「オンライン診療」は医療格差解消のカギ、アジア諸国のような破壊的革新を産むには?

ビジネスIT 2019/8/21
医療ITの領域で医師と遠隔でつながる「オンライン診療」が注目を集めています。メドレーやMICINといった注目のスタートアップがオンライン診療システムを提供し、2018年の診療報酬改正で正式に保険点数がつきました。また、LINEとエムスリーの合弁会社であるLINEヘルスケアも本領域に参入する、と名乗りをあげています。アジアの医療を見てきた筆者が、海外の事例を踏まえて、オンライン診療がもたらす未来について紹介します。

医療AIスタートアップ役員 田中大地

オンラインが医療格差問題解決のカギとなるか
<目次>
現在のオンライン診療は、持続的イノベーションの範囲
アジアのオンライン診療では破壊的イノベーションが起きている
なぜアジアでオンライン診療が発展したのか
オンライン診療は地方医療でこそ真価を発揮する

現在のオンライン診療は、持続的イノベーションの範囲
 日本ではオンラインによる医療の形は、大きく「オンライン診療」と「遠隔健康医療相談」の2つに分かれます。
 この中で、医療行為ができるのは、上記図狭義の「オンライン診療」だけと決まっています。
 現状の国内におけるオンライン診療は、「初診利用不可」という原則があり、既存のクリニックが自クリニックの患者さんに対して提供する便利ツールに過ぎません。オンライン診療の対象にできる患者は、原則すでに対面診療している患者に限定されるため、既存の医療の延長線上に、オンラインを組み合わせて便利にする「持続的イノベーション」の範囲におさまっています。

アジアのオンライン診療では破壊的イノベーションが起きている
 一方で、海外に目を向けてみると、いま中国、東南アジア、インドで起こっている遠隔診療は、これまでの医療を大きく変え得る「破壊的イノベーション」です。
 たとえば、ソフトバンク・ビジョン・ファンドも約450億円出資する中国平安健康医療科技が提供する「平安グッドドクター」は、24時間オンラインで専門医による問診を提供するサービスを提供しています。平安グッドドクターのユーザーは1.9億人を超え、1日あたりのオンライン問診数は37万件を登るほど驚異的に浸透しています。
 同様に、約72億円の資金調達をして話題になったインドネシアの「Halodoc」、DeNAやテクマトリックスといった日本企業も出資するインドの「DocsApp」といったサービスも登場し、それぞれ各国で平安グッドドクターと同様のサービスを提供し、ユーザーを爆発的に増やしています。Halodocの月間ユーザーは200万人にのぼり、2018年の1年間で2500%増加したといいます。また、DocsAppもこれまで500万人以上のインド人に使われたという数字を公表しています。日本とは桁違いにオンライン診療が根付いていることがわかります。
 筆者もこのGWに、インドネシアや深センでこれらのアプリを使ってきましたが、これまでの医療の常識を大きく覆すものでした。
 「オンラインで評価の高い医師を自由に選び問診を受ける(最初から専門医の問診もOK)」、「医療機関での診断・治療が必要なときには、そのままの流れで医療機関の予約ができる」「薬だけで治せると判断された場合はオンライン問診で処方箋が発行され、医薬品のデリバリーまで対応している」、というまさにOMO(Online Merges with Offline)の思想でサービスが設計されています。
 医療IT各社もこうした海外の状況を見据えながら、国内において、初診で利用ができるオンライン診療の形を模索しているように見えます。
 たとえばメドレー社は、2019年6月にてんかんや心臓などの特定領域において、著名な医師のセカンドオピニオンをオンラインで受けられる「オンライン専門医外来ネットワーク」というサービスをリリースしました。セカンドオピニオンは、初診でもオンライン利用が認められている数少ない領域です。
 またMICIN社も、規制のサンドボックス制度を活用し、「オンライン診療を活用した自宅でのインフルエンザ検査」といった取り組みを行っています。まだ実証実験の段階ですが、高熱が出た際に、オンライン診療で医師の指導を受けながら、インフルエンザの検査キットを患者自身で使い自宅で検査ができる、というものです。
 今後、LINEヘルスケアをはじめ、巨大企業が参入もしていくことで、規制も少しずつ変わっていくでしょう。
なぜアジアでオンライン診療が発展したのか
 私は、オンライン診療は「医療の格差」の解消の実現をもたらし得る、ひとつの可能性だと思っています。
 日本よりもアジアでオンライン診療が先に発展したのも、医療格差が大きかったことが要因としてあるでしょう。都心と地方の差が大きい国や、富裕層と一般層が受けられる医療の質の差が大きい国々から発展しています。
 中国の医療の状況は『アフターデジタル』などの書籍に詳しいように、医療サービスの品質はピンキリで、開業医への信頼性が総じて低い状況でした。それゆえ、総合病院に患者は集まり、総合病院の待ち時間が数日〜1週間ということもざらに発生しています。また地方では、そもそも専門医が不在な地域もあり、専門医の問診を受けるために、都心まで出てこなければならないといった大きな課題もありました。国土が大きい分、医療を受けるだけでも患者の大変な負担となっていたのです。
 同様に、インドネシアも医師の信頼は決して高くありません。インドネシアの医師は、製薬会社からの賄賂による医薬品処方の決定がまかり通っていた、などの理由で、国民からの医師の信頼が低いのです。そうした国で、オンラインで評価の高い医師を探し、相談する、という流れが発展したことは自然なことだったのかもしれません。

オンライン診療は地方医療でこそ真価を発揮する
 こうしたアジアの状況を見据えて、日本に目を向けてみたときに、オンラインによる医療が本質的な価値を発揮するのは、地方医療ではないかと私は考えています。
 都心と地方の医療の格差は、今後広がっていくことが予測されています。高齢化率が相対的に高く、医療が求められているはずの地方から先に医療供給が不足してきている、という状況がまさに起こっているのです。
 地方の医師は、その地域に住む患者がどんな疾患であっても診られる「総合診療医」であることを求められますが、当然全ての疾患をパーフェクトに診られる医師などは存在しません。 専門科の医療は、専門医の方がより精度が高く診断や成果の高い治療ができるでしょう。本当の意味で総合診療を行うことは大変に難易度が高いものです。
 そうした地方で働く医師から「専門医の持っている知見・技術が自分にもあれば、救うことができた患者は多く存在する」という話を聞いたこともあります。
 このような状況の中で、「地域に専門医がいなかったとしても、まずはオンライン診療を活用して専門医にアクセスできるようにすること」がオンライン診療の本質的な価値だと考えています。まさに、中国やインドネシアをはじめ世界各国で起こりはじめている現象です。
 ただし、専門医にアクセスする適切なタイミングを見定めることが非常に難しいという課題は残ります。現状では、かかりつけ医の判断や定期健康診断によってこの見定めが行われていますが、さまざまな要因によって、適切なタイミングを見逃すケースは発生しているでしょう。
 とはいえ長期的には、医療現場で使われる検査機器・診断機器の革新によって、より適切なタイミングが察知できるようになるでしょう。また、AI問診のUbieのようなサービスが広まれば、人では発見できなかった疾患可能性を、AIの支援によって気づくこともあるかもしれません。医療の営みは常にテクノロジーによって進化し続けてきたのです。
 日本中のどこに住んでいても、適切なタイミングで専門医にアクセスができる。ほかのテクノロジーと連携しながら、オンライン診療が「医療格差」を解消する鍵となっていく、私はそう考えています。

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