クローズアップ:新型コロナ 名古屋のデイサービス休業に悲鳴 代替介護、確保は至難
新型コロナウイルスの感染が広がる中、名古屋市はデイサービス事業所で集団感染が確認されたとして、市内の一部地区の事業所に2週間の休業を要請した。高齢者は重症化リスクが高く、利用施設での感染の懸念は以前から指摘されていた。施設が使えなくなると家族の負担もより重くなるため、専門家は「施設側も感染拡大に備え、必要な対応を事前に考える必要がある」と訴えている。
「休業要請を知り、泣きそうになった」「認知症が進んでしまう」――。名古屋市が6日に一斉休業を要請した南区内にある「デイサービス道」には、家族から悲痛な声が寄せられた。
施設では入浴サービスや昼食を提供する。運営する小鹿泰治郎社長は「どうにもならない人もいる」として、市の要請はあったが、希望があれば受け入れを続けると決めた。7日は通常18人のところ11人が利用。1人暮らしや介護する家族が仕事を休めない人たちで、他にも受け入れを続ける施設が多数あるとみられる。
市内で集団感染が起きたのは緑区内にあるデイサービスなどの事業所2カ所。今月1日、市内の共同住宅に住む80代女性の感染が判明し、利用していた事業所でほかに高齢者5人の感染が分かった。うち1人が通っていた別の事業所を調べると、さらに8人の感染が次々と分かり、市はクラスター(感染者の集団)が発生していると判断。緊急措置として、異例の休業要請に踏み切った。
要請対象のエリアとなった緑区や、隣接する南区にはデイサービス126施設があり、利用者は計約5800人。市の担当者は「ケアマネジャーに相談し、代替サービスの利用を」と呼びかけるが、費用は利用者負担の上、そもそも訪問介護などの代替サービスを急に確保するのは困難だ。「ケアマネジャーが一斉に5800人に対処するのは難しい」と市の担当者も認める。
緑区でデイサービスや訪問介護などの事業を運営するNPO法人「たすけあい名古屋」は2月中旬以降、感染予防のため訪問介護の回数を減らしてきた。今回、市が訪問介護を代替サービスとして勧めることに戸惑いを隠せない。法人の熊田光臣代表理事は「ヘルパーの派遣を増やせば、訪問の多いヘルパーほど感染リスクが高くなる。職員の安全確保が心配だ」と話す。
「認知症の人と家族の会」愛知県支部の尾之内直美代表は「要介護度が高い人ほどサービスをたくさん使っており、影響は大きい。一日中、トイレの介助や見守りを続けることは、働いている介護者には困難。老老介護の人の負担も大きい」と懸念する。
介護現場では、入所する高齢者が他の入所者や職員と食事、入浴などで接する機会が多く、感染がそれほど広がっていない地域でも各施設は警戒を強める。埼玉県白岡市の特別養護老人ホーム「いなほの里」では2日から、ショートステイの受け入れを停止した。施設長の山崎文博さん(40)は「利用者やその家族のことを思うと心苦しいが、外部からの感染リスクを減らすためには協力をお願いするしかない」と話す。
同施設には約90人の高齢者が入居している。感染予防のため2月から家族の面会を禁止したり、来訪者の体温を確認したりするなど対策に乗り出している。山崎さんは「どんなに対策を講じてもリスクがゼロということはない。不安な毎日だが、乗り越えていくしかない」と話した。
◇高齢者、リスク高く
デイサービス事業所など高齢者施設での感染防止が課題になるのは、高齢者の致死率が高いとされ、重症化リスクも指摘されているためだ。
中国の感染状況を基にした世界保健機関(WHO)の報告によると、新型コロナウイルス感染症の致死率は3・8%で、高齢になるほど高く、80歳以上では21・9%に上った。クルーズ船の乗船者を含む日本の確認例では、現時点の致死率は約1%となっている。
こうした状況について、賀来満夫・東北医科薬科大特任教授(感染症学)は「高齢者の(重症化などの)リスクが若年者などに比べて高いのは事実だが、重症化の細かな要因は解明されていない。しかし、高齢者全員が亡くなるわけではない。カウントできない無症状の感染者なども考慮すると、実際の致死率は低くなるはずだ」と述べ、冷静に受け止めるよう呼びかける。
高齢者施設では限られた空間に人が集まり、クラスター(集団)感染が起こる危険はある。しかし施設が使えないと医療や介護の問題が生じ、家族の負担も重くなる。
和田耕治・国際医療福祉大教授(公衆衛生学)は「高齢者施設での感染や、それに伴う休業は全国であり得るだろう」とした上で、「介護サービスは高齢者の暮らしの質に直結するため、感染拡大を防止する目的でサービスを停止することに現場はジレンマを感じているはずだ」と指摘する。そして「高齢者施設で感染者が確認された場合、感染を広げないために利用者を移動させたり、個々の利用者の間で距離を保ったりすることは簡単ではない。それぞれの施設で感染が広がった場合の対応を、事業者はあらかじめ考えておく必要がある」と話す。
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