介護サービスの人員配置緩和・感染症等対策・認知症対応など柱とする運営基準改正へ、訪問看護は戦術変更―社保審・介護給付費分科会

Gemmed 2020.12.3.
 来年度(2021年度)の介護報酬改定に向けた議論が、まさに大詰めを迎えています。12月2日の社会保障審議会・介護給付費分科会には、厚生労働省から各サービスに係る「運営基準改正案」が提示され、これに基づく議論が行われました。
 「グループホームの夜勤配置」「ユニット型特別養護老人ホームの定員緩和」の2点を除き、改正案は概ね了承されています。今後、この2点と個別サービスの改正案について最終の詰めを行い、年内に審議報告をまとめます。
 別途、政府が決定する改定率(年末の予算編成過程で決まる)を踏まえて、年明けに具体的な単位数・各種基準の見直し案を審議していく運びとなります。

目次
 1 自治体の条例改正を考慮し、「運営基準」の改正内容を早期に固める
 2 感染症・災害への準備を全事業所・施設に義務付け、選ばれる施設になるため早期対応を
 3 「無資格の介護スタッフに認知症介護基礎研修を受講させる」ことを事業者に義務付け
 4 ユニットの定員緩和・グループホームの夜勤配置緩和には賛否両論
 5 訪問看護、人員基準見直しと別戦術で「本来の機能を果たさない事業所」を牽制

自治体の条例改正を考慮し、「運営基準」の改正内容を早期に固める
 介護保険のサービス事業所・施設の指定は、条例に定められた基準に則って、自治体が行います。運営基準は、この条例を定めるための拠り所となります。例えば運営基準に「従うべき基準」として定められている部分は、条例でも運営基準に沿うことが求められ、「標準基準」である場合には、合理的理由がない限り、やはり運営基準に沿うことが必要です。一方、運営基準に「参酌すべき基準」として定められている部分は、自治体が参酌しうたうえで「異なる基準」を定めることが可能です。
 条例の改正には地方議会の決議が必要となります。その期間を考慮して早めに「運営基準の改正内容」を固める必要があることから、他の事項に先んじて運営基準改正案が提示されたものです。改正案も当然、これまでの介護給付費分科会論議を踏まえたものとなっています。

改正案の内容は膨大ですが、▼感染症や災害への対応力を強化するために「委員会の開催」「指針の整備」「研修・訓練の実施」などを位置付ける(3年間の経過措置あり)▼認知症対応力を強化するために、一部サービスを除いて、無資格のスタッフに「認知症介護基礎研修」受講に向けた措置を義務付ける(3年間の経過措置あり)▼人材確保の難しさに鑑みて、サービスの質確保・スタッフの過重負担防止を要件に「人員配置の緩和」を各種サービスで進める▼介護の質向上に向けて、すべてのサービスでCHASE・VISITを活用した計画作成、PDCAサイクル推進などを推奨する▼適正なサービスを確保する(事業所と同一の建物にサービスを行う場合には、それ以外の利用者にもサービス提供することを求める、区分支給限度基準額いっぱいまで訪問介護を組み込むケアマネ事業所の点検を行う、など)―ことなどが改正の重要ポイントと言えるでしょう。

2021年度の運営基準改正案(その1)(その2)(その3)(介護給付費分科会3 201202)

感染症・災害への準備を全事業所・施設に義務付け、選ばれる施設になるため早期対応を
 目立つ改正内容にいくつか焦点を合わせてみます。
 まず、感染症や災害への対応力を強化するために、次のような規定が運営基準に置かれます。小規模事業所等に配慮して「3年間の経過措置」(3年間は対応をしていなくても運営基準を満たすと見做される)が置かれますが、経過措置廃止後は「対応を行っていない場合には、指定を受けられなくなる」点、後述するように「早めに対応を行うべき」点に最大限の留意が必要です。

▽施設系サービスでは、現行の「委員会の開催」「指針の整備」「研修の実施」などのほか、新たに「訓練(シミュレーション)の実施」を義務付ける(3年間の経過措置)

▽施設系以外のサービスでは、「委員会の開催」「指針の整備」「研修の実施等」「訓練(シミュレーション)の実施」を義務付ける(3年間の実施)

 つまり、すべての介護保険サービスで、感染症や災害に対応するための「委員会の開催」「指針の整備」「研修の実施等」「訓練(シミュレーション)の実施」を行わなければなりません。新型コロナウイルス感染症はもとより、今後も様々な新興・再興感染症が流行する可能性があり、また天災(地震、台風、大雪など)もいつ発生してもおかしくありません。「3年間は経過措置がある」と構えているのではなく、利用者・入所者・従事者の健康・生命を守るために、可能な限り早く対応力を強化することが望まれます。利用者や家族サイドからすれば、こうした対応が遅れている事業所・施設は「安心して利用・入所できない」ため、いずれ選ばれなくなる点にも留意する必要があるでしょう。
 また、▼全てのサービスで「業務継続に向けた計画等の策定」「研修の実施」「訓練(シミュレーション)の実施」などを実施する【義務】(3年間の経過措置)▼通所系・短期入所系・施設系サービス、(地域密着型)特定施設入居者生活介護で、地域住民と連携した非常災害対策訓練を実施するよう努める【努力義務】―ことも規定されます。

「無資格の介護スタッフに認知症介護基礎研修を受講させる」ことを事業者に義務付け
 認知症対応力の強化としては、▼訪問系(訪問入浴介護を除く)▼居宅介護支援▼福祉用具貸与(販売)―を除くすべてのサービス(裏を返せば、▼訪問入浴介護▼通所系サービス▼短期入所系サービス▼多機能系サービス▼居住系サービス▼施設系サービス―のいずれも)で、「介護に直接かかわる医療・福祉関係の資格を有さないスタッフ」に【認知症介護基礎研修】の受講が求められます(サービス事業者に対し、受講のために必要な措置をとることが義務付けられる)。
 もっとも、すべてのスタッフが研修を受講するまでには一定の時間が必要なことから「3年間の経過措置」が設けられます。
 厚労省では、研修受講の負担をできるだけ軽くするために、「基礎研修の全過程をe-ラーニングで受講できるようにする」「専門家の研究を踏まえた標準テキストを作成する」考えを明らかにしています。
 事業者に求められる「必要な支援」の内容については、例えば「研修費用を助成する」ことや「研修時間を業務時間と扱う」ことなどが思いつきますが、詳細は答申(2021年1月下旬見込み)後の通知やQ&Aで示されることになるでしょう。

あわせて国による事業者支援(費用助成など)にも期待が集まります。

ユニットの定員緩和・グループホームの夜勤配置緩和には賛否両論
 人員配置の緩和は、さまざまなサービスのさまざまな場面で実行されます。介護人材の確保が極めて難しい中で、厳格な基準を維持すれば「地域で介護サービスを維持できなくなってしまう」可能性があることを踏まえた緩和措置です。もっとも、人材配置緩和は「サービスの質を確保できなくなる」「スタッフの負担が過重になる」可能性も孕んでおり、安易な実行はできません。
 厚労省は、介護現場の実態、介護給付費分科会の議論を総合的に勘案して、例えば次のような人員配置基準緩和を行ってはどうかと提案しています。

▽ユニット型指定介護老人福祉施設等における介護・看護職員の平均的な配置を勘案して職員を配置するよう努めることを求めつつ、1ユニットの定員を、現行の「10人まで」から「15人まで」に緩和する

▽小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護について、過疎地域等で「地域の実情により事業所の効率的運営に必要である」と市町村が認めた場合には、人員・設備基準を満たすことを条件として「登録定員を超過した場合の報酬減算を一定の期間(市町村が 認めた時から当該介護保険事業計画期間終了までの最大3年間を基本とし、市町村が認めた場合には延⻑が可能)に限り行わない」こととすることを踏まえ、この場合には、登録定員・利用定員を超えることも可能とする

▽小規模多機能型居宅介護について、厚生労働省令で定める登録定員・利用定員の基準を、市町村が条例で定める上での「従うべき基準」から「標準基準」に見直す

▽小規模多機能型居宅介護について、特別養護老人ホーム・老人保健施設と併設する場合で、入所者の処遇や事業所の管理上支障がない場合には「管理者・介護職員の兼務」を可能とする

▽認知症グループホームの夜間・深夜時間帯の職員体制について、3ユニットの場合、一定の要件の下、「夜勤2人以上」の配置に緩和することを可能とする(現在は1ユニットにつき1人以上の夜勤が必要である)

▽サテライト型居住施設において、本体施設が特別養護老人ホーム・地域密着型特別養護老人ホームであり、かつ「本体施設の生活相談員により当該サテライト型居住施設の入居者の処遇が適切に行われる」と認められるときは、「生活相談員を置かない」ことを可能とする

▽地域密着型特別養護老人ホーム(サテライト型除く)において、他の社会福祉施設等との連携により効果的な運営が可能で、入所者の処遇に支障がないときは「栄養士を置かない」ことを可能とする

▽共用型認知症対応型通所介護(共用型認デイ)における管理者の配置基準について、事業所の管理上支障がない場合は、「本体施設・事業所の職務とあわせて、共用型認デイの他の職務に従事する」ことを可能とする

 このうち「ユニット定員の15人への拡大」と「グループホームの夜勤体制緩和」については賛否両論がありました。東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)や武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)らは「介護人材不足は危機的な状況にある。厚労省案では緩和の際に厳格な要件を課しており、現場感覚では緩和等を行ったとしても問題が生じないと考えられる」と賛成。一方、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)や齋藤訓子参考人(日本看護協会副会長、岡島さおり委員(同協会常任理事)の代理出席)、藤野裕子委員(日本介護福祉士会常任理事)らは「現場スタッフの負担増が強く懸念される。夜勤では看取り対応なども必要となり(スプリンクラーを設置すれば良いという問題ではない)、人員配置緩和は支障が出るのではないか」と強く反対しています。
 賛否両論があり、両者の見解ともに頷ける部分があることから田中滋分科会長は「まだ結論を出すべき状況にはない。この2点についてはさらに議論を続ける」旨の考えを示しました。次回以降、改めて議論を行い、着地点を探ります。
 なお、後者のグループホームの夜勤体制について、「どのような3ユニットでも2人で夜勤対応をしてよい」としているわけではありません。厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課の笹子宗一郎課長は、例えば▼各ユニットが同一階にあり隣接している▼事があればすぐに駆け付けられる―などの要件を課し「利用者の安全が害されない」ような配慮を十分にとるべき考を強調しています。
 また、前者の「ユニット定員の拡大」についても、「単に定員を拡大する」と提案しているわけではありません。厚労省老健局高齢者支援課の齋藤良太課長は「拡大の前提として、当該ユニットに『介護・看護職員の平均的な配置を勘案してスタッフ配置する』よう努めることを求める。指定の際、監査の際などに『平均的なスタッフ配置』が行われているかどうかを確認し、不備があれば指導等を行う。国でも定員10名を超えるユニットの状況を適宜把握し、検証を行った上で、必要があれば制度改正等を行っていく」考えを示しています。
 介護人材確保難を乗り切るために、「サービスの質確保・スタッフの負担過重防止策」をより明確にしていくことになるでしょう。なお、こうした人員配置の緩和は「基本報酬の引き下げ」とセットで行われるものではありません。

訪問看護、人員基準見直しと別戦術で「本来の機能を果たさない事業所」を牽制
 ところで、運営基準改正案の中に、注目される「訪問看護ステーションの人員配置基準に『訪問看護に従事するスタッフの6割以上が看護職員である』旨を組み込む」項目が盛り込まれていません。
 訪問看護には「医療ニーズの高い要介護高齢者等の在宅限界を高めるために『24時間対応』や『重度者への対応』などの機能を高める」ことが求められ、多くの訪問看護ステーションがこの方向に向けた努力を行っています。
 しかし、一部の訪問看護ステーションでは、スタッフのほとんどをリハビリ専門職種(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)が占め、「日中に(24時間対応はしない)、軽度者(重度者対応はしない)に対して訪問リハビリを主に提供する」実態があります。訪問看護ステーションに求められている方向とは逆を向いていることになります。
 介護給付費分科会では、こうした事態を是正するために、人員配置基準の中に「看護師6割以上」要件を盛り込む方向で議論が進められてきました。
 しかし、訪問看護に従事する看護師が不足する中で「人員配置基準上の対応(厳格化)」を行ってしまうと、事業所の存続そのものが難しくなり、利用者にも不利益が及ぶ可能性があります。
 そこで厚労省は、「訪問看護ステーションに本来求められる機能を発揮してもらう」という戦略は変えず、「人員配置基準以外での対応を行う」という戦術の変更を行ったものと考えられます。今後、具体的な改正案が提示される見込みですが、訪問看護ステーションには「重度者対応」「24時間対応」が期待されている点、この期待に敢えて背く事業所には何らかのペナルティ措置がとられるという点に留意が必要です。
 この点、一部委員からは「リハビリ専門職からなる訪問リハビリステーションを認めてはどうか」との提案が出ていますが、東委員や江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「効果的かつ安全なリハビリを提供するためには、リハビリ専門職と医師とが日々顔を突き合わせ、利用者の状態やリハビリの効果などを確認しあえる環境が必要不可欠である」とコメントしています。
 12月2日の介護給付費分科会では、上記2点(ユニット定員の緩和、グループホームの夜勤配置緩和)を除いて、運営基準改正案は概ね了承されました。次回以降に、改めて2点の議論を進め、改正案を早期に固めることになります。
 あわせて、他の個別サービス等に関する審議の取りまとめも行われ、改定率決定を待って、具体的な単位数・基準見直しの詰めを年明けに行う運びとなります。

 

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