薬10種類服用、手が震え失神…実は副作用?医師が警鐘
朝日新聞 2019年2月8日
高齢になると、複数の病気にかかることが多くなり、薬の種類や量が増えがちだ。一方、若いころに比べ、薬を分解、排泄(はいせつ)する体の機能は衰え、転倒や物忘れなどの副作用が出やすくなる。医師や薬剤師によく相談することが大切だ。 奈良県に住む80代の認知症の女性は、ときおり気を失うようになった。ある日、手が震えていることに家族が気付いた。診察したやわらぎクリニック(奈良県三郷町)の北和也副院長(総合診療科)は、薬の副作用を疑った。 認知症に加え、不整脈や高血圧の薬など10種類を使っていた。手の震えは不整脈の薬によって、気を失うのは高血圧の薬(降圧薬)の効きすぎで低血圧になったことで、起こされた可能性があった。 そこで家族と相談。2年かけて4種類に減らした。気を失うことは少なくなり、手の震えはおさまったという。 複数の薬を使っている高齢者は多い。全国の薬局調査では75歳以上の4割で5種類以上の薬が出されていた。 薬が6種類以上になると、副作用が増えるという報告もある。だが、薬の副作用として、ふらつきや転倒、物忘れ、うつ、食欲低下、便秘などがあっても、これらは高齢者によくみられる症状のため、見過ごされがちだ。ふらふらして転びやすい人のなかには、睡眠薬や降圧薬、抗うつ薬などの副作用が疑われることがある。 薬をむやみに増やさず適正に使うために、患者はどうすればいいのでしょう。後半では、お薬手帳の活用方法や、医師にどのように相談すればいいかを紹介します。 痛み止めの薬で高血圧やむくみが起きているのに、降圧薬や利尿薬が出される。降圧薬が効きすぎてめまいや転倒を招いているのに、めまいの薬が出される。薬の副作用と気付かれずに、その症状に対して薬で対応され続け、薬が増えていく「悪循環」――。こうしたケースはしばしばあるという。 「薬の副作用を疑ってみる視点が大切。薬の減量や中止で症状が改善することもある」と北さんは話す。
自分だけで判断しないで 薬の多剤併用で害があるものを「ポリファーマシー」と呼ぶ。薬の数が多いことだけが問題ではなく、副作用のリスクが高まる。数が多くなれば服用のタイミングや量などを間違ったり、副作用を恐れて飲まなくなったりする問題にもつながる。 薬をむやみに増やさず、適正に使うために、患者はどうしたらいいのか。 薬剤師と医師の資格をもつ、兵庫県赤十字血液センターの平井みどり所長は「勝手に自分で判断して、薬をやめないでください」と話す。多すぎる薬を減らすことに意味はあるが、まずは医師と相談することが必要だ。勝手にやめれば、病状が悪化することもある。薬を飲まなかったときは、医師に報告してほしいという。 平井さんは「お薬手帳」を有効に使うことも勧める。手帳は複数ではなく一冊にまとめ、市販薬やサプリメントを使った場合はそれも記録する。体調の変化や、「食欲不振」「ぼーっとなる」など気になることも書き込む。忙しそうな医師に遠慮して質問しづらいと感じる人は、あらかじめ聞きたいことをメモにし、手帳と一緒に見せることもできるという。 京都薬科大の北澤京子客員教授は、医師と患者がコミュニケーションをとり、無駄を省いて副作用を減らすなど、適切な医療を推進する「賢明な選択」と呼ばれる国際的なキャンペーン活動にかかわる。北澤さんは、「本当にこの薬や処置は必要ですか」「リスクはありますか」「よりシンプル、安全な方法はありますか」「何もしないとどうなりますか」「費用はどのくらいかかりますか」と医師に質問し、納得して治療を受けることを勧めている。
治療の優先順位も判断基準に 厚生労働省は昨年、「高齢者の医薬品適正使用の指針」をまとめ、医療関係者向けにポリファーマシーについての基本的な考え方を示した。 薬の処方の見直しは、患者に副作用が疑われる症状が出たときだけでなく、受診、入院、施設入所など、さまざまな機会にできる、とした。 患者の病状、認知機能、栄養状態、生活環境などを評価したうえで、「薬以外の方法はないのか」「薬の重複や副作用はないのか」など、問題点を調べる。 薬の効果を確認することも重要だ。効果がない場合は代替薬への変更や減量、中止を検討する。患者に生活習慣の改善も促し、減らす場合は慎重に様子をみながら進める。 指針では、かかりつけ医が患者への薬の処方全体を把握することや、患者がかかりつけ薬局をもつなど「薬局の一元化」が、ポリファーマシーの解消につながる、とした。 指針作成メンバーで東京大の秋下雅弘教授(老年病科)は「薬のメリットと、副作用のリスクのバランスを考える。いま副作用がない場合でも、薬の数が増えていけば、(将来、副作用を引き起こすかもしれない)『潜在的なリスク』を増やしていることにも注意する必要がある」と指摘。「薬を減らすと、介護者の負担減や医療費の節約にもつながる」と話す。 ただし、薬の処方を見直すのは、「単に薬を減らすことではなく、患者ごとに適切な処方を探ることが目的だ」と秋下さんは指摘する。 高齢者が副作用を起こしやすい薬はできるだけ避けるが、患者によっては必要な場合もある。治療の優先順位を考え、本当に必要な薬を選ぶ。複数の病気を治療する際、どの病気を優先するかは、医学的な判断と患者の希望で決まるという。
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