気管カニューレ 看護師の再挿入を制限する教育委員会が複数

NHK 2018年8月4日

 特別支援学校に通う障害のある子どもが、呼吸をするためにのどから気管に挿入している器具が外れた際、学校にいる看護師が再び挿入することを教育委員会などが制限しているケースがあることが専門の学会の調査でわかりました。専門家は「緊急時には看護師が挿入できると国が見解を示していて、早急な見直しが必要だ」と指摘しています。
 特別支援学校には、障害のためにのどを切開して気管にカニューレと呼ばれる器具を挿入し、呼吸のための気道を確保したり、たんを吸引したりしている子どもがいます。
 しかし、子どもの姿勢などによって抜けてしまうことがあり、速やかに挿入しないと命に関わるケースもあるため、厚生労働省は「緊急時で医師の治療や指示を受けることが難しい場合、看護師は挿入することができる」としています。
 日本小児神経学会は各地の医師を対象にそれぞれの地域の特別支援学校で、気管カニューレが外れた際の対応について、自治体名を公表しないことを条件に聞き取り調査を行いました。
 その結果、去年11月の時点で、学校に勤務する看護師が応急手当てとして気管カニューレをその場で再び挿入することを原則、制限している地域が複数あることがわかったということです。
 NHKが取材したところ、少なくとも先月末の時点で宮城県、福岡県、それに富山県の教育委員会では制限を続けていて、その理由として学校の看護師が技術的に対応できないおそれがあるなどとしています。
 調査を行った愛知県の豊田市こども発達センターの三浦清邦センター長は「再挿入は多くの地域で看護師が行うことになっていて、安心して子どもを学校に行かせることができるようできるだけ早く方針の変更をしてもらいたい」と話しています。

実際に外れたケースでは
 気管を切開して気管カニューレを挿入するなどして特別支援学校などに通う子どもは、昨年度の時点で全国に1500人以上いるとされています。
 宮城県石巻市に住む新田綾女さん(20)は、幼い時から障害があり、気管カニューレを挿入していて、去年まで県立石巻支援学校に通っていました。
 気管カニューレから管を入れてたんの吸引を行いますが、多い時には数分の間隔で行うなどして気管が詰まらないようにしています。
 しかし、2年前の5月、綾女さんの気管カニューレが抜けていることに担任の教師が気づきます。
 学校側は母親に電話し、気管カニューレを再び挿入するために学校まで来てほしいという内容を伝えました。
 さらに学校は、20分後に119番通報をしました。
 母親は連絡を受けてから30分後に学校に到着すると、綾女さんがベッドに寝かされ、その周りを担任の教諭や校長、看護師などが取り囲んでいましたが、気管カニューレは外れたままでした。
 その場で母親が気管カニューレを再び挿入し、綾女さんが呼吸困難などの状況に陥ることはありませんでしたが、主治医によりますと、綾女さんは気管の中にたんがたまると呼吸困難になるリスクがあったほか、危険を感じて体がこわばると挿入するためののどの穴が小さくなり、再び挿入することが簡単にはできなくなるおそれもあったということです。
 母親はなぜ速やかに学校側が再挿入をしないのか憤りを覚えたと言います。
 母親は「大きな事故にならなくてよかったが、障害のある子どもでも安心して通える学校になってほしいです」と話していました。一方、宮城県教育委員会の特別支援教育課は「現場の看護師は気管カニューレを再挿入しなかったが、ほかの処置はしていて対応は適切だったと考えられる。しかし今後、看護師による再挿入についてどのようにするかは専門家とも相談して検討していきたい」としています。

再挿入をしない背景 宮城県の場合は
 学校で気管カニューレが外れた際の対応について、子どもの緊急の程度を確認し、看護師が再挿入を行う地域もあります。
 しかし、宮城県の場合、県の教育委員会が2年前県内の特別支援学校に対して「原則として看護師は再挿入を行うことができない」という通知を出していました。
 その根拠の1つが国が在宅医療などを推進するために始めた看護師向けの特別な研修制度の存在です。
 この特別な研修の中には気管カニューレの交換が含まれていたことから、県教育委員会は研修を受けていない看護師は再挿入できないと当時判断したと思われるとしています。
 ただ、実際は、緊急時に医師の治療や指示が受けられない場合は、研修の受講の有無にかかわらず、看護師も再挿入を行うことができます。
 厚生労働省もことし3月、関連する学会の質問に回答する形で見解を改めて示し、その中で「気管カニューレが抜けて命の危険のために再挿入する必要があり、すぐに医師の治療や指示を受けることが難しい場合には、看護師や准看護師は応急の手当てとして再挿入することができる」としています。
 しかし、国が見解を示した後も宮城県教育委員会は制限を続けていて、その理由について「これまでに気管カニューレの再挿入を経験したことのない看護師もいる。また、子どもによっては挿入が難しい子どももいて、急に方針を転換しても学校の看護師が技術的に対応できないおそれがある。今後どのようにするかは専門家とも相談して検討していきたい」としています。

3県で制限を継続
 日本小児神経学会の調査を受け、NHKでは看護師による気管カニューレの再挿入の制限について、各地の実態を独自に取材しました。
 その結果、去年の段階では6つの県では原則として気管カニューレの再挿入を制限していましたが、その後、国の見解を受けて複数の県の教育委員会は、方針を改めることを各学校などに周知しています。
 しかし、宮城県、福岡県、富山県の3つの県の教育委員会は制限を継続していて、専門家の意見を聞くなどして対応を変えるべきか検討することにしているということです。

専門家「見直し進めてほしい」
 医療的ケアの問題に詳しい愛知県の豊田市こども発達センターの三浦清邦センター長は「専門的な研修を受けなければ気管カニューレを再挿入してはいけないという誤解をしてしまったことが今回の原因ではないか。見直しを進めてほしい」と指摘しています。
 そのうえで、学校の看護師が緊急時に再挿入を行えるようにするためには教育委員会などの方針の変更に加え、看護師が挿入の方法などを改めて学べる体制の整備や、子ども一人一人に対応した緊急時のマニュアルの作成や見直し、それに緊急時にも誰か1人が責任を負うのではなく、医師や看護師、それに学校や保護者など、関係する人たちが責任を共有する仕組み作りも大切だとしています。
 三浦センター長は「すべての子どもたちに教育が必要であるように、医療的ケアが必要な子どもたちにとっても学校教育はとても大切なことなので、安全性を担保して当たり前に教育が受けられる仕組みを作っていく必要がある」と指摘しています。
現場では対策始まる
 学校現場で働く看護師が緊急時でも確実に気管カニューレを再挿入できるように、対策も始まっています。
 宮城県で働く医師の有志は、数か月に一度のペースで看護師向けの勉強会を行っていて、この日、開かれた勉強会では県内の特別支援学校で働く看護師や養護教諭など70人が参加しました。
 勉強会では講義に加え、実際にさまざまな種類の気管カニューレを手に取り、医師の指導のもと、モデルの人形を使って挿入の方法を繰り返し確認していました。
 参加した看護師は「緊急事態になった時に救急車を待つだけの状態になるのは不安だし、自分としてもつらい。経験を積んで、緊急時に挿入できれば保護者の安心につながると思います」と話しています。
 勉強会を主催した田中総一郎医師は「緊急時の対応の責任の所在に加え、実際に看護師がケアをできるようにする対策が重要だ」と話しています。

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