Gem Med 2024.2.22.
2024年度の次期診療報酬改定に向けて、2月14日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で答申が行われました。新点数や新施設基準等の概要が明らかになっています。
Gem Medでは何回かに分けて答申内容、つまり新点数・新施設基準の大枠を眺めていきます(詳細は3月5日予定の告示(点数表や施設基準)・解釈通知等を待つ必要があります)。本稿では「訪問看護」に焦点を合わせます。
目次
1 訪問看護ベースアップ評価料I・IIを設け、訪問看護スタッフの処遇改善を図る
2 訪問看護管理療養費を引き上げ、感染対策向上とともに事務スタッフの処遇改善に期待
3 24時間対応体制加算、看護師の負担軽減を図るステーションでは6800円に引き上げ
4 重症患者受け入れに消極な事業所の管理療養費を引き下げ、頻回な緊急訪問も適正化
訪問看護ベースアップ評価料I・IIを設け、訪問看護スタッフの処遇改善を図る
訪問看護について、「現在の整備量は十分とは言えないために、現行を投影すれば『ニーズのピークは近く訪れる』(その後縮小していく)との試算結果が出るが、高齢化の状況を考えれば、今後も確実にニーズが増加していく」との指摘があります(関連記事はこちら)。
このため診療報酬でも「質の高い訪問看護の拡大・充実」に力を入れていく必要があり、2024年度診療報酬改定でもさまざまな対応が図られます。
まず注目すべきは、訪問看護ステーションスタッフの賃上げを目的とする「訪問看護ベースアップ評価料」の創設でしょう。
昨年(2023年)12月20日の武見敬三厚生労働大臣・鈴木俊一財務大臣の折衝により「看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種の処遇改善(賃上げ)に向けて0.61%の診療報酬プラス改定を行う。2024年度にベースアップ分で2.5%の賃上げ、25年度に同じく2.0%の賃上げを行う」方針が決まり、この方針に沿って、次のような対応が図られるものです(関連記事はこちら)。
(新)訪問看護ベースアップ評価料(I):780円
→訪問看護利用者の負担が大きくバラつくことを防ぐために、一律の点数で対応する
(新)訪問看護ベースアップ評価料(II)
▽訪問看護ベースアップ評価料(II)1:10円
▽訪問看護ベースアップ評価料(II)2:20円
・・・・・
▽訪問看護ベースアップ評価料(II)18:500円
→「評価料(I)」による一律対応では「スタッフの処遇改善に必要な財源」を確保できないステーション(利用者数が少なく、スタッフ数が多いステーション)が出てくるため、死守ラインである「1.2%の賃上げ」を可能とする18種類の評価料(II)を設けて救済する
訪問看護ステーションの救済措置案(入院・外来医療分科会2 240117)
なお、評価料で得た収益は「全額、スタッフの処遇改善に充てる」ことが求められ、事前の賃金改善計画・事後の賃金改善実績の提出が求められます。
訪問看護管理療養費を引き上げ、感染対策向上とともに事務スタッフの処遇改善に期待
また、訪問看護ステーションにおける「適切な感染管理の下での利用者への対応」を評価する観点から、【訪問看護管理療養費】の評価を次のように引き上げます。
(現行)
▼月の初日の訪問の場合
(イ)機能強化型訪問看護管理療養費1:1万2830円
(ロ)機能強化型訪問看護管理療養費2:9800円
(ハ)機能強化型訪問看護管理療養費3:8470円
(ニ)イからハまで以外の場合:7440円
↓
(見直し後)
▼月の初日の訪問の場合
(イ)機能強化型訪問看護管理療養費1:1万3230円(+400円)
(ロ)機能強化型訪問看護管理療養費2:1万30円(+230円)
(ハ)機能強化型訪問看護管理療養費3:8700円(+230円)
(ニ)イからハまで以外の場合:7670円(+230円)
この療養費増の中には大臣合意に基づく「事務スタッフ等の処遇改善」分が含まれており、この収益増をもとに事務スタッフ等の基本給アップを行うことが強く期待されています(関連記事はこちら)
24時間対応体制加算、看護師の負担軽減を図るステーションでは6800円に引き上げ
訪問看護全般について、「医療ニーズの高い重度者への24時間・365日対応」が求められていると言えます。いわゆる「在宅限界」を高めることが、訪問看護の最も重要な役割の1つだからです。
この点、訪問看護管理料料には【24時間対応体制加算】が設けられていますが、「現場看護師の負担軽減を図る必要がある」(看護師の働き方改革)、「より取得しやすい要件を考える必要がある」ことから、2024年度改定で次のような対応が図られます。
▽「看護業務負担軽減のための取り組み」を行う場合と、そうでない場合とで評価にメリハリをつける
(現行)
▼24時間対応体制加算:6400円(月1回)
↓
(見直し後)
▼24時間対応体制加算
(イ)24時間対応体制における看護業務負担軽減の取り組みを行う場合:6800円(月1回)
(ロ)イ以外の場合:6520円
看護業務負担軽減を行う場合には「現行よりも+400円」、行わない場合には「現行よりも▲280円」となります。
前者の「看護業務負担軽減を行う」とは、現時点では、次のうち「2項目以上を実施する」こととされています。
・夜間対応した翌日の勤務間隔の確保
・夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで
・夜間対応後の暦日の休日確保
・夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫
・ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減
・電話等による連絡および相談を担当する者に対する支援体制の確保
現場看護師の負担軽減を図ることは、「高い加算」取得はもちろん、「働きやすい環境の確保→スタッフのモチベーション維持・向上→サービスの向上→利用者増→経営の安定化」につながる重要な要素であり、各ステーションでどういった対応が可能なのかを今から検討することが重要です。
また、【24時間対応体制加算】では、利用者からの相談等に常時対応するために「24時間対応体制に係る連絡相談を担当する者は、原則として当該ステーションの保健師・看護師とする」というルールがありますが、「厳しすぎる、ファースト対応は必ずしも看護師等でなくてもよいのではないか」との指摘があります。
そこで、今般、以下のいずれにも該当し、24時間対応体制に係る連絡相談に支障なき体制を構築している場合には、連絡相談担当者が「当該ステーションの保健師・看護師以外の職員(例えば事務スタッフなど)でも良い」との新ルールも設けられます。
▼看護師等以外の職員が利用者・家族等からの電話等による連絡・相談に対応する際のマニュアルを整備する
▼「緊急の訪問看護」の必要性があるか否かの判断を保健師・看護師が速やかに行える連絡体制・緊急の訪問看護が可能な体制を整備している
▼当該ステーションの管理者は、連絡相談を担当 る看護師等以外の職員の勤務体制・勤務状況を明らかにする
▼看護師等以外の職員は、電話等により連絡・相談を受けた際に保健師・看護師へ報告する。。報告を受けた保健師・看護師は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録する
▼上記について利用者・家族等に説明し、同意を得る
▼指定訪問看護事業者は、連 絡相談を担当する看護師等以外の職員に関して必要な事項を地方厚生(支)局長に届け出る
このほか、次のような訪問看護の評価充実も行われます。
▽「退院当日の訪問看護」について、現在は「1回の訪問が90分を超える」場合には【退院支援指導加算】で評価しているが、「複数回の訪問を合計して90分を超える」場合にも同加算の算定を認める
▽訪問看護ステーションで、居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムを通じて利用者の診療情報を取得し、当該情報を活用して質の高い医療を提供することを新加算で評価する
(新)訪問看護医療DX情報活用加算:50円(月1回)
【対象患者】
訪問看護管理療養費を算定する者
【施設基準】
▼オンライン請求を行っている
▼オンライン資格確認を行う体制を有している
▼「医療DX推進の体制に関する事項」、「質の高い訪問看護を実施するための十分な情報を取得・活用して訪問看護を行う」ことをステーションの見やすい場所に掲示している
▼前記についてホームページ等に掲載している(2025年5月末までの経過措置あり)
▽訪問看護基本療養費の【乳幼児加算】(6歳未満の乳幼児に対する訪問看護を評価)について、区分に応じた評価を導入する(重症者への評価を引き上げ、そうでない者の評価を引き下げる、医療機関からの訪問看護でも同様の見直し)
(現行)
▼乳幼児加算:1500円(1日につき)
↓
(見直し後)
▼乳幼児加算
・超重症児または準超重症児、別表7(末期がん、進行性筋ジストロフィーなど)、別表8(在宅悪性腫瘍等患者指導管理、在宅酸素療法指導管理など)の患者:1800円(1日につき)
・ほか:1300円(1日につき)
▽精神疾患等を有する妊婦への多職種による指導管理の評価であるB005-10【ハイリスク妊産婦連携指導料1】、B005-10-2【ハイリスク妊産婦連携指導料2】(精神疾患等を有する妊婦への多職種による指導管理の評価)について、要件となっている多職種カンファレンスに「必要に応じて、当該患者の訪問看護を担当する訪問看護ステーションの保健師、助産師、看護師」が参加することを明示する
▽医師の死亡診断等を、「ICTを活用した在宅での看取りに関する研修」を受けた医療機関の看護師が補助した場合、新たに設ける在宅ターミナルケア加算の【遠隔死亡診断補助加算】(150点)として評価する
各要件の詳細は3月5日に示される予定の告示・通知を待つ必要があります。
重症患者受け入れに消極な事業所の管理療養費を引き下げ、頻回な緊急訪問も適正化
一方、「一部に、不適切な訪問看護がなされている」との指摘があることも踏まえ、次のような適正化も行われます。
▽指定訪問看護事業者に対し、指定訪問看護ステーションごとの運営規定に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定めることを義務付ける(2年間の経過措置あり)
▽訪問看護において、「身体的拘束等の原則禁止」「緊急やむを得ない場合に身体的拘束等を行う場合には記録を義務付ける」ルールを設ける
▽【訪問看護管理療養費】について、次のような「機能に応じた細分化」を行う(重度者対応に消極的で、同一建物居住の利用者が多い場合の評価を引き下げる)
(現行)
▼月の2日目以降の訪問の場合:3000円(1日につき)
↓
(見直し後)
▼月の2日目以降の訪問の場合
(イ)訪問看護管理療養費1:3000円(1日につき)
(ロ)訪問看護管理療養費2:2500円(1日につき)
【訪問看護管理療養費1】
利用者に占める同一建物居住者の割合が「7割」未満で、次のいずれかに該当する
・別表7(末期がん、進行性筋ジストロフィーなど)、別表8(在宅悪性腫瘍等患者指導管理、在宅酸素療法指導管理など)の患者への訪問看護について相当な実績を有する
・精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度40以下の利用者数が月に5人以上
↓
訪問看護管理療養費1では「在宅看護等に係 る専門の研修を受けた看護師」配置を義務化する
【訪問看護管理療養費2】
▼利用者に占める同一建物居住者の割合が「7割」以上
▼利用者に占める同一建物居住者の割合が「7割」未満で、上記のいずれにも該当しない
おける記録の義務を追加する。
▽【緊急訪問看護加算】(利用者・家族の求め、主治医の指示の下で緊急に訪問を行う場合の評価)について、「1か月以内に多数回」行う場合の評価を引き下げ、▼利用者・家族等が求めた内容、主治医の指示内容、緊急訪問看護の実施内容等の記録▼緊急訪問看護を行った理由のレセプトへの記載—を義務化する(極めて頻回に緊急訪問看護を算定する事例があることを踏まえた適正化、関連記事はこちら)
(現行)
▼緊急訪問看護加算:2650円(1日につき)
↓
(見直し後)
▼緊急訪問看護加算
(イ)月14日目まで:2650円(1日につき)
(ロ)月15日目以降:2000円(1日につき)
このほか、次のような対応も図られます。
▽訪問看護ステーションの「管理者の責務」を明確化し、管理上支障がない場合には、同時に他の指定訪問看護ステーション等を管理できることとする(介護報酬改定と同じルールとし、訪問看護ステーションの機動性を高める)
▽本年(2024年)6月から訪問看護レセプトのオンライン請求が開始されることを踏まえ、訪問看護指示書・精神科訪問看護指示書の主たる傷病名について「傷病名コードを記載する」こととし、様式の見直しを行う
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