【東京】治療中止、自ら選ぶ患者も 意思尊重か救命重視か 「表層深層」透析中止と患者意思
共同通信 2019年3月18日
公立福生病院(東京)で昨年夏、医師が示した人工透析治療の中止を選んだ腎臓病患者が1週間後に死亡した。週に何回も受ける血液透析は、生活の不便さに加え、別の病気を合併する危険も伴う。治療の苦しみに耐えかねて、中止を自ら選び、亡くなる患者もいる。重んじるのは救命か、患者の自己決定権か。日本透析医学会は15日、立ち入り調査に着手した。
▽実態 福生病院のような事例は、これまでに学会などでも報告されている。 東北のある病院。透析歴数年の50代男性がある日突然、中止を求めた。「生きていてもしょうがない。つらい」。医師や家族が何度も説得したが意思は固く、中止約1カ月半で死亡した。 別の病院では「生かされている意味が分からない。死にたい」と訴えていた透析歴数十年の60代男性が医師に透析をやめたいと申し出た。中止の意思を示す書面を作り、半月余りで亡くなった。 病気で腎臓が十分機能しなくなった場合、治療の選択肢には透析と腎臓移植がある。国内での腎臓移植は年1600~1700件と横ばいだが、透析患者は年々増加。全国で約33万人に上る。 多くを占める血液透析は、血管から採取した大量の血液を機械に通し、老廃物や不要な水分を取り除いてきれいにする治療。一般的に週3回程度の通院が必要で、1回当たり約4時間かかる。
▽拒否 患者がつくる全国腎臓病協議会の前会長、今井政敏(いまい・まさとし)さんは「時間的な制約で治療開始前のような生活ができなくなり、うつ状態になる患者も少なくない」と話す。 透析を長く続けると、心臓への負担が大きくなったり、動脈硬化による脳卒中や心筋梗塞を発症したりすることもある。「年を取って、これ以上はもう受けたくないと考える患者もいる」 透析医学会による2017年の集計では、透析患者の死因の0・6%が「自殺・拒否」。04年以降は毎年1%以下(200人前後)で推移しており、このうちの一定数が治療を拒否しているとみられる。 透析をやめようとする患者への対応は、治る見込みのない末期状態での無意味な延命治療を拒む「尊厳死」とも重なってくる。透析中止問題にも詳しい、日本尊厳死協会理事長の岩尾総一郎(いわお・そういちろう)さんは「これまでは、医療現場が手探りでやってきた」と打ち明ける。
▽検証
透析医学会は14年、終末期の透析中止に関する提言を公表。続行が生命の危険につながる場合や、中止の意思が明確で死が確実に迫っている場合などに検討するとした。 患者の自己決定を尊重し、「医療側が患者や家族と十分に話し合う」ことを重視。本人意思を繰り返し確認するのはもちろん、中止後の経過を見守り、苦痛を和らげる治療も求めている。 透析医学会は立ち入り調査で、福生病院のケースを提言に照らして検証する。 透析に詳しい内科医は「病院側が積極的に透析中止を働きかける理由は思い浮かばない。特別な事情や死生観があったのかも」と戸惑う。 岩尾さんは「透析を拒否する患者を巡る問題に一石を投じた」と受け止める。終末期医療を巡る立法化も検討するべきだとの考えだ。
※福生病院の透析中止問題
東京都福生市の公立福生病院で昨年8月、腎臓病の女性患者=当時(44)=に、医師が人工透析治療をやめる選択肢を提示、女性が1週間後に死亡した。東京都は医療法に基づき立ち入り検査。日本透析医学会も調査委員会を設置した。福生病院では2013年以降、透析治療を選ばなかった約20人が死亡していたとの情報もある。病院はこうした判断の際に倫理委員会を開いておらず、学会が示した治療中止を巡る提言を逸脱しているとの指摘もある。
透析中止問題の経過
2013年4月 公立福生病院が腎臓病総合医療センターを開設。18年3月までに約20人が透析治療を受けることを選ばずに死亡したとの情報 18年8月9日 腎臓病の女性=当時(44)=が治療方針の相談に訪れる。担当医師が透析中止の選択肢を示し、女性が同意する文書に署名 14日 女性が体調不良を訴え、入院 15日 女性が「また透析しようかな」と発言、前後には「やっぱりやりたくない」との意向を示したとみられる 16日午後5時ごろ 女性が死亡。死因は心不全 19年3月6日 東京都が立ち入り検査 7日 日本透析医学会が調査委員会を設置 8日 福生病院が「当院で悪意や手抜きや医療過誤があった事実はない」とするコメントを発表 15日 透析医学会が福生病院を調査
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