医療・介護業界 事業承継・M&A⼊⾨(2)ネットで会社売れる仕組みで、中⼩の事業承継に道筋

キャリアブレインマネジメント 2018年11⽉30⽇

 「インターネットで会社が売れる仕組み」を国内で初めて⽴ち上げたという株式会社トランビ(東京都港区)は、中⼩企業でも第三者に会社を引き継げることに道筋をつけた。
 同社のウェブサイトには、飲⾷、システム、⼩売、メーカー、建設、宿泊、教育、⾦融など、あらゆる産業からM&Aの案件が集まってくる。
 医療・介護の案件も扱われており、「デイサービスの事業譲渡」「調剤薬局の事業譲渡」「診療所第三者承継」といったタイトルが並ぶ。買い⼿を求める案件は700件を超え、医療・介護だけでも100件程度が掲載されている。案件はノンネーム情報(会社名が特定されないように概要を要約したもの)で掲載されており、誰でも登録せずに閲覧できる。中⼩にもM&Aが広がってきた意味について、⾼橋聡社⻑に聞いた。
 M&Aというと、⼤企業同⼠が結び付くものといったイメージもあるかもしれないが、トランビが提供するM&Aマッチングサービスの利⽤者の多くは中⼩企業や個⼈だ。
 前回、経営者の引退が迫る中、規模の⼩さな企業では特に、事業の引き継ぎが難しくなっていると説明したが、⼩規模企業でも、親族や従業員以外の「第三者」が会社を引き継ぐケースが増えている。
 ⾼橋社⻑は、⽶国の⼤学を卒業後、東京でコンサルタントをしていたが、2005年に⻑野市にある実家の製造企業を引き継いだ。周囲に⿊字でも、世界で唯⼀の技術を持っていても、廃業していく企業があることに驚いた。そのような企業を引き継ぎたいと、M&Aの仲介企業に相談もしてみたが、⼿数料は最低2000万円からと⾔われ、⼩規模企業は対象にならないことを知った。
 そのような中、⾼橋社⻑は⽶国にあるM&Aのプラットフォームサービスの存在を知る。会社を売りたい経営者がネットで広告を出し、買い⼿を募る仕組みだった。これをヒントに、ネットを介して、売り⼿と買い⼿をマッチングするサービスを11年にスタートした。
 ⽇本には、企業が約380万社あるが、そのうち約85%は⼩規模企業(個⼈事業を含む)だ。M&A仲介事業者は、年商3億円以下の企業などは⼿数料に⾒合わないために扱わず、第三者承継の市場は存在しなかった。
 トランビはインターネットを介し、買い⼿を⾒つけ、交渉を始めるまでの費⽤と時間を抑えた。成約した場合、買い⼿から譲渡⾦額の3%の⼿数料を得るモデルだ。

図 ⼩規模M&Aマーケットの現状と⽅向性 クリックで拡⼤
 未来投資会議構造改⾰徹底推進会合「地域経済・インフラ」会合(中⼩企業・観光・スポーツ・⽂化等)(第2回)
配布資料「中⼩企業・⼩規模事業者の⽣産性向上について」より
 通常、M&Aの仲介事業者に売却の相談があった場合、「アタックする買い⼿の候補選定」→「営業」→「買い⼿候補の絞り込み」→「売り⼿企業名を買い⼿候補に開⽰(ネームクリア)」などの過程を経て初めて、売り⼿と買い⼿の交渉が始まる。この過程で2、3カ⽉を要することも多く、⼿数料の⾼さの要因にもなっているが、トランビでは掲載から10⽇以内で、平均11社の買い⼿と交渉を開始できるという。

■⼩さなM&A繰り返し、経験値を上げていく
 ⾼橋社⻑は、⽇本ではM&Aはネガティブなイメージがあると指摘する。会社が買われると「あそこは失敗した」と⾒なされることもあるが、「会社を買ってもらえるのは、外部から価値が認められたこと。本来は『成功の証し』のはずだ」という。
 実際、中⼩企業では、息⼦が会社を継がないことが多い。他の会社で不満なく仕事をしている息⼦を呼び戻しても、本⼈が「やりたくないのにやらされている」という感覚では、その後のかじ取りも難しくなる。
 しかし、外に⽬を向ければ、「その事業をやってみたい」という⼈は多く、経営を⽴て直す⾃信があれば、会社が⾚字でも、債務超過でも引き継ぎたいと考えている経営者もいる。
 ただ、M&Aの経験がある経営者はまだ少なく、M&Aの専⾨家に任せさえすれば、適当な“物件”を持ってきてくれて、その後も安泰と考えている場合も少なくないという。M&Aは、会社を買った後が本当の勝負になる。
 ⾼橋社⻑は、買った後に会社を伸ばせる経営者を増やす必要があると訴える。そのためには、M&Aを⾏い、事業に挑戦できる機会を増やした上で、より規模の⼤きな企業にチャレンジできる環境が望ましいという。
 医療・介護分野のM&Aは、他産業と⽐べて特徴はあるのだろうか。
 ⾼橋社⻑は、介護は他の業界からも参⼊が多く、トランビでも活発な分野の⼀つと話す。医療法⼈に関しては、医師の要件があり、他産業からの参⼊はなかなか難しいようだ。ただ今後は、医師としてのキャリアをスタートする⼈や独⽴を考えている勤務医などが、M&Aを検討することも増えるとみている。
 薬局に関しては、同社サイトに11⽉27⽇時点で17件の案件が掲載されており、参⼊は今後も増えていきそうだ。

■クリニックが温泉旅館をM&Aする理由
 M&Aの最終的なゴールを尋ねると、⾼橋社⻑は「経営が良くなること」と強調する。コストダウンを⽬的にM&Aを⾏う企業も多く、まずはそこから経験を積んでいくのもいいと話すが、M&Aが本領を発揮するのは、A社とB社が結び付くことで、まったく新しい価値を⽣むことだという。
 実際、異業種から思いも寄らないオファーが来る。
 先⽇、東京のクリニックが、⻑野県の温泉旅館の買収に興味を⽰した。理由は⾼級⼈間ドックの運営にあるという。旅館だけでは限界があったのが、⼈間ドックを組み合わせることで、顧客に新たなサービスを提供できるだけでなく、1泊当たりの単価を⼤きくアップできる。⾼橋社⻑は、買い⼿側の発想⼒が試されると話す。
 ネットを通じたM&Aのマッチングは、企業の発想⼒を広げたのではと尋ねると、⾼橋社⻑は、「経営は、発想⼒次第でどんな展開でも考えることができる。本来とても楽しいものであるはずだ」としつつ、⼿掛ければ⼿掛けるほど苦労する雰囲気がある現状を残念に思っている。そして、M&Aも企業成⻑のための選択肢の⼀つとしながら、新たな分野に取り組んでシナジーを⽣んだり、経営者として経験を⾼めていくことを検討・実⾏したりするなどして、もっと楽しんではどうかと話す。

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