訪問診療や訪問看護等、初回訪問時に「過去の診療情報共有」等の包括同意を取得する仕組みに—社保審・医療保険部会(2)

Gemmed 2022.8.22.

 訪問看護や訪問診療などにおける「オンライン資格確認」「過去の診療情報(薬剤情報など)の確認・共有」は「初回訪問時に、医療従事者(訪問診療を行う医師や訪問看護師など)が持参するモバイル端末(タブレットなど)で行う」こととする—。
 また、通常の外来診療では「受診の都度」に資格確認を行い、あわせて「自分自身の過去の診療情報(薬剤情報など)を当該医療機関で確認すること」を認めるか否かの確認を行うが、訪問看護・訪問診療で、同様に「訪問の都度の確認」を求めれば、患者・家族の負担が大きくなりすぎる—。
 このため、訪問看護や訪問診療などでは、初回の訪問時に、言わば「包括的な同意」を得る仕組みとする—。
 訪問看護のオンライン請求が2024年5月からスタートすることを踏まえ、こうした仕組みは「2024年4月」開始を目指す—。
 8月19日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こういった議論も行われました。

8月19日に開催された「第152回 社会保障審議会 医療保険部会」
 
オンライン資格確認等システムの導入を強力に推進する仕組みを中医協等で構築
 Gem Medで繰り返し報じているとおり「オンライン資格確認等システムの導入」推進が非常に重要な政策テーマになっています。
 オンライン資格確認等システムは「患者の資格確認(どの医療保険に加入しているのかの確認)を円滑・確実に行う」仕組みですが、そのインフラを活用して「患者の診療情報(現時点では特定健康診査情報、薬剤情報)を医療機関等が確認し、診療内容に活かす」ことが可能となっています(近くレセプト情報、さらに将来的に電子カルテ情報にまで情報共有を拡大していく、関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。

全国の医療機関での電子カルテ情報共有するにあたり「オンライン資格確認等システムのインフラ」を活用する方針を決定(医療情報ネットワーク基盤WG1 220516)
 こうした仕組みのメリットを最大限に活かすためには「すべての医療機関がオンライン資格確認等システムを導入・運用し、すべての患者がマイナンバーカードの保険証利用を行う」ことが求められますが、導入・運用医療機関等が少ないのが実態で、本年(2022年)8月14日時点の状況を見ると次のような状況にとどまっています。

(i) 顔認証付きカードリーダー申し込み済の医療機関・薬局:62.8%
(ii)オンライン資格確認等の準備が完了した医療機関・薬局:31.7%
(iii)オンライン資格確認等の運用を開始した医療機関・薬局:26.8%

全国におけるオンライン資格確認等システム導入状況(医療保険部会(2)1 220819)
 また、都道府県別の運用開始状況にも非常に大きな格差があります。東京都や大阪府など「大都市での遅れ」が目立つ点が気になります。

都道府県別のオンライン資格確認等システム導入状況(医療保険部会(2)2 220819)
市町村別のオンライン資格確認等システム導入状況(医療保険部会(2)3 220819)
 こうした状況を放置すれば「2022年度末(2023年3月末)までに概ねすべての医療機関等にオンライン資格確認等システム導入する」という目標を達成することが困難なことはもちろん、「患者の過去の診療情報を活用した質の高い医療提供を行う」などの医療DX(デジタルトランスフォーメーション)にも支障が出てきます。
 そこで政府は「オンライン資格確認等システムの導入を、これまで以上に強力に促す必要がある」と判断し、5月25日の医療保険部会で(1)来年(2023年)4月から、保険医療機関・薬局において「オンライン資格確認等システムの導入」を原則義務化する(2)医療機関・薬局でのオンライン資格確認等システム導入を進め、国民のマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用が進むよう、関連する財政支援措置(【電子的保健医療情報活用加算】や、導入経費補助など)を見直す(3)保険証の取り扱いを見直す(原則廃止を目指す)—方針が厚生労働省から示されています(関連記事はこちら)。
 その後、(1)と(2)の一部に関して中央社会保険医療協議会で議論を進め、次のような方針を決定しました(関連記事はこちら)。

(A)上記(1)について、療養担当規則(保険医療機関及び保険医療養担当規則)などに次のような規定を盛り込む(来年(2023年)4月から)

▽保険医療機関・薬局は、患者資格確認の際、患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合は、オンライン資格確認によって受給資格の確認を行わなければならない
▽現在「紙レセ」請求が認められている保険医療機関・薬局は義務付けの例外とする
▽例外を除く保険療機関・薬局は、患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合に対応できるよう必要な体制を整備しなければならない

(B)上記(2)の財政支援の一部に関して、現在の【電子的保健医療情報活用加算】を廃止し、新たに【医療情報・システム基盤整備体制充実加算】を設ける(本年(2022年)10月から)

オンライン資格確認等システムの導入促進に向けた診療報酬上の対応(中医協総会(1)1 220810)
 さらに、(2)の財政支援の一部に関して、医療機関等におけるシステム改修費への支援・補助を充実させる(例えば病院に対しては補助上限額を2倍に引き上げるなど)ことを、厚生労働省と財務省との間で決定したことも報告されています(関連記事はこちら)。

オンライン資格確認等システムの導入促進に向けたシステム改修費等支援の拡充(中医協総会(1)2 220810)
 この点、8月19日の医療保険部会では「訪問看護やオンライン診療におけるオンライン資格確認等システム導入」の考え方が厚生労働省から示されました。
 医療機関の外来や薬局では「窓口の顔認証付きカードリーダーシステム」を入り口としてオンライン資格確認等を行い、そこでの「患者同意」を前提として過去の診療記録へのアクセスなどを行いますが、訪問看護やオンライン診療では「窓口」がないために、どのようにオンラインでの資格確認や過去の診療記録アクセスなどを行うのかが気になります。厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長は、次のようなイメージ案を提示しました。

【訪問看護、訪問診療、訪問歯科、訪問服薬指導、訪問リハビリテーション、訪問栄養指導】
▽初回訪問時は、資格確認や薬剤情報等の提供に関する同意を「医療関係者が持参したモバイル端末」などを用いて行う(利用者、家族の協力を得る)

▽2回目以降は、「資格確認、薬剤情報等の提供に関する同意」を訪問の都度に行うのではなく(利用者、家族の負担が過重になる)、医療機関等で資格の有効性確認を行う(言わば、初回訪問時に包括同意してもらう形)

訪問看護等でのオンライン資格確認等システム案(医療保険部会(2)4 220819)

【オンライン診療】
▽資格確認や過去の診療情報(薬剤情報など)提供に関する同意は「患者本人のモバイル端末またはPC」を用いて、受診の都度に行う(外来診療などと同じ)

オンライン診療でのオンライン資格確認等システム案(医療保険部会(2)5 220819)

【職域診療所など】
▽健康保険証を利用しているが「保険医療機関・薬局の指定を受けていない職域診療所」などにオンライン資格確認等 システムを導入するために、「医療機関等コードの代替となるコードを付番するためのシステム」を構築する

職域CL等でのオンライン資格確認等システム案(医療保険部会(2)6 220819)
 
 さらに、訪問看護等やオンライン診療については「2024年5月から訪問看護のオンライン請求がスタートする」ことを踏まえ、「2024年4月からオンライン資格確認等を開始する」スケジュール案も示されています。

訪問看護におけるオンライン資格確認等システム導入スケジュール案(医療保険部会(1)7 220819)

 なお、上述した「過去の薬剤情報などを共有する」仕組みでは、レセプト情報から薬剤情報などを抽出するため、「リアルタイムでの情報共有」はできません(診療→レセプト請求→審査→支払という経過をたどり、2か月程度のタイムラグが生じる)。しかし来年(2023年)1月からスタートする「電子処方箋」の仕組みでは「リアルタイムでの情報確認」が可能となります。
 Aクリニックにおいてある患者へX薬剤を処方する際に、電子処方箋の仕組みで「この患者は、先週、B病院でX薬剤を交付されているな。重複投薬となるので、自院でのX薬剤投与は控えよう」などと判断可能となるのです(重複投薬などではアラートが出る仕掛けが盛り込まれる見込み)。
 厚労省は「来年(2023年)1月からの電子処方箋の円滑スタート、2025年3月末の全面普及」に向けて、段階的な拡大(▼2023年3月末:オンライン資格確認等システムを導入した施設の7割程度の医療機関・薬局で導入▼2024年3月末:同じく9割程度で導入—)を進めるとともに、全国4か所で「モデル事業」(医療機関・薬局等における運用プロセスやトラブル・問い合わせ対応を確立するなど)を展開する構えです。
 このように、電子処方箋普及のため、医療機関等で「患者の過去の診療情報等」を共有するためには「オンライン資格確認等システムの全国展開」がべースとなることから、上記の取り組みの重要性を再確認できます。
 佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「オンライン資格確認等システム導入をさらに強力に推進する」ことを強く要望。また猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「導入の推進とともに、十分なセキュリティの確保」を求めています。さらに、羽田 健一郎委員(全国町村会副会長、長野県長和町長)や前葉泰幸委員(全国市長会相談役・社会文教委員、三重県津市長)は「マイナンバーカードの被保険者証利用」(いわゆるマイナ保険証)を強力に推進する必要があるとし、「過去の診療情報の共有により、医療の質が向上する」点を国民に分かりやすく丁寧に説明していく必要があると訴えています。

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