【福井】増える行方不明 GPS活用、情報共有 ふくいを生きる 認知症

福井新聞  2018年6月16日

 83歳の認知症の夫が行方不明になる。「突然いなくなったと思ったら、市外まで歩き続けて」。発見場所は鯖江市、坂井市、永平寺町、福井市…。探し回ったことは30回以上。「毎回どの方角に行くかも見当が付かない。家族だけではとても見つけられなかった」。息子夫婦と孫の5人暮らしの妻(79)=福井市=は、夫の行動を思い出し涙を浮かべた。
 夫が初めて行方不明になったのは2015年2月。散歩から帰らず、家族で懸命に捜したが夜になっても見つからなかった。警察に届け出た。翌朝には地元の防犯隊も集まり捜索した。行方不明から20時間以上たって、約15キロ離れた鯖江市内で発見された。「そんなところまでどうやっていったのか」。夫に目的を尋ねても無言だった。
 昨夏には、約20キロ離れた坂井市坂井町のモデルハウスの前で「ここはおれの家だ」と言い張っていたところを発見された。行方不明から2日後だった。

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 県内では認知症による行方不明者が年々増えている。県警によると昨年は延べ122人で、統計を取り始めた12年の64人から倍増。県警は、認知症の症状や正しい声の掛け方を学ぶため2014年度から講座を実施している。全警察官・職員の95%が受講し「驚いて混乱させないよう後ろからは声を掛けない。相手に目線を合わせ、優しく話しかける」ことなどを学んだ。
 ひとたび行方不明者が出れば多くの警察官が動員される。認知症の人の行動は予測が難しい。嗅覚の優れた警察犬に頼るときもあり、出動は13年の10件から17年は38件に急増した。県警からは「警察だけで捜し出すことは困難。地域や市町、企業などとの連携がほしい」との声も上がる。
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 行方不明者対策として注目されるのが、衛星利用測位システム(GPS)発信器だ。福井市の福井フェニックスロータリークラブ(RC)は昨年9月、縦3センチ、横4センチ、厚さ1センチほどのGPS発信器を認知症の20人に無料で2年間貸し出す試みを始めた。発信器を靴の底に埋め込むなどしスマートフォンなどで居場所を把握する。同RCの杉田尊会長(56)は「介護する家族の負担を少しでも軽減し、笑顔を取り戻してもらいたかった」と語る。

 夫が何度も行方不明になる福井市の妻は、発信器を借りた一人だ。夫は、孫が作ってくれた名札を毎日首から下げる習慣があり、発信器を入れた小袋を名札と一緒にぶら下げている。「これまでは警察や多くの人に協力してもらわなければならなかったが、GPSのおかげで家族らで見つけられることが増えた。気持ちが楽になった」
 早期発見につなげるため市の「事前登録」に申し込み、夫の名前や特徴、写真を市町や警察署などで共有してもらっている。夫の認知症を知られることに抵抗があったが、近所にも明らかにした。夫の居場所を連絡してくれることもあるという。
 福井市地域包括ケア推進課の岡田早苗さん(47)は「うちのばあちゃん、どこ行ったか知らんか? と近所などに気軽に言いやすい地域になることが望ましい」と話す。時間がたつほど発見が難しくなるため、警察にすぐ連絡することが大事とも。「認知症を隠したがる人も多いが、家族だけが頑張らないといけないというものではない。地域全体で見守ることが重要」と考えている。

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