【東京】医師、患者の迷い軽視 「透析再開したいな」翌日死亡

毎日新聞  2019年3月7日
 東京都福生市の公立福生病院で、人工透析治療の中止という選択肢が外科医(50)から示され、腎臓病患者の女性(当時44歳)が死亡した。「透析しない」「撤回しようかな」。亡くなるまで女性の胸中は揺れた。いったん「死」を選んだ彼女に何があったのか。 「おそらく2週間ぐらいで死を迎えます」。昨年8月9日。外科医は、そう女性に告げた。女性は血液浄化のために腕に作った血管の分路(シャント)がつぶれたため、通っている診療所の紹介状を持って訪れていた。提示されたのは(1)首周辺に管(カテーテル)を入れて透析治療を続ける(2)透析治療を中止する――という二つの選択肢だった。 夫(51)によると、女性は1999年、自殺の恐れがある「抑うつ性神経症」と診断されていた。自殺未遂が3回あり、「死にたい」「これ以上苦しいのが続くなら、生きていない方がましだ」と漏らすことがあった。女性は「シャントが使えなくなったら透析はやめようと思っていた」と、いったんは透析中止を決めて意思確認書に署名した。外科医は看護師と夫を呼んで再度、女性の意思を確認した。夫は迷いながらも中止を承諾する。女性は「今は症状がなく、家に帰りたい」と希望し、診療所に戻った。 「在宅で、おみとりです」。治療すると思っていた病院からの電話に診療所側は言葉を失った。直前の透析治療は2日前の7日。尿が出ない体に毒素がたまり、時間がなかった。カテーテルを病院で入れてもらうよう女性を説得すると、女性は「病院で相談する」と言って帰宅した。 翌10日。同院腎臓病総合医療センターの腎臓内科医(55)によると、面会した女性は「透析しない意思は固い」「最後は福生病院でお願いしたい」と話した。しかし4日後の14日、「息が苦しくて不安だ」と、パニック状態のようになって入院した。 15日夕。女性の苦痛が増した。夫によると、女性は「(透析中止を)撤回できるなら、撤回したいな」と明かした。夫は外科医に「透析できるようにしてください」と頼んだ。外科医によると、女性は「こんなに苦しいのであれば、透析をまたしようかな」と数回話した。外科医は「するなら『したい』と言ってください。逆に、苦しいのが取れればいいの?」と聞き返し、「苦しいのが取れればいい」と言う女性に鎮静剤を注入。女性は16日午後5時11分、死亡した。
 ◇医療関係者「押しつけ」 外科医らの一連の行為に対し、医療関係者からは批判の声が上がっている。 外科医らの主張はこうだ。糖尿病などに起因する腎臓病の患者に対し、十分な意思確認がないまま透析治療が導入され、全国の患者数は約33万人にまで増えた。その一方で、患者は治療による苦痛を受け続けている――。「透析を受けない権利を患者に認めるべきだ」とする信念から、治療中止を患者に提示することを思い立ったという。死を含む選択肢を示し、インフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)を得ているという。女性は自分で死を選べることを理解したうえで「(結論を)出したと思う」と外科医は話す。 日本透析医学会のガイドラインは、多職種によるチーム医療を実施するとともに、状況に応じて倫理委員会を開くよう医療機関に求めている。だが、病院にチームはなく、倫理委員会も開かれなかった。 一連の行為について「医師の独善だ」と言うのは、末期医療に詳しい冲永(おきなが)隆子・帝京大准教授(生命倫理)。「死の選択肢を示し、結果的に(死へと)誘導している。患者は、よく理解しないまま不利益を被る選択をすることがある」と指摘する。 「JCHO千葉病院」(千葉市)では、終末期に透析治療をどうするか、事前に指示する文書を患者に書いてもらっている。同病院での治療中止は過去に12例あるが、がんや脳梗塞(こうそく)を併発するなど極めて重篤な容体に限られているという。室谷典義院長は公立福生病院の件について「医師による身勝手な考えの押しつけで、医療ではない」と批判する。 人工透析治療は、腎不全の患者が長期に生存できる「夢の治療」として第二次大戦後に登場した。治療すれば「障害者」と認定されるようになってからは自己負担が軽くなり、急速に普及した。患者は右肩上がりで増え続け、日本透析医学会の統計によると、全国で33万4505人(2017年末時点)。当初は若い患者が多かったが次第に高齢化し、平均年齢は68・4歳で原因のトップは糖尿病。透析歴10年以上が全体の27・8%を占め、最長で49年4カ月だった。 患者1人当たりの年間医療費は400万~500万円。日本透析医会によると、一つの治療法でデータが毎年まとまっている例は他になく「治療費が『高過ぎる』という攻撃対象になりやすい」という。しかし、透析を含めた腎不全などの治療費は16年度の医療費全体(約42兆円)の3・7%で、循環器系疾患や、がんより少ない。

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