【福岡】大牟田市、保健所業務を福岡県に異例の“返上” 人口減で維持できず

毎日新聞2019年9月14日

大牟田市保健所が入る庁舎。来年度以降は、健康相談などの保健サービスを提供する市保健センターとなる=福岡県大牟田市で2019年9月9日、吉住遊撮影
 地方分権で市町村への権限移譲が進む中、逆に業務を「返上」する自治体が現れた。かつては炭鉱で栄え、閉山後は人口減少にあえぐ福岡県大牟田市は来年4月、人口減に伴う財源や人手不足を理由に保健所の業務を県に移管する。内閣府によると、市町村からの事務・権限の返上は極めて異例。ただ、他県でも見直しの動きが出始めており、権限移譲ありきの地方分権が転換期を迎えている。

「保健所職員数は他市の平均の半分以下」
 「大牟田市の保健所の職員数は他市の保健所の平均の半分以下。保健所に求められる役割を果たすのが難しくなった」。保健所の業務移管のプロジェクトチームを率いる大牟田市の大久保徳政(のりまさ)参与は苦渋の表情を浮かべる。
 市によると、保健所業務が県から市に移ったのは1949年。旧保健所法改正で人口15万人以上の市が政令で保健所設置市と定められ、当時約18万人の大牟田市も対象となった。今年4月現在で保健所を設置している市は政令市や中核市を中心に全国に84あり、それ以外は都道府県と東京23区が運営する。
 大牟田市の人口は60年には20万人を超え、保健所運営も支障はなかったが、基幹産業の三池炭鉱(97年閉山)の衰退とともに人口は減少の一途をたどり、今年4月には約11万4000人に。財政赤字が慢性化する一方、保健所業務は国の交付金や手数料収入を差し引いても毎年1億円以上の負担が生じていた。
 直接の引き金になったのは、2015年末に医師免許が義務づけられる保健所の所長が退職したことだ。後任が見つからず県などから紹介された医師で急場をしのいだが、中尾昌弘市長は安定的な業務継続は困難と判断。16年7月に移管検討委員会を設置し、市議会の承認を得た上で国や県に移管を要望した。県も受け入れ、今年6月に保健所設置市から大牟田市を外す政令改正が閣議決定された。保健所の設置権限を返上するのは全国初だ。

各地の市町村で「継続が難しい」との声
 返上にまで至らなくても「継続が難しい」と市町村が声を上げる事例は各地で起きており、業務の見直しに乗り出す県も出ている。
 静岡県は今年度作成する、市町への権限移譲の推進に関する計画の中で、市町からの事務・権限の返上がスムーズにできるよう必要な手続きを盛り込む。県と市町の課題検討会で、市町から「人手が足りない市町の状況を踏まえ、返上することも検討してほしい」との意見が出たためだ。
 地方分権の流れで市町村に約1300の事務を移譲している神奈川県は、一部を県に戻す検討を始めた。県が市町村に実施したアンケートで「取扱件数が極端に少なく担当者への引き継ぎだけが業務になっている」「高い専門性が求められる事務で専門家を集められない」などの意見が出たといい、火薬類の消費許可や都市計画の建築許可業務など63の事務・権限が見直しの候補に挙がった。
 神奈川県の担当者は「人口減少で市町村の職員の人員も減るなか、行政サービスの質をどう維持するかが課題。権限移譲の路線は変わらないが、県と市町村が話し合ってより効率的な枠組みを作ることが求められる」と話す。

過疎が進む市町村 都道府県の役割増える?
 市町村への事務、権限と財源の移譲は2006年に始まった国の第2次地方分権改革で本格化した。「住民に近い市町村が行政サービスを提供した方が質が上がる」との考えからだ。
 第2次改革では、今年5月までに9次にわたる地方分権一括法が成立し、国や都道府県から事務・権限の移譲がされている。内閣府によると、延べ439の法令の事務・権限が国や都道府県から移譲された。さらに国の動きとは別に、都道府県も独自に条例を改正し権限移譲を進めている。
 こうした流れの中で、市町村から事務・権限が返上される事例はほとんど確認されていない。総務省の関係者は「過疎が進む市町村は切迫した状況で業務をこなしているが、慣例を重視する行政担当者からすれば、『返上』という選択肢はなかなか取れない」と話す。
 地方分権に詳しい関西学院大の小西砂千夫教授(財政学)は「市町村にできることは市町村がやるのが理想だが、人口減少という大きな流れの中で『返上』といった従来とは逆の方向になっていることは注目される。今後は、都道府県の役割を増やすなど、地域の事情に合った地方分権の形が生まれる可能性がある」と指摘する。

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