2040年に⽣き残る介護経営⼊⾨(1)介護経営はマラソン、ゴールは2040年?

キャリアブレインマネジメント 2018年06⽉19⽇
2040年に⽣き残る介護経営⼊⾨(1)介護経営はマラソン、ゴールは2040年?
【⼀般社団法⼈リエゾン地域福祉研究所 代表理事 丸⼭法⼦】
 「2025年の利⽤者像に合わせて設計した」という、新設の特別養護⽼⼈ホームを訪れました。ガラス張りのおしゃれな外観で、館内にはジャズが流れています。インテリアは、北欧⾵のチェアとニュアンスカラーのカーテン。館内に飾られたハーレーダビッドソンが輝きを放ち、気分が⾼まります。最新の介護機器がそろい、スタッフはそれぞれの意気込みを表現した漢字を背中にプリントしたかっこいいTシャツを着て、笑顔でケアを⾏っていました。
 都⼼部では既に「当たり前」かもしれませんが、多くの地⽅都市の事業者は、介護施設らしくないこの斬新さに驚き、ため息をつき、中には異論を唱える⼈もいます。ここに多くの⼈が、介護事業は既に25年を⾶び越して、40年に向かってアクセルを全開にし始めたその重⼒を体感します。
 近年の介護現場は、繰り返される制度改正で報酬が乱⾼下し、やがて来る25年をゴールに全⼒疾⾛です。この年、団塊の世代が後期⾼齢者となる⼤きな波がやって来ます。団塊の世代は、権利意識やプライドが⾼い、社会とのつながりの薄い独りぼっちが多い傾向にあります。また、「昭和の右肩上がり信仰」や「成功の喜び」を捨て切れないドリーマーなど価値観の幅がぐっと広い、いわゆる新⼈類⾼齢者が利⽤者となって、あなたの事業所のドアをノックします。
 ⾼齢者⼈⼝は、この25年に向けて右肩上がりに増えますが、その先は緩やかな伸びに変化し、それに代わって⽣産年齢⼈⼝の減少は加速する⾒通しです。こうした将来予測は、ほぼ必ずやって来るものです。新しい利⽤者像への対応や働き⼿の確保など、今から準備を始めなければ間に合わないのです。

図1 40年までの⼈⼝構造の変化と就業者数の推移(厚⽣労働省資料より)
 「過去は振り返るな」とよく⾔いますが、現在は過去の「成績表」、頑張った結果です。未来を描く準備のためには、⾜跡から学ぶことも必要です。介護保険制度創成期の2000年から約10年の間に介護事業をスタートさせた創業者たちは、熱い思い、福祉の⼼を前⾯に、先頭を切って⾛ることに没頭してきました。措置時代の「本来あるべき介護⽣活」の記憶を鮮明に残し、制度設計も試⾏錯誤で、現場も混乱と苦悩、トライアンドエラーの繰り返しでした。
 その後、介護保険制度拡⼤期に介護事業をリードしたのは「経営」、つまり、数字が分かる経営者でした。どんどん増⼤していた収益を⾒据えて事業所を増やしたり、複数のサービスメニューをそろえたりして、ビジネスの展開を加速しました。関⼼事はむしろ報酬、点数と数字に傾き、効率と⽣産性重視に向かいます。この流れは、介護事業を⼀つの産業として社会に根付かせるという功績を⽣み出しました。
 そして今、社会保障改⾰期に乱⽴した事業所のうち、介護の質に懸念があったり、経営能⼒が低かったりする事業所が⾃然淘汰されるような仕組みへと、国は政策を転換しました。激増する要介護者を⽀える基盤をつくるために、数を増やしてから質を取るという戦略です。
 創成期にあった介護への情熱と、拡⼤期の経営感覚は、ちょうど真逆の位置にありました。今、そしてこれからは、⽬先の報酬改定やスタッフ離職防⽌のみにとらわれるのではなく、経営と情熱の両⽅をバランスよく持ち合わせる基礎体⼒と⻑期的展望が、将来に引き継ぐ介護経営ではないかと、センスのいい経営者はお気付きでしょう。
 冒頭の、“⼤⼈の居場所”のような特養で、腹をくくった経営者とスタッフが胸を張って介護に向き合っている様⼦から、当たり前のことを当たり前に、⾯倒くさいこともちゃんと、そしてできない理由を乗り越えていこうとする勢いが伝わります。あなたの事業所にそれはありますか?
 例えば、中間管理職の育成、⼈材確保の道筋とキャリア構築、ケアのスキル習得と向上、地域とのつながりを進め、スタッフたちと仕事の成功体験や将来について語り合っていますか、ということです。「都市部だから」「過疎地だから」とか、「少⼦・⾼齢化が進んでいるから」「⼈⼿不⾜だから」「余裕がないから」などと愚痴や⾔い訳をしている経営者の皆さん、格好悪いです。地域のニーズを把握し、⾃施設の利⽤者像を明確に描いて、あるべき姿を実現するために必要な努⼒を怠っては、⽣き残れない時代がやって来るのです。
 この春の診療・介護報酬の同時改定でやっと⾒通しがついたかに⾒えますが、次にやって来る6年後の同時改定は、かなり厳しい状況になるという恐ろしい予感がします。⼀つのゴールをくぐり抜ければまた次へ、すっかりマラソン状態。いつになったらこの⻑距離⾛が終わるのかというため息に、「それ、2040年あたりではないでしょうか」という話を、経営者応援メッセージとしてお届けしたいと思っています。

図2 40年へのイメージ図

丸⼭法⼦(まるやま・のりこ)
 ⼀般社団法⼈リエゾン地域福祉研究所・代表理事。⺠間企業勤務を経て、広島県内の社会福祉協議会へ転⾝。基幹型在宅介護⽀援センター相談員と福祉の町づくりに関わる。2011年に退職して⼀般社団法⼈リエゾン地域福祉研究所を設⽴。各⾃治体の地域包括ケア運営⽀援、医療や福祉に関する管理者研修や法⼈運営⽀援、地域貢献事業コンサルティングなどを⾏う。厚⽣労働省⽼健局事業の委員などを兼務。

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