目でパソコン操作「生活変わった」 難病の小4が描く夢

西日本新聞 2018/12/19

難病のため指先しか動かず、声が出せなくても、福岡県立福岡特別支援学校小学部4年の廣田琉花さん(10)=同県古賀市=は、目の動きでパソコンを操作し、周りと自在にコミュニケーションし、絵描きや書も楽しむ。小1のときに「視線入力装置」に出合ったからだ。作品は社会福祉法人・日本肢体不自由児協会などが主催する本年度の「肢体不自由児・者の美術展」で特賞などを受賞し8日、自宅で表彰された。「周りのサポートと情報通信技術(ICT)のおかげで生活の質が変わった」。母の愛さん(40)は目を細める。

【写真】小4の琉花さんが視線入力装置で描いた「すいか」

 「きょうの算数は、直方体の面や辺を調べましょう」。5日、琉花さんは同校教諭の権藤朱乃さん(25)から訪問の授業を受けていた。

「生活になくてはならないもの」

 ベッドにあおむけの琉花さんの目線の先には大きな24インチのモニター。直方体の立体映像がポインターに合わせてぐるぐる回る。「琉花さんが視線で動かしているんです」(権藤さん)

 モニター下部に外付けされた細い横長の視線入力装置が視線を読み取ってポインターを動かす仕組み。じっと見つめるだけでも入力が可能だが、琉花さんは目の負担を避けるため、ノートパソコンと接続した専用のスイッチを併用。右手の指で押してクリックする。画面上に五十音の文字盤を出し、周りに言葉を伝えるほか、長文の日記も書く。絵や書は専用のソフトで筆先を換えながら描く。

 当初は娘が使えるのか「不安もあった」という愛さん。今は「生活になくてはならないもの」になった。

意思が伝わらず、違う…と泣き続ける娘の姿

 自宅暮らしの琉花さんは生後6カ月のとき、徐々に筋力が衰える難病の脊髄性筋萎縮症と診断された。4歳で人工呼吸器を常時着けるようになった。知的な遅れはないものの、愛さんは医師から「体の中に精神が閉じ込められる過酷な病気」と言われ、衝撃を受けた。「おなかすいた? おむつ替える?」-。問い掛けにまばたきなどでイエス、ノーを伝える方法を教えたが、琉花さんの具体的な欲求を理解するには限界があった。なかなか意思が伝わらず、違う…と泣き続ける娘の姿に途方に暮れた。

 病気に関する本を読み、まず五十音の文字盤と液晶画面が付いたスイッチ式の意思伝達装置(レッツチャット)の存在を知った。指の弱い力でも押せるスイッチを探し、試した。訪問リハビリの作業療法士や業者の協力もあり、琉花さんは3歳でレッツチャットを使い「苦しい」「たんを吸引して」など、意思を伝えられるようになった。

「伴走してくださる方々に恵まれていた」

 視線入力を勧められたのは特別支援学校に入学してから。たまたまICTに詳しい教諭がいたのが幸いだった。レッツチャットは選択したい文字が五十音順に表示されるのを待つため入力に時間がかかるが、視線なら直接、入力が可能。慣れると操作が速くなり、書ける文字数も増えた。

 かつては約150万円と高価だった視線入力装置も、今は安価なものが普及。パソコンやモニターなどを含めても35万円程度で、自治体からの補助もあり導入には1割負担で済んだという。今は国語、算数、理科、社会などの授業を受け、視線入力用の教材を“自作”してくれる先生も。

 「パソコンとかソフトとか、昔は意味も分からなかった」愛さん。「伴走してくださる方々に恵まれていた」と感謝しつつ「ツールさえあれば意思疎通できるお子さんもいるかもしれない。ICT機器は日々進歩しており、アンテナを張って情報を得ようとする姿勢も大事」と考えている。

    ◇   ◇

 美術展には夏休みの宿題として描いた「すいか」の絵と、書の「花火」を応募。絵は「コンピュータアート」部門で計65点の中から、特賞の「全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会賞」に、書は「佳作賞」に選ばれた。8日は審査員を務めた日本福祉大教授の金森克浩さん(57)から賞状や金色のメダルを手渡され、琉花さんは視線入力で「うれしいです」と感想を述べた。今年は視線入力による作品が目立ったという。展示会は全国各地であり、福岡市役所とアクロス福岡(同市・天神)でも来年3月4~10日に開かれる。

 将来指の力が衰えたとしても、視線入力ならスイッチなしでも操作できる。琉花さんの夢は「お花屋さん」になること。可能性を信じ、母娘は今後もさまざまなことに挑戦し続けるつもりだ。

西日本新聞社

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