24時間対応なのに「連絡が来たのは翌朝」 “名ばかり在宅医”の実態〈AERA〉
AERA 2020年2月17日号
最期を自宅で迎えたい人にとって必要不可欠なのが、在宅医療だ。亡くなった小林麻央さんらが利用したことでも注目を集めた。一方で「名ばかり在宅医」も問題になっている。AERA2020年2月17日号は、粗雑な対応をする在宅医の背景に迫った。
* * *
「24時間、いつでも来てくれると言っていたのに」
自宅で脳梗塞後遺症の夫(70)を介護している都内に住む女性(70)は不満を漏らす。夫は一時、病院に入院していたが、自宅で生活したいと望み在宅医療に移行することにした。病院が紹介してくれたのが、「24時間365日対応」をうたう診療所。夫の体調が急変した時も、24時間態勢で見守ってくれる安心感を覚えた。
しかしある夜、夫が熱を出したので往診を頼もうと診療所に電話をかけると、スタッフに「いま院長はいないので対応できません」と言われた。院長というのが夫の主治医だが、結局、誰も来てくれなかったという。
また別の日の夜、夫が不調を訴えたので診療所に電話をすると、今度は誰も出なかった。
「24時間365日」を看板に掲げながら電話にも出てくれない対応に不信感を覚えた女性は、ケアマネジャーの紹介で別の在宅医を見つけた。今は24時間対応してもらい、納得のいく診療が受けられているという。
人生の最終段階を慣れ親しんだ自宅で家族と過ごす──。そう願う人たちを支えるのが在宅医療だ。定期的な「訪問診療」と急変時の「往診」を組み合わせながら、「24時間365日」自宅での療養生活を支えていく。数年前まであまり知られていなかったが、2017年に乳がんで亡くなったフリーアナウンサーの小林麻央さん(享年34)や、翌18年がんで亡くなった俳優の樹木希林さん(享年75)らが在宅医療を受け自宅で亡くなったことで広く知られるようになった。外来・通院、入院に次ぐ、「第3の医療」と呼ばれている。
在宅医療を行う「在宅療養支援診療所」の届け出数は、厚生労働省によると、08年の1万1260カ所から17年は1万3445カ所と10年で約1.2倍に増えた。だが一方で、在宅医の質は玉石混交、在宅医を名乗りながら往診もしない「名ばかり在宅医」が問題になっている。
30年前からいち早く在宅医療に取り組んできた栃木県小山市の医療法人「アスムス」理事長で、全国在宅療養支援診療所連絡会の太田秀樹事務局長(66)は言う。
「在宅医療の知識も経験も乏しい病院勤務のアルバイト医師を雇う診療所も少なくない」
そもそも在宅医療は1992年、医療法改正で「居宅」が医療提供の場に位置づけられたことから制度上認められた。それまで往診は診療報酬が低いサービスだったが法改正によって保険点数が有利となり、1人の在宅患者を抱えると月8万円近くもらえることになった。これが在宅医療の充実につながると同時に、在宅医療をビジネスとして考える経営者も出てきた。特に彼らが目をつけたのが、11年の高齢者住まい法の改正で創設された、バリアフリー賃貸で在宅医療の訪問診療の対象になった「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」だ。太田事務局長は言う。
「サ高住では施設側が指定した医師の往診を入所条件にするため悪質な在宅医療を行う環境になりやすい。そこでは食堂のような場所に入居者を一堂に集めてざっと診るだけ、診察するのはアルバイトの医師、ということもあります」
また、在宅に特化した診療所ならば、X線など高額な医療機器の設備投資は必要ない。開業は「届け出制」のため、医師なら誰でも「在宅医」を名乗って開業できる。
「特に大都市圏では在宅医は過剰に増えつつありますが、在宅にかける熱意が低い医師もいます」(太田事務局長)
在宅診療において苦情が多いのが、冒頭のように24時間診察をしないケースだ。「何度電話してもつながらず、連絡が来たのは翌朝」「夜中に電話すると、救急車を呼べと言われた」という人もいた。
知識や準備なしに、よい在宅医を探すのは簡単ではない。関東地方に住む60代の男性は神経系の難病を患う60代の妻を自宅で介護する。男性は振り返る。
「在宅医療の仕組みがわからず予備知識もまったくない。言われるままだった」
男性は3年ほど前、妻を在宅で介護するに当たり、ケアマネジャーや医師会が薦める在宅医に在宅医療を頼んだ。だがその在宅医は、診察は訪問看護師任せで、自分は口で指示を出すだけ。立ち会った家族は不安を覚えた。
男性は当初、在宅医療とはそういうものかと思っていたが、自宅に出入りする訪問看護師などから熱意があり医療技術もしっかりしている診療所を紹介してもらった。今は安心して自宅で医療を受けることができるという。
「いい在宅医を選ぶためには、事前の情報が重要だと思います」(男性)
仲間募集中
週1回1時間から働ける柔軟で明るい職場で、子育てママや社会人学生も在籍。
すぐに考えていないけれど、少しでも御関心があれば、とりあえず雑談させて下さいませ。