医療・福祉の生産性向上に向け、特定行為研修修了看護師の増員、民間病院の再編・統合など進める―厚労省

MedWatch 2019年6月3日
 少子高齢化(特に現役世代の減少)がますます進む2040年に向けて、医療・福祉サービスの生産性向上を進める必要がある。例えば、医師からの業務移管先となる特定行為研修を修了した看護師を2023年度までに1万人養成し、またデータヘルス改革やロボット・AI・ICTの活用を推進し、さらに民間の医療機関についても大規模化・協働化などを進め、2040年までに医師の生産性を7%、その他スタッフの生産性を5%向上させる―。 厚生労働省の「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」は5月29日、こうした考えをとりまとめました(厚労省のサイトはこちら(第2回「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」資料))。 民間の医療機関についても「大規模化」が打ち出されており、地域の医療提供体制の再編が加速度的に進む可能性もあります。
ここがポイント! 1 2040年に向けて現役世代が激減、医療・福祉分野の生産性向上が必須課題 2 データヘルス改革を強力に推進し、効果的・効率的な医療・介護サービスを提供 3 2023年度までに「特定行為研修を修了した看護師」を1万人養成 4 2020年度診療報酬改定に向け「入院料の報酬体系改革」の効果を検証 5 民間の医療機関にも「大規模化・協働化」を促す、医療の質向上にも必要不可欠
2040年に向けて現役世代が激減、医療・福祉分野の生産性向上が必須課題 2025年度には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて、高齢化のスピードこそ鈍化するものの、社会保障の支え手となる現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。減少する若人(現役世代)で、増加する高齢者を支えなければならず、社会保障制度の基盤は極めて脆くなっていきます。 また、費用面だけでなく、医療・介護サービスを提供する人材(マンパワー)確保も困難となるため、質の高いサービスを、いかに効率的に提供していくかも重要論点の1つとなります。厚労省の推計では、2040年度に医療・福祉等人材は現状ベースで1065万人必要となりますが、労働力需要・労働力供給を勘案した「医療・福祉」の就業者数は2040年度に974万人にとどまる見込みで、ICTやロボットの活用、いわゆる「元気高齢者」の活用などによって生産性を向上していくことが求められています。 こうした状況を踏まえ、厚労省は▼多様な就労・社会参加▼健康寿命の延伸▼医療・福祉サービス改革▼給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保―を柱とする社会保障制度改革に向けた検討を、根本匠厚生労働大臣を本部長とする「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」で進め、今般の取りまとめに至ったものです。取りまとめ内容は、(1)多様な就労・社会参加(70歳までの就業機会の確保や、いわゆる氷河期世代の支援など)(2)健康寿命の延伸(生活習慣病対策、疾病の重症化防止、介護予防など)(3)医療・福祉サービス改革―の3項目です。「持続可能性の確保」(給付と負担の見直し)は、引き続き検討が進められます。
ここでは、(3)の医療・福祉サービス改革に焦点を合わせてみましょう。 前述のように、高齢化が進展し、一方で現役世代が減少する中では、医療・福祉サービスを効果的かつ効率的に提供する(つまり生産性を向上させる)ことが不可欠となります。厚労省は、次の4施策を進めることで生産性向上を狙う考えです。働き方改革にも直結する内容で、2040年度時点で「医療・福祉分野の単位時間サービス提供量を5%(医師については7%)以上改善する」ことを目指しています(関連記事はこちら)。(I)ロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革(II)組織マネジメント改革(III)タスク・シフティング、シニア人材の活用推進(IV)経営の大規模化・協働化
データヘルス改革を強力に推進し、効果的・効率的な医療・介護サービスを提供 まず(I)では経済産業省、文部科学省等とも連携して「ロボット」「AI・ICT」などの実用化を推進するとともに、「データヘルス改革」を行います。具体的には、▼がんゲノム医療(個々のがん患者の遺伝子変異を解析し、データベースに照らし最適な抗がん剤等を選択する)▼PHR(個人の健診結果や服薬履歴等の情報を、電子記録として本人や家族が正確に把握するための仕組み、personal health record)▼医療・介護現場の情報連携(保健医療情報を全国の医療機関等で確認できる仕組み)▼ナショナル・データベース(NDB、医療レセプトと特定健診データを格納)と介護保険総合データベース(介護DB、介護レセプトと要介護認定データを格納)等の連結解析、行政・研究者・民間企業等による公益的な利活用―を推進していきます。エビデンスに基づいて、効果的で、かつ効率的な医療・介護・福祉を提供することで、スタッフの生産性が向上するとともに、患者・利用者の負担軽減も実現できます。 また、介護業務について業務仕分け(専門資格保有者でなければできない業務と、そうでない業務など)を進めて、いわゆる元気高齢者に助力を求めたり、ロボット等の活用を図ることで、「介護専門職種が、専門的業務に集中できる」環境を整えていきます(関連記事はこちら)。 さらに、規制改革推進会議などで強く求められている「オンライン服薬指導」の実施に向けた検討が進められます。例えば、在宅療養患者に対し、薬局薬剤師が患者宅を必ずしも訪問することなく、効率的に服薬指導できる環境整備を検討することになり、必要に応じて「オンライン診療の適切な実施に関する指針」などの見直しも行うことになるでしょう。
2023年度までに「特定行為研修を修了した看護師」を1万人養成 また(II)のタスク・シフティングに関しては、医師からの業務移管を受ける人材の育成に努めることになります。例えば、外科等の領域で活躍する「特定行為研修を修了した看護師」を2023年度までに「1万人」育成するほか、入門的研修を通じて介護施設等とマッチングしたシニア層(いわゆる元気高齢者に介護助手として活躍してもらう)の数を2018年度から2021年度にかけて15%増加することを目指します。 これらは、まさに「医師の働き方改革」等で求められている点で、医療・介護現場からの期待に応えられるよう、積極的な推進が求められます。
2020年度診療報酬改定に向け「入院料の報酬体系改革」の効果を検証 さらに(III)の組織マネジメント改革では、▼意識改革、業務効率化等による医療機関における労働時間短縮(病院長向けのトップマネジメント研修の実施や優良事例の全国展開など)▼福祉分野の生産性向上ガイドラインの作成・普及・改善(介護事業所における作成文書の見直し、ICT化、職員配置の見直し、業務プロセスの構築、介護ロボット活用などのガイドライン作成と普及)▼現場の効率化に向けた工夫を促す報酬制度への見直し(実績評価の拡充など)▼文書量削減(2020年代初頭までに介護の文書量半減)、報酬改定対応コストの削減―などに取り組みます。 このうち「報酬」に関しては2020年度の次期診療報酬、2021年度の次期介護報酬改定に向けて、例えば▼入院料の報酬体系見直し(2018年度改定)の効果検証▼ADL維持等加算(介護報酬におけるアウトカム評価)の効果検証―など具体的な報酬項目にも言及しています。 入院料(とくに急性期一般病棟入院基本料)については、看護配置などに応じた「基本部分」と重症患者受け入れ状況などに応じた「実績評価部分」を組み合わせる形となり、これにより「個々の患者の状態に応じて適切に医療資源が投入され、効果的・効率的に質の高い入院医療が提供できる環境が整った」と分析。効果を検証したうえで、さらなる見直しに向けた検討を中央社会保険医療協議会で進めることになるでしょう(関連記事はこちら)。 またADL維持等加算は、「利用者(特に重度者)のADLが維持・改善されるようなサービス提供を行っている」通所介護事業所を評価するもので、本格的な「アウトカム評価」と言えます。介護報酬は、要介護度が高くなるにつれ単位数も高くなることから、ともすれば「事業所側、利用者・家族側は要介護度の改善に消極的ですらある」との指摘もあります。ADL維持等加算の成果如何によっては、各事業所がこれまで以上に「要介護度の改善に向けたサービス」を積極的に行い、結果として介護費の適正化や利用者のADL・QOL改善につながると期待されます。こちらは社会保障審議会の介護給付費分科会で検討が進められます(関連記事はこちら)。
新設されたADL維持等加算の概要
民間の医療機関にも「大規模化・協働化」を促す、医療の質向上にも必要不可欠 一方(IV)の経営の大規模化・協働化は、共通コスト(例えばアドミニレーションコスト)の削減や、スタッフのタスク・シェアリングに向けて非常に重要な視点です。例えば、救急医療機関が、地域に多数ある場合、それぞれの医療機関で少なからぬ人数のスタッフが「待機」をし、必要な機器の整備などを行う必要があります。これを集約化(大規模化につながる)・協働化(連携など)することで、待機スタッフ・機器コストの削減を図ることが可能となります。また地域の人口減少が進む中では、集約化を進めなければ「患者・利用者獲得競争の激化に伴う共倒れ」が生じかねません。さらに、症例数の集約は、医療の質向上にとって欠かせないことが、米国メイヨ―クリニックとグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンとの共同研究で明らかになっており、大規模化・協働化は「国民のためになる」と言えます(もちろん、アクセス確保への配慮は必要)。
膝関節置換術において、症例数と合併症発生率との間には逆相関がある この点について厚労省は、▼医療法人・社会福祉法人それぞれの合併等好事例の普及(2019年度に好事例を収集・分析し、2020年度に全国展開)▼医療法人の経営統合等に向けたインセンティブの付与(2019年度に優遇融資制度を創設し、2020年度から実施)▼社会福祉法人の事業の協働化等の促進方策等の検討会の設置(2019年度に検討会を設置し、結果を取りまとめる)―考えを打ち出しました。現在、地域医療構想の実現に向けて「公立病院」「公的病院等」の再編・統合を、地域の実情や個別医療機関の診療実績を踏まえて進める方向で動いていますが、今後、民間医療機関についても再編・統合に向けた検討が進むことになるでしょう。そこでは、法人の統合までいかずとも、地域の連携を強化する「地域医療連携推進法人」なども重要な選択肢の1つとなってきます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。

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