介護保険 改悪 自己負担「2割→3割」 高齢者は怒濤の負担増

サンデー毎日 2018年9月20日

 8月から、一定額以上の所得がある人の介護サービス利用料の自己負担が「3割」となった。10月からは、訪問介護の「生活援助」の利用回数が制限される。保険料は上がり続けるのにサービスは縮小し続ける。矢継ぎ早の改悪が高齢者の暮らしを直撃する。

生活援助の回数制限 認知症の人が在宅で暮らせなくなる
 ホームヘルパーが、認知症の人や1人暮らしの高齢者宅を訪れて、掃除やゴミ出し、調理など日常生活を支援する介護保険のサービスを「生活援助」と呼ぶ。10月から、この生活援助の多数回利用に制限が設けられる。要介護度に応じた回数は左の表の通りだ。
 神奈川県のホームヘルパー朋子さん(仮名、47歳)は、月に約60回生活援助を利用している79歳女性(要介護3)を担当している。
「回数が制限されると、せっかく整えた生活環境が乱れ、利用者さんの認知症が進んでしまう」と心配する。
 朋子さんが担当する女性は1人暮らしで軽い認知症がある。腰の痛みも強いため、テーブルやテレビなどを支えにしながらゆっくりと立ち上がり、四つん這(ば)いになってトイレまで移動している。
「2年半ぐらい前に初めて訪問した際は、ドアを開けるとコバエが飛び交い、畳の上は衣類や食べこぼしの弁当がひっくりかえっている“プレゴミ屋敷”状態でした」(朋子さん)
 朋子さんは、女性がデイサービスに行く日などを除いて1日3回「生活援助」に入り、徐々に片付けていった。認知症の人の場合、ヘルパーがやみくもにモノを捨てると「盗んだでしょう」と妄想が出ることが多いため、「これはゴミですか?」「捨ててもいいですか?」と一つずつ確かめながら部屋を片付けていった。生活の場が整っていくと室内で転ぶことも少なくなり精神的にも安定してきたという。
 「冷蔵庫には5年以上前の食べ物がぎっしり詰め込まれていて、以前は腐ったものを口に入れてお腹(なか)を壊すことも多かったようですが、配食弁当や私が調理するもので決まった時間に食事をとるようになると、低栄養状態が改善されて顔色も良くなってきました」(同)
 だが、10月から新しい基準になると、要介護3の場合「43回」以上は事前に届け出が必要になる。月43回というと1日1回程度だ。
「せっかくここまで心身の状態が良くなり、本人の望みどおり、家での生活が維持できているというのに……」と朋子さんは心配する。
 生活援助の多数利用を最初に問題提起したのは財務省だ。昨年10月の財政制度等審議会の分科会で、生活援助サービス利用者約48万5000人の1人当たりの平均回数は月10回程度なのに、月31回以上が約2万5000人いる、と指摘。なかには100回超の例もあり「効率的なサービス提供が行われていない可能性がある」と断じた。
 介護現場からは「複数回の生活援助があるからこそ、在宅生活が何とか持続できている実情を理解していない」と反発の声が一気に広がった。東京都内のケアマネジャーの水下明美さんもこう話す。
 「認知症や高齢者の人は、宅配弁当を届けてもらっても食卓まで運んでセッティングしないと食べることができなかったり、時間の感覚がないため人に促されないと食べないケースがあります。1日3回は難しくても、2回は生活援助に入らないと脱水になったり低栄養になったりするリスクもあります」
 1日2回の生活援助だと月に60回、3回なら同90回以上の訪問となる。その回数を国は多すぎるというのだが、月に100回といっても1日3回だ。
「命に関わる薬を含め、多くの利用者は1日3回の服薬を医師に指示されています。認知症の人の場合は飲んだか飲まないかを忘れてしまいがちなため、食後に服薬援助が必要なケースが多いのです。また、生活援助の回数が多い利用者は、ほとんど独居の方です」(水下さん)
 生活援助は、在宅で介護を受けながら暮らす人にとってまさに“命綱”なのだ。それが制限されるとどうなるか。
 「自費でサービスを受けるか、介護施設を考える選択肢もありますが、介護施設への入所は在宅よりお金がかかり、別居する家族の費用負担も増え、経済的に困窮してしまうリスクがあります」(同)
 10月以降、基準の回数以上の生活援助中心型の訪問介護を提供する場合、ケアマネジャーが事前に市区町村へケアプランを届けなければならない。届け出たケアプランは保険者(市区町村)がチェックし、医療や介護の多職種による「地域ケア会議」で検証し、「不適切」と判断されればケアプランの是正を求められる。介護保険制度に詳しい伊藤周平・鹿児島大法科大学院教授はこう話す。
 「地域ケア会議が“査問”のような場になりかねず、最初から上限を超えないようにプランを作成する“自主規制”が広がる恐れがあります。そもそも市区町村が利用回数をチェックするのは介護保険制度の基本理念である利用者の自己決定、自己選択に反します」
 「施設から在宅へ」を掲げ、認知症の人も地域で暮らせることを目指している国の施策とも逆行している。

2割から3割へ自己負担拡大 サービス利用断念や施設退所が増える!?
 7月下旬から介護保険利用者に届いた「負担割合証」。そこに「3割」と書かれた人たちが出てきている。
 東京都世田谷区のAさん(87歳、要介護1)にも3割の通知が届いた。Aさんは97歳の姉(要介護3)と2人暮らし。収入は姉妹2人の年金を合わせて約20万円。そこから医療費や介護費、食費など約16万円を支払う。姉はデイサービスやショートステイなどを利用している。
 生活費や老朽化した自宅の修繕費に充てるため、Aさんは昨年、生命保険を解約したという。担当ケアマネジャーの青柳浩司さんはこう話す。
「1割負担が3割に跳ね上がったのは、おそらく、解約した保険金が所得とみなされたためだと思われます」
 Aさんは一人で買い物に出かけるのに不安が出てきたため、訪問介護の生活援助サービスを利用しようと考えていたところだった。1回300~400円の生活援助の利用料は3割負担になると3倍の1200円になる。この姉妹に限らず、青柳さんが所属している事業所の在宅サービス利用者108人のうち、5~6人が3割負担になったという。
 「サービスの利用回数を減らしたり中止したりすると、1人暮らしや老老介護の場合、生活が立ちゆかなくなるため『負担が増えても利用する』という方がほとんどです。ただ、すべての人が負担に耐えられるか……。必要なサービスを諦めざるをえない人が出てくるでしょう」(青柳さん)
 8月のサービス利用料の請求が届くのは9月中旬以降。請求書を手にして中止や削減を申し出る人が出る可能性があるという。
 2000年の介護保険制度の開始以来、利用者の自己負担は一律「1割」だったが、15年8月に「2割」が導入された。さらに今年8月からは、2割負担になった人のうち、現役並みの所得がある人は「3割」に引き上げられた。「3割」の対象になるのは、単身者の場合340万円(年金収入だけの場合は344万円)以上、夫婦世帯で463万円以上の人だ。

収入だけでは見えない経済状況
 石川県金沢市の社会福祉法人「やすらぎ福祉会」では特別養護老人ホーム(特養)入居者や居宅介護サービス利用者で、3割負担になった人が合わせて22人出てきているという。同会の酒井秀明専務は言う。
 「7月まで1割負担だったユニット型個室の特養に入っていた人が8月から3割になり、食費や居住費合わせて約13万8800円から20万2480円に跳ね上がりました。毎月約6万4000円のアップは年間にすると約80万円。相当な負担増です」
 特養は自己負担額が安い介護施設で人気が高いため、入居まで何年も待機となるが「終(つい)の住処(すみか)」と考え、安心している人が多い。
「しかし月20万円を支払うとなると、民間のサービス付き高齢者住宅などに移ったほうがいい、という話にもなりかねません」(酒井さん)
 在宅介護の人も3割負担の打撃を受ける。やすらぎ福祉会のデイサービスや訪問介護、配食サービスなどを利用しながら1人暮らしをしている認知症の人は、月8万4700円(2割)だった支払いが3割になり、食費も含めると11万8200円となった。
 「在宅生活は施設での負担のように介護費用ポッキリではなく、おむつ代や食費などの費用も別途かかりますから、毎月10万円の自己負担は重すぎます。在宅介護の限界点を高めることを国は推進しているのに、自己負担が拡大していくと、逆に在宅生活の破綻を招きかねません」(同)
 高収入の人に応分の負担をしてもらうのは仕方がない、という意見もあるが、一律の線引きは、ギリギリで生活している家計を追い詰めることになる。年金収入としては高くても、妻も介護が必要だったり、働いていない子を親の年金収入で養っていたり、家計の経済状況はさまざまだ。酒井さんもこう話す。
 「特養に入っている方で、アパートや駐車場などの不動産の賃貸収入があるため3割負担になった方がいます。アパートも部屋が埋まっていればいいですが、空き室があるなかでローンの返済もあると可処分所得が少なくなり、苦しくなります。所得にかかわらず、誰もが安心してサービスを利用できるのが社会保障の原則のはずです」
 3割になるのは利用者全体の3%弱の約12万人で「相対的に負担能力の高い人」と厚生労働省は説明するが、中野共立病院院長で全日本民主医療機関連合会(民医連)前副会長の山田智さんはこう話す。
 「そもそも2割負担を導入して、どのような困難が生じ、利用者や家族を追い詰めているのか、詳しいフォローアップ調査がされていないことが問題です」
 山田さんの施設も所属する「21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会」(21・老福連)の調査によると、15年改定の影響で特養の利用者1933人の半数の813人に影響があったと回答し、配偶者の生活苦311人、利用料支払い滞納206人、支払い困難を理由にした施設退所が101人もいた。
 退所した人は在宅に戻ったのか無届けの施設に入ったのか―。
 「そうした実態を十分検証することなく3割が導入されたことが問題なのです」(山田さん)
 自己負担が高額になった場合、一部が払い戻される「高額介護サービス費」制度がある。現役並みの所得がある人が世帯にいる場合の負担上限額は4万4400円(世帯)だ。ただ、この額も今年7月までは3万7200円だった。7200円の負担増だ。

上がり続ける介護保険料 滞納で差し押さえ1万人突破
 介護保険料が高齢者の家計を著しく圧迫している。
「年金が減っていくなか国保料や介護保険料がじわじわ上がり、家計が破綻しそうだという電話相談があります。食事を削ったりアルバイトをしたりして保険料を捻出している高齢者もいます」(中央社会保障推進協議会)
 直近の第7期(2018~20年度)の全国平均の介護保険料は月額5869円で、制度開始時(2000年)の2911円の倍以上に。25年度には全国平均額が8200円まで上がると推計されている。
 保険料滞納者も増えている。厚労省の発表によると、16年度の1年間で保険料を滞納し、543自治体で1万6161人が差し押さえ処分を受けた。前年度から2790人増で、調査が始まった13年度以降で最も多かった。
 65歳以上の介護保険料は年金から強制的に天引きされるが、年18万円以下の人は納付書で自分で納める。年18万円といえば1カ月の年金額にして1万5000円以下だ。そこから5000円以上の保険料(全国平均)を払えば生活が成り立つわけがない。
「問題なのは、介護保険料を滞納すると延滞期間ごとにペナルティー(罰則)が科せられていることです。
 例えば2年以上滞納すると通常1割の自己負担が3割に引き上げられ、高額介護サービス費も支給停止されます」(前出・伊藤教授)
 生活が苦しくて保険料を払えない人が3割の自己負担ができるわけがない。
「高い保険料でも満足できるサービスが受けられれば納得できるかもしれませんが、毎月保険料を天引きされながら受けたいサービスを受けることができなくなっているという時点で、制度としての介護保険制度はすでに破綻しています」(同)
「介護の社会化」がうたわれて18年。再び介護は家族が行うものになりつつあり、虐待や介護殺人、介護離職が止まらない。「介護はカネ次第」の流れを止めなければならない。

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