「価格破壊」も出た薬局売買ビジネス 格安の手数料で薬剤師の独立支援

医薬経済 2019/4/1
「薬局名は今までと同じだが、いつの間にか経営者の親父が変わっていた」なんていうことが頻繁に起こるらしい。調剤薬局の売買を紹介する、その名も「ファーマバイセル」なるウェブが登場した。 同ウェブを手掛けるのはシステム開発会社「リンクスアソシエイツ」の人見達弥社長とフィナンシャルプランナー(FP)、薬局経営者の3人の仲間たち。「薬局オーナーと薬局開業を志望する薬剤師をつなぐ調剤薬局売買サポートサービス」だという。特長は数多いM&A(買収と合併)仲介会社と違い、破格の安さの手数料と売買成立後の手厚いアフターサービスだと謳う。具体的には売り手の薬局からは手数料を取らず、買い手には最少の手数料で買収できるようにするそうで、開業を志望する薬剤師に独立のチャンスを増やしたいという。 アルバイトの募集や転職を誘う募集サイトに「掲載無料」を謳う職業仲介会社が盛んにテレビ宣伝している時代だ。独立開業したい薬剤師のために調剤薬局の売買を専門に紹介するサイトが登場しても、おかしくないのかもしれない。
高齢、後継者なしが中心 何はともあれ、早速、薬剤師の独立を手助けすると謳うファーマバイセルの「調剤薬局売却案件」を覗いてみると、一覧に掲載されているのはまだ9件に過ぎない。同ウェブは3月中旬にスタートしたばかりだから当然かもしれない。もっとも、主宰者の人見氏は、「1週間でざっと100件の相談が寄せられています。その中から掲載しても大丈夫と思える調剤薬局だけを選び、掲載しました。しかし、掲載案件以外にも掲載を希望しない薬局が91件もあります。メールで申し込めばそれも見ることができます」と話す。 ともかく、掲載されている売却希望の調剤薬局をざっと紹介すると、立地が南関東と表示された薬局は「処方箋枚数(月)が2050枚」で、「技術料は385万円。処方元は小児科、内科」と記され、特徴欄には「同じ建物に2つの病院が入っており地元に根付いている薬局」だが、「後継者不足」が売却理由と紹介されている。立地場所が東京都の薬局は「処方箋枚数は1870枚。技術料は390万円。処方元は内科」。売却理由は「経営者が高齢のため」で、特徴欄には「近隣に小学生以下が多く、風邪、インフルエンザ予防で年中患者が絶えない」と魅力を綴っている。立地が大阪府の調剤薬局は「処方箋枚数が2450枚で技術料は440万円。処方元は小児科」で、特徴は「好立地で、人口増も見込めるエリアで伸び代がある」が、売却理由を「オーナーが高齢で体力的にも限界がきた」と記している。 事業を立ち上げた人見氏はレジスターで有名な米NCR日本法人の元営業部長職だったそうで、4年ほど前に退職。NCR時代に培ったノウハウをもとにITシステムを構築したい企業とシステム開発技術者をネットでつなぐ紹介業を個人創業していたという。収入は1000万円を超えていたそうだが、事業を売却。新たに休眠会社を買収して社名をリンクスアソシエイツに改称した。ECサイトや課金システムなどのシステム開発事業を行っているが、個人事業を売却したときに知り合ったFPと、その友人の薬局経営者と飲み友達になったそうで、3人が意気投合したのがネットを活用した調剤薬局売買紹介業だそうだ。 「実はFPの友人は大手製薬会社2社でMRをしていた人で、2人とも調剤薬局には詳しい。私はシステム開発の専門家。ネットで薬局を売却したいオーナーと独立したい薬剤師をつなげようということになりました」 早速、ファーマバイセルなるウェブを立ち上げたという。
 人見氏が続ける。 「調剤薬局経営者には高齢化と後継ぎがいないため、売却したいというオーナーが相当数います。一方、調剤薬局には独立して薬局を経営したい薬剤師がいます。が、新規に薬局を開業するには数千万円の資金が必要ですし、開局の許認可も必要。手っ取り早いのが売却したい既存の薬局の買収です。もちろん、薬局の買収を仲介するM&A業者が数多くありますが、手数料が高い。売り手と買い手の双方から合わせて1000万円くらいの手数料を取る。これでは開業したい薬剤師がせっせと貯金しても足りない。ファーマバイセルは売りたい薬局経営者と開業したい薬剤師をウェブでつなぎ、売り手からは手数料を取らず、買い手の薬剤師には最少の300万円の紹介料で済ますことで薬剤師の独立を支援します」 具体的には、売却したい薬局を募り、超優良薬局、優良薬局、経営状態が悪い薬局のA、B、Cにランク付けしてAとBランクの薬局を売却案件としてサイトに掲載。Cランクの薬局にはコンサルティングして経営状態を改善してから掲載するという。掲載案件には売却価格や詳しい立地が表示されていないが、交渉したい薬局があれば、メールで申し込むと、価格などがわかるそうで、その後は双方が直接交渉する仕組みだそうだ。双方の間に入って売買交渉をリードする仲介業ではなく、あくまで〝紹介〟するだけなのが安く済ませる仕組みでもあるらしい。売買が成約すると、売り手は手数料無料。買い手の薬剤師には3万円から6万円の会費で1年間有効の会員になってもらうことで紹介手数料300万円にしているという。 あるM&A会社の幹部がこう指摘する。 「日本の薬局数はコンビニより多い5万8000店といわれているが、それは80年代に始まった医薬分業で増えたためです。ところが、その頃に開業した薬局の経営者が60歳代から70歳代の高齢者になり、後継者がいない経営者は売却を考えている。一般企業のM&Aと比べて金額は大きくはないが、そんな事情から薬局のM&Aは増加している。加えて、調剤報酬改定で点数が下がる処方箋の集中率が85%に引き上げられたことから大手の調剤チェーン薬局も集中率が高すぎる薬局を今後、譲渡することも予想される。薬局の売買はますます活発になるでしょう」 人見氏は「買い手はあくまで独立したい薬剤師で、M&A業者はお断りしています。成約後、買い手にはオプションでFPが資金運用の相談に乗るし、買い手には薬剤師が不足する場合は薬剤師の派遣、税理士や弁護士が相談に乗るなどのアフターサービスも用意している」と強調する。 果たして格安の薬局売買紹介ビジネスはうまく行くだろうか。
 ある薬局経営者が話す。 「私のところにもM&A業者が『売らないか』と言ってきたくらいで、薬局専門の仲介会社だけでなく、普通のM&A業者も薬局の売買仲介をしている。しかし、大都市圏では売却する薬局が少ないのではないでしょうか。むしろ、高齢になったので売却するという薬局は流行っていない薬局になってしまいそうです」 加えて、処方箋の集中率要件が厳しくなるため、利益率が大きく変わる。在宅に力を入れるなど工夫が必要で、採算の悪い薬局を買収しても上手くいくとも思えないそうだ。 独立したい薬剤師を応援するという心意気は買えるが、売買紹介サイトがビジネスになるかどうか、蓋し見物である。

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