【群馬】たまゆら10人死亡火災から10年 困窮する高齢者は
朝日新聞 2019年3月19日
入居者10人が犠牲となった群馬県渋川市の高齢者施設「静養ホームたまゆら」の火災から19日で10年。犠牲者の多くは、東京都の生活保護を受けて暮らす身寄りのない困窮者。そしていまも都内から、群馬を含む地方に困窮者が紹介されてくる。あぶり出された実態は変わっていない。 「身内もいないし、地図で見たら、近くにコンビニがあったので、ここでいいかと思った」。東京都の生活保護を受けながら、7年前から渋川市中郷のサービス付き高齢者住宅で暮らす男性(74)は、入居を決めた理由をこう話す。 福島県郡山市出身。母子家庭で5人きょうだいの末っ子だった。20歳で上京、トラック運転手を経て建築現場のとび職に。40年余り続けたが、65歳を境に仕事が激減し、貯金も底をついた。住んでいた東京都大田区に生活保護を申請した。 その直後にくも膜下出血で倒れた。足が不自由になり、区から今の住宅を紹介された。群馬はトラックで通過したことがあるだけで、訪れたのは初めて。 男性は住み心地を「まあまあかな」という。小説を読んだり、テレビを見たりして過ごす。大きな不満はないという。 15平方メートルの個室で、介護費や医療的ケアなどを除いて月約10万円。生活相談や職員の見守り、食事が付く。定員22人は満室で、ほぼ半数が生活保護受給者だ。7人が都の紹介で入居した。 運営する「ワールドステイ」によると、都の紹介で入居する高齢者の多くは、都内の特別養護老人ホームへの入所を希望。「空きを待つ間の一時的な住まい」という認識で渋川に住むが、いつ都内に戻れるか不明だ。施設長の草野正行さん(61)は「なるべく個々に合った接し方をし、楽しく生活してもらえるよう心がけている」と話す。 都の2014年9月現在の調査では、都外の高齢者施設に住む生活保護受給者は約3800人に上る一方、都内の施設は約1300人。5人のうち4人が都外にいる計算だ。群馬の施設は、このうち969人を受け入れている。 都によると、調査から5年たった現在も状況は改善されていない。墨田区だけでも昨年10月現在で生活保護の高齢者465人のうち310人が都外の施設に入居。群馬には29施設114人がいるという。
高齢者の住まい「本気で取り組みを」 「私の存在が周囲を害し、迷惑を及ぼした。責任は私1人にある」と、静養ホームたまゆらを運営していたNPO法人(解散)の高桑五郎元理事長(94)は語る。 火災後は近親者の支援を頼りに月4万円の国民年金で暮らしたが、それも難しくなり、昨年3月から生活保護を受給する。家賃月1万8千円の前橋市内のアパートで1人で暮らし、家族とも音信不通だ。外出は通院くらいという。 前橋市中心部の裕福な商家出身。約40年前に障害者の授産施設の運営を始めたのをきっかけに福祉に関わるようになった。当時の群馬県北橘村(現渋川市)の要請もあり、「福祉の里づくり」を掲げて施設の建設や運営に身を投じた。その一つが、たまゆら。2000年に立ち上げた施設は、次第に生活保護受給者が主な入居者となっていった。 深く刻まれている記憶は、行き場のない人たちの姿だ。都内で受け入れを拒まれた高齢者を伴った親族が役所の職員と訪れて「本当に預かってくれるのですか」と懇願してきたり、障害のある高齢者を連れてきた親族が「縁切りだ」と言い残して去ったり。 要望されれば受け入れを断らなかった。入居者が増えすぎて介護に手が回らず、施設を広げるための増改築は自身で大工仕事をした。結果的にケアも安全対策もおろそかになり、惨事につながった。 「高齢弱者救済を標榜(ひょうぼう)してきたが、夢は破れた」と高桑氏。「ほとんどの施設はお金がないと入れない。高齢低所得者の住まいは重い課題が突きつけられたまま。国や自治体に本気で取り組んでもらいたい」と話す。19日には、高崎市内にある慰霊碑を訪れ、冥福を祈るつもりだ。 たまゆらに住んでいた男性(89)は、火災後に東京都墨田区に戻った。NPO法人が運営するケア付き住宅で暮らす。 「みんないい人たちばかりだし、良いところだよ」と男性は話す。 若い頃は、清掃会社に勤務したが、高齢になって認知症になり、一人暮らしが難しいと区役所に相談。生活保護を申請し、たまゆらを紹介された。火災が起きたのとは別の棟に住んでいて、命拾いをした。 認知症が進んだ今、たまゆらに住んでいたことも覚えていない。法人の職員は「本人にとってはむしろ良かったのかもしれません」と見守る。(上田学)
<NPO法人「自立支援センターふるさとの会」常務理事、滝脇憲さんの話> たまゆらの火災をきっかけに、無届けの老人施設は問題があり、行政は施設をしっかりと監督すべきという認識は定着した。だが、問題の根本は低所得で独り身の高齢者が都内で住み続けるための住まいの不足だ。 私たちの会では空き家や簡易宿泊所を丸ごと借りて「支援付き住宅」を運営している。職員が常駐して見守り、食事や就労など生活全般を支援。地域活動にも参加し、支え合って暮らすことで社会とのつながりが生まれている。 こうした支え合いを促す仕組みが広がれば、膨大な公費で施設を整備しなくても、低コストで効果的な地域包括ケアシステムの社会資源を作ることにつなげられる。広さなど施設基準を厳しくしすぎると整備の障壁が高まり、かえって居場所を失う人が生まれかねず、慎重に検討すべきだろう。
<静養ホームたまゆら火災> 2009年3月19日午後10時半すぎに渋川市北橘町八崎のホームから出火、55~88歳の男女10人の入居者が死亡した。うち7人が東京都の生活保護受給者。施設運営法人(解散)の高桑五郎元理事長(94)は業務上過失致死罪に問われ、13年1月に有罪判決を受けた。判決は、避難に介助が必要な入居者が多いのに夜間当直が1人だけなど防火管理上の注意義務を怠ったと指摘する一方、「生活困窮者らの社会的弱者を救いたいと志し、かなりの私財を注ぎ、低廉な料金で生活の場を提供してきた。十分な資金的余裕がありながら防火管理を怠ったというわけではない」とした。
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