[スキャナー]介護職が虐待 5年で3倍…人手不足 教育追いつかず
読売新聞 2019/4/4
東京都羽村市の特別養護老人ホーム「神明園」では、不適切な事例を基に、職員らが適切なケアの仕方を学んでいる(同園提供) 介護職員による虐待が後を絶たない。厚生労働省が先月26日に発表した2017年度の調査では、職員による虐待が510件(前年度比12・8%増)と過去最悪を記録。5年で3倍以上に増えた。人手不足で人材の育成が追いつかないことが影響しているようだ。(社会保障部 小沼聖実、大広悠子)
「任せられない」 「プロだと思って、スタッフを信頼していたのに……」。自宅で暮らす夫(82)が3年前、30歳代後半の新人ヘルパーから暴力を受けていた疑いがあり、事業所の利用を打ち切ったという都内の妻(81)は話す。今は一人で夫を介護している。「安心して任せられないから。お世話になっているからと泣き寝入りする人もいるはず」 調査は06年度に施行された高齢者虐待防止法にもとづいて、通報や相談を受けた自治体が虐待と判断した件数などをまとめたもの。職員による虐待は510件、家族らによる虐待が1万7078件で、06年度に統計を取り始めて以来、ともに最多を更新した。 同法は、虐待が疑われる高齢者を発見した場合、自治体に通報するよう職員や家族に求めている。14年に川崎市の老人ホームで入居者3人が転落死した事件などをきっかけに、虐待に対する世間の意識が高まり、通報や相談の件数が増えていることが件数の伸びに影響した。 深刻なのが、訓練を受けたはずの職員による虐待だ。内容(複数回答)は、殴るなど「身体的虐待」(59・8%)、暴言など「心理的虐待」(30・6%)の順で多かった。その要因(複数回答)は、「職員の教育・知識・介護技術の問題」(60・1%)、「職員のストレスや感情コントロール」(26・4%)が上位だった。 背景には、認知症などでコミュニケーションの難しい利用者が増える反面、経験の浅い職員に頼らざるを得ないことがある。介護職員でつくる労働組合「日本介護クラフトユニオン」の染川朗事務局長は「職員の入れ替わりが激しく、未経験の職員も増えている。人手が足りず、教育する余裕がない」と話す。 介護職の今年2月の有効求人倍率は4・08倍と、職業平均(1・54倍)を大きく上回る状況が続く。
情報共有 打開を探る動きもある。 東京都羽村市の特別養護老人ホーム「神明園」は17年から、約100人の職員に虐待になりかねないような事案を毎月報告させている。「入浴を拒否する利用者を無理に連れていこうとする」といった情報を共有し、研修で対応策を話し合う。 老人保健施設でつくる「全国老人保健施設協会」は、虐待などを防ぐ方法を学んだ「リスクマネジャー」の養成を進めている。「利用者に命令調で接している」「利用者からの呼びかけを無視している」といった“虐待の芽”など必要な知識について試験する。07年に始まり、これまで約2000人が認定され、職場で指導にあたっている。 虐待問題に詳しい東洋大の高野龍昭准教授は、「ヒヤリハットの事例分析、職員を孤立させず、何かあったときに職場で相談できるような風通しの良さが大切だ。先輩から指導やアドバイスをする仕組みも必要」と話す。
息子や夫も 家族などによる虐待の場合、加害者は、息子が40・3%、夫が21・1%と男性介護者が6割を超えた。 男性の場合、家事など基本的な生活スキルが低く、介護の負担が重いうえ、仕事一筋で地域での人付き合いが少なく、孤立しやすいことが背景にあるようだ。 介護問題に詳しい立命館大の津止正敏教授(地域福祉論)は、「ケアマネジャーらが介護者に寄り添い、相談に乗ることが大事。地域や会社など、SOSを出せる場作りを自治体などが後押しすべきだ」と話している。
防止策 自治体で温度差…住民に啓発65% 対応組織設置50% 虐待防止を巡って、国も取り組みを進めている。 07年度から、介護関係者に対する研修やシンポジウムの開催、相談窓口の設置などに取り組む自治体に対し、費用を補助している。06年度には、相談を受けた後の対応などを示した自治体向けのマニュアルを策定した。 ただ、自治体間で取り組みに温度差がある。 今回の調査では、講演会や広報誌などで住民に啓発活動をしている自治体は約65%、専門機関などによる対応のネットワークを組織している自治体は約50%にとどまった。 こうした対策に積極的な自治体ほど、虐待の通報や認定件数が多かった。厚労省は、「対策が地域の意識を高め、結果として早期発見につながっている」とみている。 淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「自治体は、介護職や市民向けに虐待に関する研修を行うなど、虐待を見逃さない環境づくりに努めるべきだ。また、(求人セミナーの開催など)介護人材の確保も進め、職場でゆとりが出るようにしてほしい」と話している。
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すぐに考えていないけれど、少しでも御関心があれば、とりあえず雑談させて下さいませ。