2040年に⽣き残る介護経営⼊⾨(3)介護分野の⼈材確保戦略、医療とは違う難しさ

キャリアブレインマネジメント 2018年08⽉29⽇

【⼀般社団法⼈リエゾン地域福祉研究所 代表理事 丸⼭法⼦】
 ⼈材採⽤は、妥協の連続かもしれません。良かれと思って採⽤したのに、現場から「どうしてあんな⼈を採⽤したのか」と⽂句を⾔われ、では採否の判断に加わってもらおうとすれば、「そこに加わる根拠がないから嫌だ」と⾔われる始末。採⽤が本部の役割なら育成は現場の役割だと、⼈材をテーマに「本部VS現場」の戦いを経て、お互いの諦めと譲り合いの結果、「仲良くやっていこうね」という気持ちに落ち着く姿を頻繁に⾒掛けます。
 こうした悩みを解消して⼈材戦略を成功させるためには、育成を前提にした採⽤基準を持つことがポイントの⼀つです。実はそこに、医療とは違う介護業界独特の空気があります。
 まず、採⽤の判断⼿順です。所有する資格を前提に、その経験値や特性、適性を判断し、その上で勤務条件や働き⽅を勘案して採⽤を決定する医療業界と違って、介護業界は、夜勤ができるか、通勤に無理がないか、家族に⼦どもや要介護者がいるか・いないか、正規か・パートかなど、まず「どのようにして働くか」という条件を確認し、介護ができるか・できないか、レクは、夜勤は、運転はといった「何を、どれだけできるか」を、その後に⾒ていく傾向が強いようです。
 ⼈材確保の戦略について、社会⼈として必要とされる⼈間⼒を求めるのは両者に共通しますが、医療に⽐べると介護業界は⼈員の配置が先決で、資格優先度はその次といった傾向があるのでしょう。資格は後から取得してもらえればいいわけです。つまり、取りあえず⼊れて、「いち早く独り⽴ちさせる」ことを⽬指します。
 「いち早く独り⽴ちさせる」育て⽅にも、介護と医療の違いがあります。コーチングの技術に「タイプ分け」という⼿法があります。これは、コミュニケーションスタイルの傾向、特徴に基づき、代表的な4つのタイプに対象者を分類するものです。簡単に説明すると、⾃⼰主張と感情表出という2つの軸で、「コントローラー」「プロモーター」「サポーター」「アナライザー」に分類し、物事の理解の仕⽅、⼈への伝え⽅や聞き⽅の得意・不得意を⾒ていきます。そして、相⼿の⾏動や考え⽅のパターンを観察、理解し、それに合わせて⾃分のコミュニケーションを変えていくトレーニングとして活⽤します。もちろん、全てをこの4つにきれいに当てはめることはできませんし、実際には役割や⽴場によっていろいろなタイプが混在しています。
 専⾨職対象のコミュニケーション研修の際に、こうしたツールを使いますが、業界の領域ごとの特徴、法⼈、組織、事業所の傾向や問題をつかめたりします。リーダーが育たない、モチベーションが低過ぎる、⼈間関係が改善しない、事故や問題が絶えないなど、根深い悩みを解決するヒントとして、研修後にそれをフィードバックします。とりわけ、福祉や介護領域と医療領域の違い、職種による傾向の違いが⾯⽩いほど顕著です。例えば、 介護職は協調性重視、お互い仲良くしたい「サポーター」、医師や看護師は診断と治療、検査結果や経過を⾒て判断する「コントローラー」、⼈をやる気にさせて⾏動を促すPT、OT、デイのスタッフは「プロモーター」、制度に沿って適切な管理をする分析家のケアマネジャーやレセプト担当者、本部経理担当者は「アナライザー」といった具合です。
そして、誤解を恐れずにざっくり⾔うと、福祉や介護業界では結果や成果よりもプロセス重視なので、「何ができたか」よりも「どう向き合ったか」が⼤切な「プロモーター&サポーター」、医療業界は「何を根拠にどう決めたか」が⼤切だと考える「コントローラー&アナライザー」に分けることができます。もちろん、事業所の規模や経営幹部にもよりますので、絶対とまでは⾔い切れませんが、真逆にある両者の違いは、時として、在宅医療と介護の連携で、共通⾔語を持てないという根深い課題の原因になるようです。
 ⼈材育成で⾔えば、新⼈スタッフを温かく迎え⼊れる雰囲気で、チームで⾒守りながらゆっくり育成しようという介護業界と、マニュアルに沿って業務習得の期限の定めを課していく医療業界という違いとして表れます。どちらが良いか悪いかではなく、しっかり独り⽴ちさせる育成ができていればOKです。
 さて、これからの医療と介護は結果が重視されます。2040年の社会保障体制を維持するために、国は、どんなサービスを提供すればどんな成果が得られたかというデータを、今、ひたすら集めています。それが整い次第、結果にのみ報酬を出す仕組みに変わります。「取りあえず採⽤して現場に任せておけばよい」といった考えでは、先が不安です。医療業界から⾒ると、とても「ふわっ」としているかもしれませんが、介護業界の空気感の良さを⼤事にしながら、共に知恵を出し合って、さらなる進化を遂げようとしています。

丸⼭法⼦(まるやま・のりこ)
 ⼀般社団法⼈リエゾン地域福祉研究所・代表理事。⺠間企業勤務を経て、広島県内の社会福祉協議会へ転⾝。基幹型在宅介護⽀援センター相談員と福祉の町づくりに関わる。2011年に退職して⼀般社団法⼈リエゾン地域福祉研究所を設⽴。各⾃治体の地域包括ケア運営⽀援、医療や福祉に関する管理者研修や法⼈運営⽀援、地域貢献事業コンサルティングなどを⾏う。厚⽣労働省⽼健局事業の委員などを兼務。

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