【アメリカ】診療看護師とプライマリケア医 処方の正確性はほぼ同じ

毎日新聞 2024年3月7日

 診断や処方を行うことができる米国の診療看護師(ナース・プラクティショナー)が高齢患者に不適切な処方を行う確率はプライマリケア医と同等であることが、新たな研究で示唆された。米スタンフォード大学健康政策・健康法分野のDavid Studdert氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に10月24日掲載された。
 診療看護師は、正看護師が一定の経験を積んだ後に大学院で所定の単位を取得して認定試験に合格した者で、医師と同様に病気の診断や治療計画の立案などを行うことができる。以前よりプライマリケア医不足に直面している米国では、診療看護師がそのギャップを埋めるのに重要な役割を担っている。ただ、診療看護師に関しては、処方が一つの争点となっている。現在、多くの州が診療看護師に完全な処方権を認めている一方で、患者の安全性を理由に診療看護師が処方できる薬の種類を制限したり、処方や診断などに医師の監督を求める州も存在する。
 Studdert氏らの研究は、65歳以上のメディケアパートD(処方薬補償が提供される)の受益者に対する不適切処方の発生率を、診療看護師とプライマリケア医の間で比較したもの。対象は、米国で診療看護師による処方を認めている29州で、年間100人以上の患者に処方を行っている診療看護師2万3,669人とプライマリケア医5万60人。不適切処方は、米国老年医学会のBeers基準において65歳以上の患者に対して処方すべきではないとされている薬を処方していた場合と定義した。

「患者も処方理由と副作用を医療従事者に尋ねて」
 その結果、不適切処方の発生率の平均は、診療看護師とプライマリケア医で同等であることが明らかになった(調整オッズ比0.99、95%信頼区間0.97〜1.01)。調整後のデータでの不適切処方の発生率は、100処方当たり診療看護師で1.66件、プライマリケア医で1.68件であった。
 Studdert氏は、「この結果を肯定的に解釈すると、高齢患者は、プライマリケア医ではなく診療看護師による診察を受ける場合でも、治療の質の低下を心配する必要はないということだ」と話す。ただし同氏は、「診療看護師でもプライマリケア医でも、比較的高い確率で疑わしい処方を行う者がいる一方で、そのような処方をほとんど行わない者もいた」と述べ、両者ともに、処方内容に大きな差が認められたことを指摘している。そして、「これは、診療看護師にもプライマリケア医にも改善の余地があることを意味する。それゆえ、診療看護師による処方を認めるべきかどうかよりも、どうすれば不適切な処方の発生を防げるかに焦点を当てて議論すべきではないだろうか」と話している。

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授で老年医学を専門とするCatherine Sarkisian氏もStuddert氏の意見に同意を示し、「プライマリケア医が全国的に不足している現状に鑑みると、診療看護師は多くの米国人にとって、重要なケア提供者だ」と話す。Sarkisian氏は、一部の医療従事者で不適切な処方を行う割合が高い理由について、高齢者には特定の薬を処方すべきではないことを推奨するガイドラインの存在を知らない可能性や、少なくとも一部の患者に対してはそのようなガイドラインの推奨事項を守る必要がないと考えている可能性、さらに、処方が推奨されていない薬を患者の求めに応じて処方するケースがある可能性を指摘する。
 一方でSarkisian氏は、この研究結果は高齢患者が声を上げることの重要性を強調するものだとの見方も示している。同氏は、「高齢患者は勇気を持って、その薬を処方する理由や、薬の使用により生じ得る副作用について、あるいは、使用しなかった場合の結果などを医療従事者に尋ねるべきだ」と助言している。

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