生活ショート全体の看護力を強化し、一部事業所の「看護常勤配置義務」を廃すべきか—社保審・介護給付費分科会(3)

Gemmed 2020.10.21.

 短期入所生活介護(生活ショート)について、外部事業所と連携することで「看護体制の強化」を図る必要があるが、特別養護老人ホーム等と併設し、定員20名以上の事業所で求められている「看護職員の常勤配置」義務を緩和していくべきか—。
 短期入所療養介護(医療ショート)について、基本報酬を生活ショート並みに引き下げ、一方で医療的ケアについて別途評価することで、メリハリの付いた報酬体系を実現できるが、これをどう考えるか—
 10月15日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、こういった議論も行われています。

目次
 1 生活ショートの看護力を事業所連携で強化、一部の「常勤配置義務」をどう考えるか
 2 要支援1・2の予防生活ショート、長期継続利用の実態を踏まえて減算規定を導入へ
 3 医療ショートの基本報酬を引き下げ、医療的ケアを別途評価する方針を厚労省が提案

生活ショートの看護力を事業所連携で強化、一部の「常勤配置義務」をどう考えるか
 お伝えしているとおり、10月15日の介護給付費分科会では、通所系・短期入所系サービスの具体的見直し方向を議論しました。本稿では「ショートステイ」(短期入所生活介護、短期入所療養介護)に焦点を合わせます(▼通所介護・認知症対応型通所介護▼療養通所介護の関連記事はこちら、▼通所リハビリテーション▼福祉用具貸与等—の関連記事はこちら)。

【2021年度介護報酬改定に向けた、これまでの議論に関する記事】
●第1ラウンド
▽横断的事項(▼地域包括ケアシステムの推進▼⾃⽴⽀援・重度化防⽌の推進▼介護⼈材の確保・介護現場の⾰新▼制度の安定性・持続可能性の確保―、後に「感染症対策・災害対策」が組み込まれる)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護▼夜間対応型訪問介護▼小規模多機能型居宅介護▼看護小規模多機能型居宅介護▼認知症対応型共同生活介護▼特定施設入居者生活介護―)

▽通所系・短期入所系サービス(▼通所介護▼認知症対応型通所介護▼療養通所介護▼通所リハビリテーション▼短期入所生活介護▼短期入所療養介護▼福祉用具・住宅改修介護―)

▽訪問系サービス(▼訪問看護▼訪問介護▼訪問入浴介護▼訪問リハビリテーション▼居宅療養管理指導▼居宅介護支援(ケアマネジメント)―)

▽施設サービス(▼介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)▼介護老人保健施設(老健)▼介護医療院・介護療養型医療施設—)

●第2ラウンド
▽横断的事項(▼人材確保、制度の持続可能性▼自立支援・重度化防止▼地域包括ケアシステムの推進―)

▽地域密着型サービス(▼定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型訪問介護、看護小規模多機能型訪問介護(以下、看多機)▼認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護―)

 まず短期入所生活介護(以下、生活ショート」と呼ぶ)に関しては、次の3つの見直し方向案が示されました。

(1)医療的ケアが必要な利用者が一定数いることを踏まえ、「看護職員の確保」に関する基準を見直してはどうか
(2)【生活機能向上連携加算】について、ICTの活用や、連携先を見つけやすくする方策を検討してはどうか(通所介護(デイサービス)と同じ見直し方向)
(3)介護予防生活ショートについても【長期利用減算】を適用してはどうは

 生活ショートは、例えば▼同居介護者(家族等)のレスパイト▼利用者の急性増悪時―に一時的に短期間の入所をすることで、「要介護度が高くなっても可能な限り住み慣れた地域での在宅生活を可能とする」ことを目指す重要なサービスです。このように在宅限界を高めることは、利用者の中に「重度者」「医療ニーズを持つ者」が増加することに繋がってきます。
 この点、現在の生活ショートには「特別養護老人ホームや病院、介護医療院などと併設しており、かつ定員20名以上の場合には、看護職員を常勤1名以上配置する」ことが求められています。逆に言えば、▼定員が19名以下の生活ショート▼単独型の生活ショート—では看護職員配置は求められていません。

生活ショートにおいて常勤の看護師配置を求める事業所とそうでない事業所とある(介護給付費分科会(3)1 201015)

 ただし厚労省の調査研究事業によれば、「看護職員配置が義務付けられている併設型かつ定員20名以上の事業所」と「看護職員配置の義務はない単独型かつ20名以上の事業所」とで、医療的ケアの状況に大きな差がないことが分かりました。

 生活ショートにおいて常勤の看護師配置をしている事業所とそうでない事業所とで、医療的ケアの内容に大きな差はない(その1)(その2)(介護給付費分科会(3)3 201015)

 これを受け厚労省は、「併設型かつ定員20名以上の事業所」についても、他と同様の配置要件とする、つまり「看護師の常勤配置を求めない」こととしてはどうかと提案しました。看護職員常勤配置のない「単独型かつ定員20名以上の事業所」でも医療ニーズのある利用者に一定程度、対応できる状況、さらに地域において看護職員確保が非常に厳しくなっている状況を踏まえた見直し提案を言えます。
 しかし、この提案に対して岡島さおり委員(日本看護協会常任理事)や伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長)ら、多くの委員から「配置要件の緩い方に合わせるのはいかがなものか」との反対意見が相次ぎました。逆に「単独型かつ定員20名以上の事業所」や「併設型かつ定員19名以下の事業所」についても「医療ニーズの高い利用者が増加することを見据え、看護職員の常勤配置を求めるべき」と、伊藤委員は提案しています。
 もっとも厚労省も「単純な看護職員配置の緩和」を提案しているわけではありません。生活ショート全般について「必要に応じ密接かつ適切な連携により看護職員を確保する」ことを要件化することもセットで提案しています。
 つまり「一部の生活ショートでのみ義務付けられていた看護職員配置義務を廃し、すべての生活ショートにおいて、他事業所と連携して必要な看護体制を確保する」ことで、生活ショート全体としての「医療ニーズ対応能力」向上を図るものです。
 後者の提案に対して反対意見は出ていませんが、上述のように前者の提案には強い反対意見が出ており、今後の調整を待つ必要があります。

要支援1・2の予防生活ショート、長期継続利用の実態を踏まえて減算規定を導入へ
 生活ショートの本来目的は、家族のレスパイトや状態悪化時の「一時的・短期的な入所」であるため、30日を超える長期継続利用については、「例えば1日の完全自費利用」を挟んだとしても、単位数が減算されます。長期継続利用者では「入所初期の『生活に慣れるまでの支援』が不要となるため、初期加算(1日当たり30単位)相当分を控除するものです【長期利用減算】。

 生活ショートにおける【長期利用減算】、予防生活ショートには設けられていない(介護給付費分科会(3)4 201015)

 この【長期利用減算】は、現在、要支援1・2を対象とする「介護予防生活ショート」には設けられていませんが、要支援1・2の軽度者でもこうした長期継続利用の実態が一部にあるのです。
 そこで「介護予防生活ショート」にも【長期利用減算】の導入が検討されますが、委員からは特段の反対は出ていません。ただし、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「要支援1・2の方で、それほど長期間の入所が必要となるケースは考えられない。どうしてそうした事態が生じるのか、実態を調査すべきである」と強く訴えています。仮に不適切な実態があるとすれば、利用者も利用者家族も事業者も厳に慎まなければなりません。
 武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、生活ショートには「本来の一時利用を目的とする生活ショート」(言わば本来生活ショート)と「特養ホームなどへの入所待ちの生活ショート」(言わば待機生活ショート)とがあり、後者では利用期間が長期化しやすいと指摘。江澤和彦委員(日本医師会常任理事)も「生活ショートの長期継続利用は、実態的な入所である」とコメント。両委員ともに「生活ショートの在り方」を議論し直す必要があると訴えています。
 この点、厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「いわゆる待機生活ショートなど、入所と変わらぬ生活ショートの形態があることは承知しているが、生活ショート本来の姿である、家族のレスパイトや状態悪化時の短期利用をするように誘導していきたい」との考えを示しています。なお、特養ホームの新規入所者は「要介護3以上」とされており、要支援1・2の長期利用とは若干、ケースが異なる感もあります。東委員の指摘するように「実態調査」、例えば「どのような形態の生活ショート(単独型か併設型か、併設の場合にはどのような施設と併設しているのか)で長期継続利用が多いのか」「長期継続利用者の共通点は何か」などを詳しく調べることが必要でしょう。

医療ショートの基本報酬を引き下げ、医療的ケアを別途評価する方針を厚労省が提案
 一方、短期入所療養介護(以下、医療ショート)について眞鍋老人保健課長は次の2つの見直し提案を行っています。

(1)介護老人保健施設が提供する医療ショートについて、生活ショートとの類似性を踏まえた基本報酬の見直しを行ってはどうか
(2)医療ニーズのある利用者の受け入れ促進、介護老健施設の在宅療養支援機能推進の観点から、「医師が診療計画に基づいて必要な診療、検査等を行い、退所時にかかりつけ医に情報提供を行う総合的な医学的管理」を別途評価してはどうか
(3)【緊急短期入所受入加算】の日数要件について「7日を限度」から「7日以内を原則として、家族の疾病等やむを得ない事情がある場合には14日を限度」に見直してはどうか(小規模多機能型居宅介護等と同様の見直し)

生活ショートと医療ショートで【緊急短期入所受入加算】の日数要件が異なっている(介護給付費分科会(3)5 201015)

 医療ショートは、医療ニーズの高い在宅要介護者について、家族のレスパイトや急性増悪時に介護老健施設や医療機関(介護療養や介護医療院など)において一時的な入所を可能とするものです。
 ただし、利用目的の上位は医療ショートと生活ショートとで大きく変わらないことを踏まえ、(1)のように基本報酬の引き下げ(生活ショートに合わせる)を行い、一方で、医療的ケアの実施実態も踏まえて、(2)のように新たな「医学的管理の評価」を行うことを眞鍋老人保健課長は提案しています。言わば「医療的ケアの実施状況を踏まえて、報酬にメリハリをつける」ものと言えるでしょう。医療ニーズの高い入所者を受け入れ、適切な医療的ケアを実施した事業所は高く評価され、そうでない医療ショートは淘汰されていく(本来の医療ショートの機能を発揮できるように変化していく)ものと考えられます。
 費用負担者を代表して参画する河本滋史委員(健康保険組合連合会理事)は、この提案に賛同。「サービス内容に合致した報酬」の実現を目指すものと言えます。全老健会長の東委員もこの見直し方向に賛意を唱えています。ただし、江澤委員は「基本報酬のベースは人件費である。生活ショートと医療ショートでは人員配置基準が全く異なる。さらに医療ショートの経営状況のデータは明らかになっておらず(サンプル数が少ないため)、そうした中での基本報酬見直し(引き下げ)は考えられない」と強く反対しています。今後の調整に注目する必要があるでしょう。

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