山形県で始まった患者情報の共有
Medifax 2019年6月20日
2次医療圏単位で整備・運用されてきた医療情報ネットワーク(NW)の患者情報を、圏域を越えて共有する取り組みが今年3月から山形県で始まった。こうした取り組みは全国で初めてと言われ、地域医療連携システムの関係者から注目を集めている。
●4つの医療情報NWが連携
圏域を越えて患者情報の共有を始めたのは、同県の4つのNW(▽ちょうかいネット=庄内地域▽もがみネット=最上地域▽べにばなネット=村山地域▽Oki-net=置賜地域)―。山形県医師会など関係団体の要望を受け、県が調整役となって、圏域をまたぐ患者の流出入に対応した情報共有体制を構築した。
4つのNWに参加している施設のうち、圏域をまたぐ情報連携に参加できるのは病院と診療所。共有する情報を閲覧できるのは、あらかじめ登録された医師と歯科医師に限られる。4つのNWの中で、最も限定的なセキュリティーポリシーを尊重して、施設や職種を限定する形を取った。
圏域をまたぐ情報連携に参加している病院・診療所は272施設。このうち「診療情報開示病院」(基本的に県内の基幹病院)は28施設。残りは開示された情報を「受ける側」の施設となる。診療情報開示病院と「受ける側」の施設との情報共有は一方通行だが、診療情報開示病院同士であれば、双方向に情報を共有できる。
●「つなぐ」費用は、ほぼゼロ
今回の取り組みは、4つのNWを相互に「つなぐ」費用をほぼゼロに抑えている点が大きな特徴だ。3つのNW(Oki-net、ちょうかいネット、もがみネット)は「ID-Link」(NEC)を導入。べにばなネットは「ID-Link」の施設と「HumanBridge」(富士通)の施設の間で、相互に情報閲覧できる体制になっていたため、4つのNWを相互に「つなぐ」に当たっては、べにばなネットのノウハウを生かした。
具体的には「ID-Link」を導入している施設に、「HumanBridge」の閲覧ソフト(無料)を取り入れてもらい、「HumanBridge」の施設の情報を閲覧できるようにした。「HumanBridge」の施設は、もともと「ID-Link」の情報を閲覧できるようになっていたため、大きなコストをかけずに済んだという。各施設のサポートは、各NWの事務局とベンダーが行った。
運用ルールについては、4つのNWでそれぞれ異なるため、圏域を越えて患者情報を共有する上で、新たな運用ルールを設けた。同時に、新たな運用ルールとの整合性が取れるよう、一部のNWでは運用ルールを見直した。例えば、べにばなネットでは、診療情報開示病院の診療情報を共有できる期間を情報開示から1年間としていたが、圏域を越えた患者情報の共有に取り組む上で5年間に改めた。
●診療録はほぼ全て開示
圏域を越えて開示する情報の範囲は、各診療情報開示病院の判断に委ねられるが、あらかじめ施設ごとの開示情報は一覧表にまとめられており、各NWで情報共有している。調整役の県と共に、今回の取り組みを進めたメンバーである日本海総合病院(酒田市)の島貫隆夫病院長は「主な診療情報開示病院は、診療録(医師記録)をほぼ全て開示している。ここが一番のポイント」と話す。例えば、診療所は、自院から紹介した患者が診療情報開示病院でどのような治療を受けたのか把握することができるので、患者が退院して戻って来た時の対応がしやすくなる。診療情報開示病院の治療内容を学ぶこともできるという。
これまで各NW内で情報共有する際には患者の同意を得てきたが、圏域をまたいで情報共有を行う際は、新たに書面で患者の同意を取っている。ただ救急の患者もいるため、事後対応で同意を得ることも可能な仕組みになっている。こうした仕組みによって「病院間でCTやMRIなどの画像や検査結果を迅速に共有できる。これらの情報は救急の患者が病院に到着する前に把握することができるので、到着前に手術前の検討・準備をすることが可能になる」(島貫病院長)。
3月末時点で登録患者数は9万438人。県の人口の9%程度に相当する規模になる。県健康福祉部地域医療対策課によると、患者情報については「受ける側」の施設で責任を持って管理する取り決めにしている。
今回の取り組みは、まだ始まったばかりだが、今後は▽圏域をまたぐ情報共有に診療所・病院以外も参加できるようにするのか▽情報を閲覧できる職種を医師、歯科医師以外に拡大するのか▽情報共有するエリアを他県にまで広げるのか―といった点が検討課題になるとみられる。また運用を継続していくための維持費をどう賄っていくのかも課題になりそうだ。
当事者にしか分からない「生みの苦しみ」はあると思うが、取り組みが軌道に乗り、成果を上げていけば、全国的なモデルケースになるだろう。関係者のさらなる努力に期待したい。
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