【福岡】認知症と診断したのに…男性が車運転、医師が署に届け出

朝日新聞 2019年6月16日

「医師と警察の連携が大事」と話す権頭聖さん=2019年6月11日、北九州市八幡西区
 認知症と診断した60代後半の男性が車を運転している――。こんな情報を警察に伝え、事故発生のおそれを軽減させたとして医師の権頭聖(ごんどうきよし)さん(58)=北九州市戸畑区=に折尾署から感謝状が贈られた。「いかに早く認知症に気づいて対応するかがポイント。医師と警察が連携して問題に取り組むことが大事」と話す。
 権頭さんは北九州市八幡西区にある診療所「権頭クリニック」の院長だ。今月上旬、権頭さんをかかりつけ医としている福岡県内在住の男性が娘に伴われて訪ねて来た。男性は約3年前、権頭さんに認知症と診断された。
 「最近、父が車を運転して出かけたまま帰って来ないことがあった。どこにいるのかわからなくなったようで、地元の人のお世話になった。どうしたらいいでしょうか」。娘からそう相談された。
 権頭さんは、男性に運転免許証の返納を勧めたが「自分は大丈夫。運転はやめない」と拒まれた。認知症の診断書を書き、「警察に出して」と渡しても受け取ってくれない。認知症は運転に支障を来すおそれがある。「事故につながるのが一番怖い。このまま見過ごすわけにはいかない」と今月6日、折尾署に男性のことを届けた。
 2014年施行の改正道路交通法で、医師が認知症やてんかん、アルコール依存症などの患者が車を運転しようとするのを知ったとき、本人の了解を得なくても都道府県の公安委員会に届け出ることができるようになった。届け出は守秘義務違反に問われない。
 届けを受けた公安委員会は対象者に専門医の診断などを求め、免許の取り消し・停止が必要か判断する。
 この道交法改正は、栃木県鹿沼市で11年、てんかんの発作を起こした男の運転するクレーン車が、登校中の小学生の列に突っ込んで児童6人が死亡した事故などがきっかけだ。
 権頭さんの届け出について折尾署は、改正道交法で設けた新制度に基づくものととらえ、事故防止に貢献したと評価した。同署管内では初の届け出だった。ただ男性の免許がどうなるかはまだ決まっていない。
 同署は「今回のような情報を警察だけで把握するのは難しく、医師との連携を強めるきっかけにしたい。届け出制度の周知にも努めたい」としている。
 権頭さんは、ほかの認知症患者の家族からも相談を受けたことがある。「認知症の症状は少しずつ進行するので何かきっかけがないと自分では気づかない。その最初の『きっかけ』が重大事故にならないためにも、周りが早めに気づいてあげないといけない」と話す。
 一方で生活に車が欠かせない一人暮らしの高齢者が増えている。「免許がなくなることで生活が不自由になってしまっては問題だ。地域でどう支えていくかも考えないといけない」と権頭さんは指摘した。
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 医師からの届け出制度は一定の成果を上げているようだ。警察庁によると、制度が始まった14年の届け出は全国で119件あり、うち運転免許の取り消し・停止は33件だった。届け出は年々増えており、18年は255件で、うち取り消し・停止は99件に上る。

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