大規模停電等に備え、電力確保等に支援が必要な在宅人工呼吸器使用患者等のリスト化進める―在宅医療ワーキング

MedWatch 2019年3月22日
 在宅で人工呼吸器を使用している患者などでは、大規模停電時などに、電力確保に向けた支援(避難入院や一時的な電源供給など)が必要になるケースが多い。しかし、どこに支援が必要な患者が居住しているのか一元的な情報がなく、今後、支援に支障が生じることも考えられるため、リスト化などを進める―。 3月18日に開催された「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」(「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織、以下ワーキング)で、こういった方針が了承されました。
ここがポイント! 1 在宅人工呼吸器使用患者等を重症度に応じてグループ化し、順次支援を実施 2 医療機関や機器メーカーの患者リストなどもとに、全国の要援護患者をリスト化 3 在宅医療の充実に向けた都道府県の取り組み、年2回の調査を通じてフォローアップ 4 在宅医療圏、地域の実情に応じて「市町村単位」や「医師会単位」に設定を
在宅人工呼吸器使用患者等を重症度に応じてグループ化し、順次支援を実施 昨年(2018年)9月に発生した北海道胆振東部地震では、全道で電力供給がストップする、いわゆるブラックアウトが生じました。例えば、在宅で人工呼吸器装着をしている患者についてバッテリーが切れてしまうなど、医療提供等に大きな影響が出ました。 全道で一定の電力が確保できるまで45時間程度が必要となりましたが、在宅人工呼吸器バッテリーの駆動時間は30分から11時間程度にとどまり、多くの在宅患者・家族が電力確保に苦労しました。 北海道札幌市を中心に在宅医療を積極的に提供している医療法人稲生会の土畠智幸理事長は、3月18日のワーキングに参考人として出席し、当時の状況を詳しく報告しました。稲生会では、過去の自然災害(2014年の豪雨被害など)を教訓に、在宅患者を重症度別(常時人工呼吸が必要か、夜間のみの人工呼吸でよいかなど)に3グループに分けてリスト化。これを定期的に更新し、非常時には「重症度の高いグループから順次、安否確認を行い、避難入院の要請を医療機関に行ったり、電力確保などを支援する」などの対応策を構築していました。今般の北海道胆振東部地震でも、この対応策に則って避難入院要請・電力確保支援などを実施することができましたが、いくつかの課題も浮上したと言います。 土畠理事長が特に強調したのは、「互助・共助」の視点です。電力が回復するまでの時間は地域によって大きく異なり、「道路一本を挟んだ向かいの地域では電力回復したが、こちら側では時間がかかる」ことなどが生じます。その際、「電力回復が遅れている地域で在宅人工呼吸器を使用している患者」に対し、向かいの家から電力供給(コンセントを貸すなど)が行われれば、移動が困難な患者が遠くの医療機関等まで電力を求めに行かなければならないといった事態を回避できます。しかし、在宅人工呼吸器を使用している患者が近隣に住んでいることなどを知らないことも多く、さらに在宅人工呼吸器のバッテリー充電においては「一般のコンセントで可能なケースも多い」ことを一般人は知りません。土畠理事長は、まず、こうした情報を広く共有することで、互助・共助が可能になるのではないかと指摘しています。 このほか、▼医療機関で発電機を準備し、そこからバッテリーに充電し、在宅患者のもとに充電済のバッテリーを届ける(患者側、医療機関側の対応)▼在宅医療拠点へ優先的に電力回復を行う(行政や電力会社の対応)▼移動電源車などの準備する(行政や電力会社の対応)―などを検討することも土畠理事長は提案しています。 また、「患者側で発電機を用意する」という選択肢も考えられますが、発電機操作には一定の困難も伴う(今回の地震では、ガソリン式発電機を室内で使用してしまい、発生した一酸化炭素で中毒死したケースもあるという)ため、安全な使用法などを十分に周知する必要がありでしょう。この点、土畠理事長のご提案のように、医療機関側で発電機を用意し、そこで充電したバッテリーを患者宅に配送することなども安全性の高い電力供給手法であるとと考えられます。
医療機関や機器メーカーの患者リストなどもとに、全国の要援護患者をリスト化 このように、大規模停電時などに在宅人工呼吸器の電力確保が非常に大きな課題となる中で、厚労省は次のような対策をとることを提案し、ワーキング構成員もこれを了承しています。▽在宅人工呼吸療法患者等について、難病や障害等の申請要件に関わらず、「平時」から必要に応じて、患者情報(氏名、住所、使用している機器に関する情報等)をリスト化し、発災時に活用できるような対策を講ずる▽居宅で人工呼吸器等を使用している患者について、日頃から必要に応じて非常用電源の確保や、医療機関との連携(バックベッドの確保等)などの整備を行う
 前者は、土畠理事長が指摘したように「どこに支援(移動や電力確保等)が必要な在宅人工呼吸器使用患者がいるのか」が明確になっていないため、適切な支援が円滑に行えないという課題を重視したものです。 稲生会のように各医療機関では患者のリスト化が行われており、また在宅人工呼吸器の製造・販売会社でも使用患者リストを保有しています。こうした情報の一元化がまず必要ですが、それだけでは緊急時に活用することが難しく、リスト作成と同時に、具体的な支援手順を明確にすることが、円滑・適切な支援のために必要となります。厚労省医政局地域医療計画課「在宅医療推進室」の松岡輝昌室長は、「急がなければならないが、現場が混乱なく動けるように、きちんとした仕組みを構築する必要があり一定の時間が必要になる」との考えを示しています。なお、支援を要する在宅人工呼吸器等使用患者数は全国で3000名程度になるのではないかと見込まれています。
在宅医療の充実に向けた都道府県の取り組み、年2回の調査を通じてフォローアップ ところでワーキングでは、昨年(2018年)末に「在宅医療の充実に向けた議論の整理」を行い、これを受け厚労省は今年(2019年)1月に通知「在宅医療の充実に向けた取組の進め方について」を発出しています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。 患者が入院医療と在宅医療のいずれで療養するかを選択できるよう、市町村が在宅医療基盤を充実していくことが求められますが、そこでは国や都道府県のバックアップが重要です。通知「在宅医療の充実に向けた取組の進め方について」では、都道府県等に対し▼都道府県全体の体制整備(医療政策部局と介護保険担当部局の連携の推進、年間スケジュールの策定、市町村支援)▼在宅医療の取組状況の見える化(データ分析)(KDBシステムのデータ等の活用、医療機関ごとの調査(病院、診療所、訪問看護ステーション))▼在宅医療への円滑な移行(入退院支援ルールの策定支援等)▼在宅医療に関する人材の確保・育成(医療従事者への普及・啓発事業やスキルアップ研修の支援、多職種連携に関する会議や研修の支援)▼住民への普及・啓発(①人生の最終段階における医療・ケアについての意思決定支援に関する普及・啓発、在宅医療や介護に関する普及・啓発)―を進めるよう求めており、厚労省では、この状況を定期的(年2回)に調査し、報告・公表することとしています。
 3月18日のワーキングでは、今年(2019年)2月時点の各都道府県の状況が報告されました。 通知発出から間もないこともあり、自治体間で取り組み状況にはバラつきがあることが分かりました。例えば、次のような状況が見えてきています。
▼年間スケジュール策定済は11自治体(岩手・東京・神奈川・富山・三重・滋賀・大阪・奈良・山口・長崎・大分) ▼KDBデータの活用は14自治体(北海道・茨城・千葉・岐阜・静岡・三重・滋賀・京都・大阪・奈良・島根・広島・熊本・鹿児島)
▼入退院支援ルールの全圏域策定は16自治体(青森・福島・茨城・群馬・東京・富山・福井・長野・滋賀・大阪・和歌山・徳島・愛媛・高知・大分・沖縄)  この点、例えば入退院支援ルールについては、「着手にとどまっているのか、それとも各医療機関がそのルールに則ってケアマネジャー等と必要な情報連携を行っているのかなどを詳しく見ていく必要がある」(池端幸彦構成員:日本慢性期医療協会副会長)などといった指摘もあり、厚労省ではより詳しい状況調査も検討していきます。先行事例を参考に、より多くの地域で在宅医療体制の充実が図られることが期待されます。
在宅医療圏、地域の実情に応じて「市町村単位」や「医師会単位」に設定を なお、在宅医療提供体制を考える上では、「どういったエリアを1つの単位と考えていくか」が重要となります。この点、2018-23年度の第7次医療計画からは、「2次医療圏単位よりも狭いエリア(例えば市町村を1つのエリアとするなど)を設定する」ことが可能となっています。より身近な医療機関や訪問看護ステーションなどが密接に患者と関わっていくことが期待されます。 今般の調査では、15都県で「2次医療圏と異なる在宅医療圏を設定している」ことが分かりました。例えば▼保健所単位(山梨・高知)▼市町村単位(茨城・東京・石川・長野・兵庫・奈良・広島・香川)▼群市区医師会単位(栃木・長崎)―など、各地域で工夫が凝らされています。 地域によって状況は異なり、「市区町村単位がよいのか」「医師会との連携を強化するために、群市区医師会単位(市町村をまたいだ医師会もある)とするのか」などを検討していくことが必要で、一律に「市区町村単位とすべき」などの決めつけは好ましくないことを松岡在宅医療推進室長も確認しています。

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