2019年は、医師の働き方改革「元年」になるか?

ワタキューメディカルニュース No.643
■厚労省検討会、2019年3月に医師の働き方改革の「取りまとめ」 2018年12月19日に開かれた厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」では、これまでの議論に沿った「取りまとめ」骨子案のたたき台が示された。2019年3月末までに取りまとめが行われる予定で、医師の働き方改革は、病院の医療提供体制、医療機関の組織運営に少なからず影響を及ぼすことになりそうだ。 これまでの検討会の議論を通じて、医師の長時間労働の実態が明らかにされ、医師を守り、医療を守るためには、「働き方改革」が急務であることを確認。その上で、「時間外労働の上限」をどう設定するのか、さらに、「医師でなくとも実施可能な業務の他職種への移管(タスク・シフティング)」「医療機関内のマネジメント改革」「医療提供体制の機能分化等の推進」「当直許可基準の現代版への見直し」「労働と研鑽との切り分けと適切な運用の確保」「応召義務の考え方の整理」などを検討することになった。 論議の焦点の1つ、2024年4月から適用される医師の時間外労働規制のあり方について、12月17日の検討会では、厚労省が、医師の時間外労働の上限を「一般則」よりも長時間とする条件として、「勤務時間と次の勤務時間までには、9時間のインターバル(休息)を確保」「連続勤務は28時間までとし、当直明け後の勤務間インターバルは9時間×2日分の18時間」とすることを提案。特に反対する意見は出なかったものの、「現時点で導入されれば、病院運営が立ち行かなくなる」との指摘もあり、2018年度末の取りまとめに向けて調整に時間がかかりそうだ。 厚労省が検討会に示した資料によると、病院勤務医の4割は、「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」である年間960時間を超え、さらに2%は、その3倍となる年間2880時間を超える過重労働となっている(図1 病院勤務医の週勤務時間の区分別割合等)。 こうした過重労働は、医師の健康を害し引いては医療安全にも支障を来すことから、検討会では厚労省から、勤務医の「時間外労働の上限」設定に関する骨格案が提示された。(図2 上限時間数と上乗せ健康確保措置の骨格(イメージ))。 つまり、(1)医療の不確実性(患者は個別性が高く予見不可能な状態変化も少なくない)、公共性、高度の専門性、技術革新と水準の向上―という特殊性に鑑み、まず2024年度から「脳・心臓疾患の労災認定基準における時間外労働の水準」をも考慮した「年間の時間外労働上限」(上限を超過した労働を課した場合、事業主には罰則が科される)と「月間の時間外労働上限」を設定する。(2)地域医療確保のため、対象医療機関を限定・特定した上で、(1)の水準を超える時間外労働(年間・月間)を可能とする。(3)わが国の医療水準の維持・向上のため、特に若手医師が短期間に集中的に多くの症例を経験することを可能とするために、「医療機関を限定・特定する」「本人の申し出に基づく」場合には、(1)を超える時間外労働を認める-というものである。
■医師のタスク・シフティング、看護師の特定行為研修制度 医師の長時間労働を是正・改善するには、「時間外労働の上限設定」では足りない。このため、タスク・シフティング(医師でなくとも実施可能な業務の他職種への移管)、トップである管理者(院長等)による院内マネジメント改革などと併せて、実際の労働時間を減らす取り組みが必要であることは、厚労省の検討会の論議でも明らかになっている。 このうち、タスク・シフティングの一環として「看護師の特定行為研修」制度がある。一定の研修(特定行為研修)を修了した看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下、特定の医療行為(38の特定行為)を実施することが可能となり、医師・歯科医師の負担を一定程度軽減することが期待される。さらに、特定行為研修制度を推進するため、「外科術後管理領域」「術中麻酔管理領域」「在宅・慢性期領域」の3領域について、特定行為研修を「パッケージ化」、併せて研修内容を精錬して研修時間等を短縮することで、より特定行為研修を受けやすくするため、2020年度から「領域別パッケージ研修」がスタートする(図3 特定行為研修制度のパッケージ化によるチーム医療の推進について(イメージ))。 検討会では、医療現場の「医師の多忙さが切羽詰まっている」状況を打開するために、より強力な方策、例えば、医師の指示を待たずに一定の医療行為を実施できるナース・プラクティショナー(NP)制度の創設などを求める声が上がる一方、あくまで現行の法制度内でできることを検討すべきとの意見も出ている。2019年は、医療界にとっても「働き方改革元年」と言われ、働き方改革の論議を契機に、わが国の医療提供システムが大きく変貌する年となるかもしれない。 今回のテーマは、平成31年、医師の働き方改革「元年」となるか?である。いよいよ大詰めを迎えようとしている議論の行く末が非常に気になるところである。 コメントを紹介したい。
○厚労省医政局長:「患者の受診の仕方、医師需給の議論などを踏まえ複合的な連立方程式を解いていく」 2018年9月26日の厚生労働省・社会保障審議会医療部会で、委員から医師の働き方と医師需給の問題を関連させて議論することが必要との指摘を受け、厚生労働省の吉田 学 医政局長は、「医師の働き方改革に関する検討会では、地域医療への影響や働き方改革を通じて、医療を良くしていくという視点も念頭にあり、患者の受診の仕方も含めて複合的な連立方程式を解いていく」との方針で進めていると説明。佐々木 健 医事課長も、「医師需給の議論ともリンクしてくるので、並行して議論を進めていく」と答えている。保険局医療課:「特区の例を踏まえ、遠隔服薬指導でも対面とで差を検討したい」
 とにかく、働き方改革は総理の肝煎りである。お役人としては何としてでも実現するという気概が感じられるのだが・・・ 続いてのコメントである。
○日医副会長:「NPを医師の負担軽減のために作るような議論はやめた方がいい」 2018年12月17日の医師の働き方改革に関する検討会で、タスク・シフティング(業務移管)の推進に向けて、ナース・プラクティショナー(NP)創設の必要性を検討会の取りまとめに盛り込むべきとする意見に対して、今村 聡 日本医師会副会長は、「この検討会は医師の労働時間を決めることが最大のミッションであり、現行の資格を持っている人の中でまずはやるべきことを議論していただきたい。新たな資格の議論は、それはそれで大事だが、現行の既存資格についてまず検討していくことが大前提ではないか。新たな資格を、医師の負担軽減のために作るような議論はやめた方がいい」と指摘し、検討会の取りまとめに当たりNPの記載に慎重な姿勢を示した。
———————————————————————————————————————- NP(ナースプラクティショナー)は、これまで何度か議論されたが実現は難しかった。しかしここに来てタスク・シフティングの一環での「看護師の特定行為研修」制度を活用しようとする動きだけでなく、いっそ“医師の指示を待たずに”一定の医療行為を実施できるNP制度を創設した方が?という意見も出だしたわけだ。それはそれとして、日本医師会の立場としてはNP賛成ということにはなかなかならないのではないか。 看護師からコメントをいただいた。
○「NPが増えれば、プライマリケア医がいらないようにも見える」 プライマリケア医とナース・プラクティショナー(NP)の役割はどうなるか。ナース・プラクティショナーがいれば、プライマリケア医がいらないようにも見える。
○「NPになるには離職して大学院2年間の教育が必要。病院経営者が養成に理解がなければ難しい」 日本でNP(診療看護師)になるには、大学院で2年間の課程を履修しなければならない。そのため、一旦、病院を離職しなければならない。余程、病院経営者が診療看護師になることに理解がなければ、現実には難しい。
○「少子高齢化社会で、看護職の裁量の範囲を広げることが重要」今後18歳人口が減る一方、高齢化が進む。多くの人を医療の現場に引き込まなければいけない時に、看護職の裁量の範囲を広げることが重要だと考えている。
○「看護師の自立という視点からも、自分で判断でき、責任を持ってできる職種が必要」 現行法令で、『診療の補助』の範囲を拡大すればいいという指摘はあるが、医師の指示がないとできないことには変わりはない。大学院で2年間の教育を受けた者については、包括指示や事前指示などがなくても、一定の医療行為が可能になるようにすべき。看護師の自立という視点からも、自分で判断でき、責任を持ってできる職種が必要。日本で行き詰まりを感じたため、米国でナース・プラクティショナーとして活躍している日本人もいる。
———————————————————————————————————————- なるほど。周囲の理解があればNPは賛成(2番目のコメント)、とも取れるコメントだ。しかし“現実には難しい”というのが実際で、半ばあきらめに似たコメントであるともいえる。 ところで別問題であるが、昨今保育園がどんどんできている現状は、それまでは必要性が叫ばれながらも、国が本気で動くことはなく、殆ど進んでいなかった筈である。それがどうだ。一人の働こうとしている母親のツイッターから火がつき、今日の状況が生まれるきっかけになったのだと筆者は記憶している(※4)。時代が、というよりリーダーがどう考えるのか?そしてリーダーが社会情勢・社会的要請を受けて劇的なる変化を遂げての今日なのだ。そういった変化を我々は目にしてきた。だから、今の現実が変わらない、というのは思い込みなのかもしれない。 ただ、この看護師から頂戴したコメントを、医師からの賛同を得るのは、現代の医療のヒエラルキーを考えた場合、なかなかに難しいと考えるのももっともであるのだが。 医師はどう考えているのか。コメントを頂戴した。
※「連続勤務は28時間まで」、「勤務と勤務の間は、9時間のインターバル(休息)を設ける」など、医師の働き方改革に関する検討会の提案に対して、
○「医師はついつい働き過ぎる。しかし、死んだら元も子もない」 労働自体は医師にとっては楽しいことが多く、ついついやり過ぎてしまう。だが、働き過ぎて死んだら元も子もない。せめて睡眠だけは確保したい。
○「9時間インターバル。幻想に近い」 連続勤務28時間、9時間インターバル。夢というより幻想に近い。
○「手術が夜中まで続いたら、翌日の外来や定時の手術を遅らせることができるか」 9時間のインターバルが必要なら、夜24時まで残業したら、翌日の始業時間は朝9時以降にしなくてはならない。この案を考えた人たちは、手術が夜中まで続いたら、翌日の外来や定時の手術を遅らせることができると思っているのだろうか?
○「結局お金にならない時間外が増えるだけだ」 時間外何時間までとか連続勤務何時間までとか、そんな制限したところで、実際目の前に対処しなければいけない患者がいたら帰るわけにはいかない。結局お金にならない時間外が増えるだけだと思う。
○「地方病院で外科医の数が少ない病院は絶対無理な案。医師の都市集中化を助長した厚労省の責任は重い」 地方病院で外科医の数が少ない病院は絶対無理。医局制度を崩壊させ、研修医の行き先も自由に選べるようにし、医師の都市集中化を助長した厚労省の責任は重い。
———————————————————————————————————————- 実に厳しいご意見が圧倒的だ。筆者がまかり間違って、仮に厚労省の担当役人だったらこんな無理難題を突きつけられたら逃げ出したくなる。このコメントだけを見ていると、何が正しいのか、正直分からなくなってしまう・・・。 医療とは、提供側(医療機関・医師)と受ける側(患者)の情報の非対称性がもっとも指摘されている分野である。 患者からのコメントをいただいた。
○「夜間に子供が急に熱を出したら、断らずに治療してくれる医療機関が有り難い」コンビニ受診との批判があるが、夜間に子供が急に熱を出したら、断らずに治療してくれる医療機関が有り難い。
○「お医者さんが診断してくれるからこそ、安心だ」 実際に深刻な病気なのかは、素人の患者に判断できない。お医者さんが診断してくれるからこそ安心だ。

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