘発された65歳以上の高齢者は1998年には1万3739人(高齢者の割合は4・2%)だったが、2008年は4万8805人(同14・4%)に増加。以後も高止まりし、17年は4万6264人で、高齢者の割合は21・5%と2年連続で2割を超えた。一昨年に摘発された高齢者の罪名別では万引が56・4%と最多、2人に1人は再犯だった。

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