口腔ケアの実施が「病院経営」を好転させた!? 歯と誤嚥性肺炎の意外な関係

週刊朝日   2019.1.27
 口腔ケアをすることで誤嚥性肺炎を減らすことができ、病院に入院する患者は早期退院が可能になった。足利赤十字病院では、そんな取り組みが奏功し、病院経営にも効果が出ていると言います。「口から考える認知症」と題して各地でフォーラムを開催するNPO法人ハート・リング運動が講演内容を中心にまとめた書籍『「認知症が気になりだしたら、歯科にも行こう」は、なぜ?』では、足利赤十字病院院長の小松本悟医師が、自院の取り組みを報告しています。*  *  * 私ども足利赤十字病院での医科歯科連携の事例を紹介させていただきます。当院は病床数555床の総合病院です。もともと院内に口腔外科はありましたが、2010年10月から口腔外科とは別に、リハビリテーション科内に入院患者さんの摂食嚥下(えんげ)にかかわる目的で歯科部門を設置しました。現在、口腔ケア管理を専任とした歯科医師3人、常勤の歯科衛生士2人がいて、全555人の入院患者さんを対象に、口腔衛生管理や口腔リハビリテーション、嚥下評価、義歯調整などにあたっています。 入院患者さんにはまず、看護師が口腔アセスメントを行うことにしており、14年以降、その実施率は100%です。すべての入院患者さんに実施しています。看護部と歯科で作成したフローシートに従い、重度汚染や口腔潰瘍(かいよう)、義歯不適合などがある場合は、歯科へ連絡するシステムを作っています。普通の総合病院の場合、診療科から依頼がないと歯科は患者さんを診ないのですが、当院は全23の診療科にこのシステムを徹底しておりますので、依頼がなくてもリハビリ歯科チームが治療を行うことができます。
■実施後は肺炎発症率が約半減、脳卒中の在院日数も短期化 では、こうした取り組みの結果、医療の質はどう向上したかということですが、脳卒中患者さんの誤嚥(ごえん)性肺炎の発症率を減少させることができました。 リハビリ歯科チーム導入前の11年は12.2%だった誤嚥性肺炎発症率が、15年には9.5%、16年には6.0%、17年には5.7%まで減りました。そのため、早期に退院できる患者さんが増えたのです。また、当院の患者さんの平均では脳卒中患者の在院日数は約27日ですが、誤嚥性肺炎を起こしてしまうと約57日と、30日も長くなってしまいます。それがリハビリ歯科チームの活躍によって、誤嚥性肺炎が減り、早期に退院できる患者さんが増えるようになりました。そうすると、空いた病床に別の患者さんを入院させることができ、病院経営的にも増収につながり、プラスに働くのです。
■歯科領域に関心が低かった医師だが…… 私はもとは神経内科医で、脳卒中で入院した患者さんをたくさん診てきました。片麻痺(まひ)があって、麻痺がよくなっても、1週間後に微熱が出てきて、2週間後に誤嚥性肺炎になってしまう。そのあと、重症化してしまうというケースはよくあることだと考えていました。 私たち医師は、歯科の領域に正直あまり関心がなく、「歯なんて治しても、命にかかわりないんじゃないか」と考えていました。しかし、口腔ケアを徹底することで明らかに誤嚥性肺炎が減ったことから、歯科の介入は大変意義があるものだとわかりました。 脳卒中だけでなく、がん患者さんの周術期でも、当院の誤嚥性肺炎発症率は0.7%と、他施設よりも低いことがわかっています。今後ほかの総合病院でも、こういった医科歯科連携を導入すべきではないかなと思います。
■医科歯科連携は、病院にとっても大きなメリット しかし、全国の歯科医師のうち、病院に勤務しているのは3%ほどで、多くは診療所です。3%いる病院勤務の歯科医師も、そのほとんどは口腔外科です。リハビリ歯科チームとして口腔衛生管理にのみ徹した歯科医師はほとんどいません。歯科医師にももっと病院の中に入っていってほしいと思いますし、病院経営者には医科歯科連携の意義にもっと目を向けてほしいと思っています。 実のところ、がんの周術期の管理料は低く設定されていますので、その管理料を合計しても、当院のリハビリ歯科チーム(歯科医師3人、歯科衛生士2人)の給料をまかなうことはできません。しかし、そこに着目するよりも誤嚥性肺炎が減るということに注目すべきで、受け入れられる患者数が増えれば病院の増収につながり、スタッフの給料よりも多くのメリットにつながるということに気づいてほしいです。 そして、患者さんやそのご家族にとっても、「自分の口で食べたい」という願いをかなえてあげることができる、お金に表せない付加価値があることも、多くの医師や特に病院経営に携わる先生方には知ってほしいのです。
◯こまつもと・さとる1950年東京都生まれ。慶応義塾大学医学部卒業後、1979年に同大学院を修了し医学博士を取得。米国ペンシルベニア大学脳血管研究所留学、慶応義塾大学神経内科医長を経て、90年に足利赤十字病院に着任。2008年から同院院長。

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