慶大ベンチャー大賞受賞作の「出来栄え」健康・医療ビジネスで一旗揚げる若者たち

医薬経済 2018/12/15

 12月2日、慶應義塾大学医学部が主催する「健康医療ベンチャー大賞」が開かれた。「慶應大学医学部からベンチャー100社創出」を目標にスタートし、今回で3回目。大学院生を含む学生と、社会人から健康と医療に限ったビジネスプランを募り、2度の審査を勝ち抜いた学生部門3チームと社会人部門3チームが観覧者の前で事業を説明。審査員による選考で大賞を決定する決勝大会である。優勝金は学生部門が30万円、社会人部門には100万円が授与される。

 第1回大会では学生部門は慶大の学生に限り、社会人部門ではチームに慶大出身者が加わっていることが条件だったが、2回目からは条件を撤廃。他大学の学生も参加できるようになり、まさに慶大によるベンチャー育成イベントだ。
 慶應義塾と言えば、〝有力官僚が補助金事業付きで天下っている〟なんていう陰口もあるが、健康医療ベンチャー大賞は「創立者の福沢諭吉先生の『実学の精神』『独立自尊』の精神に則り、大学発ベンチャーの成功で公的補助金をゼロにできる財政基盤をめざす」と崇高な目標を掲げている。果たして今年はどんな内容のベンチャーが大賞に輝いたか――。

大会「掛け持ち」の猛者も
 過去2回は東京・三田キャンパスで開かれたが、今回は東京・日本橋での開催。広く知られるようになったせいか、応募したビジネスプランは前回2回目を大きく上回る104チーム、会場には200人を超える観覧者が集まり、盛大だった。
 ともかく、持ち時間5分のプレゼンテーションを行った6チームのプランを紹介する。
 学生部門のトップバッターは慶大医学部5年生がチームリーダーの「METRIKA(メトリカ)」と名付けたAI介護システムだ。介護施設内の各所に設置したカメラで入所者の日常生活を撮影、その情報をAIが解析し、運動機能や転倒リスクを自動算出して介護者に知らせることで、入居者の転倒リスクを防止するとともに、介護スタッフの動きもAIで解析して仕事の無駄をなくすこともできるAI見守りシステムである。
 目玉はGPSを使う監視カメラではなく、カメラに付属した計算機内のAIによる解析を行う「エッジコンピューティング技術」を利用する点だ。すでに老人ホームで実験し、入所者の転倒予防と、負担の大きい介護スタッフQOLを改善し離職を防げることを確認したという。付け加えれば、介護スタッフによる入所者への暴力行為も防げそうだ。エッジカメラは10万円ほどで、190億円の市場が見込めるとも説明する。

 2番手は明治大学大学院生が設立した有限会社「魔法アプリ」の「VR(バーチャル・リアリティ)を用いた不安障害等暴露療法ソフトウェア開発」事業。一部の精神科医で行われているが、精神疾患の治療技法である暴露療法をVR空間上で行うソフトウェアを開発し、医療機関に販売するというビジネスプランである。暴露療法はまだ日本では普及していないし、世界でも米国、スペイン、リトアニア3ヵ国しかない。しかも日本人患者向けのソフトがなく、商機は十分あると訴える。

 3番目のプレゼンは「誰もが命を救える社会へ~やってくるAED」と題した慶大総合政策学部1年生チームの「AEDi」と名付けたプロジェクト。メンバーの祖父が心停止で亡くなったことが発端だそうだ。AEDは各所に設置されたが、現実は心停止発生時にAEDがどこにあるかわからず、ようやく見つけて持ってくるのに9分もかかり、救急車の到着とほぼ同じ時間になっているのが実情。そこでAEDにタブレットを装着することで、119番通報すると、最も現場に近いAEDがブザーを鳴らすことで付近の第三者がAEDを現場に運搬できるというシステム。実際に実証実験をしたところ、AED到着時間は2分31秒に短縮できたという。
 どれも素晴らしいアイデアである。しかも各チームとも実際に実験したうえでの成果を誇っているのには感心する。

 一方、社会人部門のトップバッターは慶大大学院生の「Flora Assistant」。目下、話題の腸内細菌に関するもので、アスリートの大便を集め、そこから得られる腸内細菌情報を翻訳し、身体の中からの声を『代弁』すると謳う。スポーツジムやアロマサロン、食品会社などと提携し、健康への介入法からフォローアップまで助言し、健康増進にコミットすると謳うビジネスだ。
 2番手は名古屋大学発の株式会社「Icaria(イカリア)」チームの「尿検査による肺がんの高精度診断」システム。がん診断バイオマーカーとして注目される尿中のmi(マイクロ)RNAに着目したもので、ナノワイヤを使用し、miRNAプロファイルを機械学習させた独自のデバイスで、ごく少量の尿から効率的にmiRNAを抽出、分析する診断法だ。デバイスはすでにプロトタイプが完成しているそうで、がん患者と健常者の尿検体100個ずつで行った診断アルゴリズムは正答率98%を記録したという。線虫を使ったがん診断と違い、こちらは何のがんなのか、まで診断できる優れモノだと強調する。
 トリを務めたのはエンジニアの若者が薬剤師の妻と共同で完成させた「アトピー見える化アプリ『アトピヨ』」というアトピー専用の画像SNSアプリである。アトピー特有の皮膚症状の画像を匿名でSNSに投稿することで、長期治療経過を見える化できるし、患者同士で悩みや症状の共有ができるそうだ。7月下旬にリリースしたところ、3週間で1000を超えるダウンロードがあり、73のメディアで紹介されたという。
 患者会のような気がしないでもないが、アトピー患者数は日本の人口の5%、600万人もいるそうで、その患者の1%に該当する6万人が専用アプリ「アトピヨ」の対象になるそうだ。
 総じて学生部門はもちろん、社会人部門でもスマホを利用するベンチャービジネスものが多いのが目につくが、それも今風なのかもしれない。
 それはともかく、健康医療大賞に輝いたのは、学生部門ではメトリカのAI介護システム、社会人部門ではイカリアの尿検査による肺がんの高精度診断だった。ちなみに、会場では観覧者の投票によるオーディエンス賞を授与するが、この賞でも受賞したのはメトリカとイカリアだった。誰の目にも審査員と同様、より優れたビジネスプランと映ったようだ。
 もっとも、講評でも言われたが、今どきの学生は壇上でのプレゼンが上手だったし、加えてビジネスに拘ったのか、既存の技術で容易に実現できるプランが多かったのも印象的だ。
 苦言を呈すれば、時事通信が主催する「キャンパス・ベンチャー・グランプリ」という学生ビジネスコンテストがあるが、学生部門のプランには、このコンテストで奨励賞を受賞したものも登場した。ベンチャーはより多くのカネがいるから、各種のベンチャー大会に重複出場するのも頷けるが、主催者にとってはどんなものだろうか。
 それでもこの手の催しは多いほど励みになる。全国の大学のなかで単独で主催できるのは慶大くらいしかないようだし、大いに前途を期待できる。

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