快筆乱⿇!masaが読み解く介護の今(44)これから来る通所介護の⼤変化に備える

キャリアブレインマネジメント 2019年10⽉31⽇
【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】

 通所介護の事業戦略を考えるとき、⼀番のネックは国の⽅針にブレがあることではないか。報酬改定の⽅向性に⼀貫性がないため、適切な事業戦略が⾒えにくくなる。
 介護保険制度が始まった当初の通所介護費は、1時間当たりの単価は、特別養護⽼⼈ホームの単価より⾼額だった。その後、経営実態調査のたびに「収益率が⾼過ぎる」と批判され、介護報酬改定では毎回引き下げられ、現在では特養の単価より低くなっている。
 国は規模別報酬を取り⼊れる際には、スケールメリットが働かない⼩規模通所介護の報酬を⾼く設定し、⼩規模事業所が減ることを防いだにもかかわらず、2015年度の介護報酬改定では、⼩規模通所介護の事務経費を⾼く⾒積もり、収益率が⾼過ぎるとして単価を引き下げ、その⼀⽅で、収益率が低かった⼤規模通所介護の単価を上げた。ところが18年度改定では、経営実態調査の結果、⼩規模通所介護の収益率が⼤幅に低下し、単年度⾚字になる所も出てきたため、⼤規模通所介護から財源を削り取り、⼩規模通所介護に補填するという、3年前とは真逆の対応をしている。
 単価を下げたサービスの収益率が下がるのは当然だ。国には⼀貫的な⽅針が全くなく、場当たり的な処⽅を繰り返すのだから、今後もどうなるか読めない。
 そんな中で⼩規模の通所介護事業は、⽐較的資⾦をかけずに⽴ち上げることができるため、全国的に爆発的に増え、要⽀援者の通所介護が地域⽀援事業化された以降も、⼩規模の通所介護だけで2万件を超えている。介護保険のスタート当初は競争相⼿もなく、通所介護事業所を⽴ち上げさえすれば、顧客確保に困らなかったが、現在は顧客確保の競争が全国各地で進んでいる。
 このこと⾃体は顧客にとっては喜ばしい。「顧客に求められるサービスは何か」という視点から、事業所間で質をめぐる競争に⾄る可能性が⾼いからだ。その結果、負け組は事業撤退・廃業を余儀なくされるだろうから、経営者にとってはつらいところである。
 明るい⾒通しもある。それは「団塊の世代」の動向だ。15年にはこの世代が65歳に達したが、まだお元気な⽅が多く、介護サービスを利⽤していない⼈が圧倒的に多かったが、来年は全て70歳代になる。介護サービスを使う⼈は徐々に増えていくので、特に要介護1と2の認定を受けた⽅は、通所介護を使う⼈が多くなるだろう。団塊の世代は、我が国の⼈⼝構造の中でも突出して多い。現時点で顧客確保に困っている事業所でも、20年以降には「買い⼿」が爆発的に増え、顧客の確保が容易になり、ほっと⼀息つける可能性が⾼くなる。
 しかし団塊の世代が軽度認定を受け、サービスを使うと財源負担は増えるので何とかしようというのが国の考え⽅である。特に財務省は要介護1と2について、「⼩さなリスク」と⾔い切り、それらの⼈々が使っている訪問介護の⽣活援助と通所介護について、「地域⽀援事業に移すべき」と盛んにアピールしている。
 しかし要⽀援者の通所介護が、市町村の介護予防・⽇常⽣活⽀援総合事業(総合事業)に移⾏して以降【編注】、要⽀援者の通所型サービスは、以前の介護給付の通所介護よりも単価が低いという理由から、撤退するケースが相次いでいる。緩和された基準による通所サービスAをはじめ、通所サービスB(住⺠主体による⽀援)もC(短期集中予防サービス)も整備されていない地域が多く、「制度あってサービスなし」という状況だ。
 そのため、要介護1と2の⼈の通所介護を受け⼊れるキャパシティーは、現実的に地域にほとんどない。そう考えると、20年度の介護保険制度改正、21年度の報酬改定時に要介護1と2の通所介護を介護給付から外し、地域⽀援事業に持っていくのは無理だと僕は思っている。現に社会保障審議会・介護保険部会では、地域⽀援事業化する要介護1と2のサービスは、⽣活援助しか、議論の俎上に載せていない。
 【編注】2015年度介護保険法の改正により、「介護予防事業」が⾒直され、介護予防給付のうち、「介護予防訪問介護」と「介護予防通所介護」が、介護保険の全国の⼀律の基準に基づくサービスから、市区町村が地域の実情に応じて⾏う介護予防・⽇常⽣活⽀援総合事業(総合事業)に移⾏した。総合事業は、「訪問型サービス」「通所型サービス」「その他の⽣活⽀援サービス」からなる「介護予防・⽣活⽀援サービス事業」と、全ての⾼齢者を対象とする「⼀般介護予防事業」で構成されている。
 総合事業は、サービスの運営基準や単価、利⽤料などを市区町村で独⾃に設定できるが、それが単価を下げるきっかけにもなった。
 総合事業は地域⽀援事業の⼀つ(新しい地域⽀援事業の全体像を参照)。
 次期制度改正では通所介護の軽度者外しは⾒送られ、その代わり軽介護者の通える場を地域につくることが主眼に置かれるのではないか。そうした場をつくった⾃治体が、インセンティブ交付⾦を受け取れる仕組みをつくることで、軽介護者の通いの場を充実させる可能性が⾼いだろう。そして、軽度者の通いの場がある程度確保できた暁には、要介護1と2の通所介護を地域⽀援事業化するのではないか。
 18年度から2000億円の財源を使って市町村に交付されているインセンティブ交付⾦は、来年度からさらに増額する⽅針が⽰されており、交付⾦を得るための指標として、「健康づくりの“通いの場”などのより効果的な展開を現場に促していく」を追加することが検討されている。
 「経済財政運営と改⾰の基本⽅針2019」(⾻太の⽅針2019)にある介護インセンティブ交付⾦(保険者機能強化推進交付⾦)の項⽬には、次のように⽰している。
 先進⾃治体の介護予防モデルの横展開を進めるために保険者と都道府県のインセンティブを⾼めることが必要であり、公的保険制度における介護予防の位置づけを⾼めるため、介護インセンティブ交付⾦の抜本的な強化を図る。同時に、介護予防等に資する取組を評価し、(a)介護予防について、運動など⾼齢者の⼼⾝の活性化につながる⺠間サービスも活⽤し、地域の⾼齢者が集まり交流する通いの場の拡⼤・充実、ポイントの活⽤といった点について、(中略)交付⾦の配分基準のメリハリを強化する。

経済財政運営と改⾰の基本⽅針 2019〜「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦〜

 このように、国は市町村が⾼齢者の通いの場を整備することと、介護インセンティブ交付⾦をリンクさせようとしている。これは、市町村が先頭に⽴って、地域に要⽀援者等の「通いの場」をつくらせることにほかならない。交付⾦を得るという強い動機付けを市町村に与え、充実を図るというものだ。要⽀援者等の通いの場が充実した先には、いよいよ軽介護者の通所介護の地域⽀援事業への移⾏が現実化する。通所介護の経営者には、それを⾒越した事業戦略が求められるが、その危機感はあるだろうか。
 前述したように、次の介護保険制度改正と21年度改定時では、軽介護者の通所介護の地域⽀援事業化は実現しないと思うが、その次の24年度は実現が図られるかもしれない。その時、要介護1と2の⼈がいなくなっても、事業経営を継続するにはどうすればよいのか。
 さらに⾔えば、利⽤定員19⼈が上限の地域密着型通所介護のように、⼩規模事業所単独で永続的に事業経営できるモデルは存在しない。なぜなら職員の定期昇給分に⾒合った介護報酬のプラス改定が必ず⾏われるとは限らないからだ。そうであるからこそ、顧客を数多く確保し、事業規模を⼤きくしていく戦略は必然である。
 そのため、共⽣型サービスとして、障がい者の通所サービス(⽣活介護)に事業の幅を広げることも必要になるだろうが、障がい者の⽅々を受け⼊れる上でも、知的障害や発達障害の⼈にも対応できる⼈材の育成が急務になるだろう。⾼齢者介護のノウハウだけで、共⽣型サービスが運営できるほど、⽢くはないことを肝に銘じなければならない。
 要介護3以上の重度の⽅を受け⼊れるには、職員のスキルアップも必要だ。重度者の中には、認知症の⾃⽴度がIII以上の⼈も多いが、そういう⼈たちの⾏動・⼼理症状(BPSD)に適切に対応し、症状緩和ができる対応⽅法を熟知しておく必要もある。
 何よりも⼤切なことは、今のうちに地域住⺠から選ばれる通所介護事業所になることだ。そのノウハウは要介護1と2の⼈が介護給付から外れた後も決して無駄にならない。
 そのためにはサービスの品質を⾼めつつ、従業員のホスピタリティー意識を⾼めなければならない。
 その意識は、マニュアルで⽣み出されるものではなく、顧客に⾼品質なサービスを提供しようという動機付けの中で初めて⽣まれるものだ。それは顧客に対するサービスマナーが基盤になるため、従業員に対するサービスマナー教育は不可⽋で、事業戦略上も組み込んでおくべきだろう。

菊地雅洋(きくち・まさひろ)
 1960年、北海道下川町⽣まれ。北星学園⼤学⽂学部社会福祉学科を卒業し、社会福祉⼠、介護⽀援専⾨員など多数の資格を保有。北海道介護福祉道場 あかい花代表を務める。介護業界屈指の論客としても知られ、⾃⾝が管理するBBS「介護福祉情報掲⽰板」(表板)、ブログ「masaの介護福祉情報裏板」などを通じて現場からの情報発信を続けている。主な著書に「介護の詩(うた)〜明⽇へつなぐ⾔葉」「⼈を語らずして介護を語るな THE FINAL〜誰かの⾚い花になるために」(いずれもヒューマン・ヘルス・システム社)、「介護の誇り」「看取りを⽀える介護実践-命と向き合う現場から」(いずれも⽇総研出版)

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