倒産3年連続100超…介護業者 人手不足が直撃

読売新聞 2019/3/12
重い人件費 質低下の不安 デイサービスなど介護事業者の倒産件数が3年連続で100件を超え、高止まりしている。高齢者の増加で介護の市場は拡大が続いているが、相次ぐ新規参入による競争激化や、都市部を中心とする深刻な人手不足が、経営基盤の弱い小規模な事業者を直撃している。経営の苦しい事業所が増えると、介護の質の低下を招く懸念もある。
■利用者争奪介護業界を取り巻く環境は厳しくなっている。写真は、介護施設で折り紙を使った手芸を楽しむ利用者 「この10年で競合が増え、利用者を奪い合っている。(人件費や事務経費など)経営の負担も増すばかりだ」。首都圏のベッドタウンでデイサービス事業所を運営する男性(66)は、業界の厳しい状況を打ち明ける。 地域密着型の小規模な事業所で、定員は10人。休みは日曜日のみだが、月の利用者数はのべ110人程度にとどまる。稼働率は50%以下で、月40万円ほどの赤字は、貯金を取り崩すなどして実質的に穴埋めせざるを得ない。「利用者個々に寄り添ったきめ細かなサービスで勝負して、利用者を増やすしかない」と語る。 介護市場の目安となる要介護認定者数は約657万人。介護保険がスタートした2000年の約3倍にまで拡大した。一方、身近な訪問介護の事業所数は約3・5倍となるなど、都市部を中心に競争が激しくなっている。
■求人4・24倍 東京商工リサーチによると、18年の老人福祉・介護事業者の倒産件数(負債総額1000万円以上など)は前年比5件減の106件。過去最高だった前年は下回ったものの、過去3番目の高水準だった。 従業員数5人未満の小規模な事業者が約6割を占めた。設立年数では5年以内が約3割だった。新規参入した小規模な事業者が、事業計画の甘さなどから倒産に追い込まれる構図がうかがわれた。 強い逆風になっているのが、介護業界の深刻な人手不足だ。19年1月の介護職の有効求人倍率は4・24倍で、全職業の平均を大きく上回っている。 東京商工リサーチの担当者は、「事業所数の増加で過当競争になり、経営が厳しくなっているところへ、人手不足がだめ押しをしている。小規模な事業者では特に、1人足りないときの影響が大きい」と分析する。 介護事業者の収入になる介護報酬は国が決め、原則として3年に1度、見直される。要介護度などに応じてサービス内容と報酬があらかじめ定められ、施設ごとに定員も決まっている。そのため、収入を大きく増やすのは難しく、人件費が上がれば、経営は苦しくなる構造となっている。 介護保険では、近年の報酬改定で、夜間の配置人数や有資格者の割合など、介護の「質」に対する加算が増えており、専門知識を持つ人材の確保合戦を招いている。職員を引き留めるための費用や、離職者の穴埋めをする費用などで人件費が上昇傾向にある。
■3割が赤字 独立行政法人「福祉医療機構」の調査によると、社会福祉法人(6930法人)の17年度の経営状況は、赤字法人の割合が前年度比1・6ポイント増の24・8%。介護保険事業が主体の法人(2672法人)に限れば32・9%が赤字だった。 人手不足による施設の一部閉鎖や受け入れ制限などで、収益がさらに落ちる「負のスパイラル」に陥る施設もある。同機構経営サポートセンターの本地央明チームリーダーは、「今後は、昔のように努力せずとも利用者が入ってくる状況ではなくなる。職場環境の改善や経営の認識が甘い法人ほど赤字に転落しやすい」と分析する。
■狭まる選択肢 地域の介護事業者の倒産が増えると、利用者の選択肢が狭まる。経営の苦しい事業者が増えると、職員の心のゆとりがなくなるほか、教育にかける余力が乏しくなり、介護サービスの質の低下につながる恐れもある。 介護事業者の経営相談などに携わる「ケアモンスター」の田中大悟社長は、「利用者に求められるサービスを提供するには、まず人手が必要。競争が激化する介護業界では、利用者だけでなく職員にも選ばれる施設になるよう、働く職員にどんな価値や魅力を提供できるか考える必要がある」と話している。
 ◆介護事業者=介護保険法に基づき介護サービスを提供する事業者。利用者宅をヘルパーが訪問する「訪問介護」や、利用者が施設に通う「通所介護」などがある。厚生労働省によると、2017年10月時点で訪問介護事業所は全国に約3万5000か所、通所介護事業所は約2万4000か所。 
処遇改善で離職防げるか 国は介護業界の深刻な人手不足に歯止めをかけるため、今年10月には消費税率引き上げで増える税収の一部を使い、勤続10年以上の介護福祉士などを対象に、さらなる処遇改善を行う。 事業所ごとに、ベテラン介護職のうち最低1人の給与を、「月8万円上乗せする」か「年収が440万円以上となるようにする」ことが柱だ。長く勤めた人を評価することで、職場定着を図るねらいもある。 ただ、現場からは「介護職の給与だけの問題ではない」との声も上がる。 介護事業所の運営には事務職員や運転手らが不可欠だが、処遇改善の対象は直接介護に関わる職員が中心になる。小規模な事業所内の給与格差は、離職の主な原因となっている職場の人間関係の悪化につながりやすい。 厚生労働省の試算では、25年度には全国で計約245万人の介護職員が必要になり、約34万人の不足が見込まれている。外国人材の活用に期待する声もあるが、地域密着型の小規模な事業所には、受け入れ環境を整える余力は乏しいとみられている。 医療・介護業界のコンサルティングなどを手がける日本経営の中川稔大氏は、「介護の資格を持ち、夜勤もできるという人材は限られている。役割分担を見直し、母親が子どもの夕食を準備してから夜勤に入れるよう時間帯を工夫するなど、雇用のあり方を考えていくべきだ」と指摘する。

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