【徳島】高齢不明者「連携」見守り

読売新聞 2018年11月1日

◇ネットワーク事業 住民参加促進カギ
 認知症の行方不明者が県内で増加傾向にある。死亡して見つかった人や発見に至っていない人もいるという。多くは高齢者で、発見の遅れが命に関わる。住民に協力を求める「SOSネットワーク」事業を導入し、“見守りの目”を増やすことで早期発見を目指す自治体も現れた。ただ、ネットワーク構築には、多くの住民の参加が必須だ。いかに関心を寄せてもらうのか。事業の現状と課題を取材した。

■早期発見に
 「70歳代の男性の行方がわからなくなりました」。そんな内容のメールが2016年夏、群馬県桐生市の住民らに送られた。隣接する自治体に住む男性も午前中に受け取った。日中は桐生市で働いている。メールには、高齢者の行方不明時の服装や特徴が記されていた。
 夜、帰宅途中に自宅のある自治体で高齢者を見かけた。メールにあった特徴に似ていたという。ピンときて、警察に連絡し無事に保護された。
 桐生市は12年度から「桐生市認知症等高齢者見守りSOSネットワーク事業」を始めた。市は「地域全体で見守る効果があった」という。

■今年8人、死亡で発見
 徳島県警によると、認知症とみられる高齢者の行方不明は2017年に88人。18年は9月末までに69人と前年を上回るペースという。死亡して見つかったのは17年4人に対し、今年は9月末で8人だ。昨年9月には、認知症の疑いのある徳島市の80歳代男性が自転車に乗って出かけたまま行方不明になった。県警や県のホームページに写真などを公開したが行方は知れない。
 警察や県内の自治体では、不明者が出ると、医療や介護機関に通報して、情報提供を求めてきた。だが、限られた機関だけでは、捜索には限界がある。県警や自治体からは「幅広く情報提供を呼びかけるシステムが必要」という声が上がる。
 危機感を抱いた鳴門市では、鳴門署と連携しSOSネットワークによるメール配信を11月から導入する。行方不明者の特徴をメールで住民に知らせて情報提供を求める。氏名や年齢、身体的特徴などの情報を周知する方式だ。似た人物を見かけたら通報してもらう。
 桐生市と同様の仕組みで、住友幹雄署長も「認知症の人が行方不明になれば命の危険を伴う。早い発見につなげるため、連携を深めたい」と期待を寄せる。

■訓練で意識醸成
 だが、事業を導入すれば早期発見できるわけではない。那賀町でも4月に同様の事業を導入したが、登録者は約160人と住民の約2%にとどまる。事業の存在を知らない住民もいるという。
 強制できるものではないため、住民参加をどう促すのかが、成否のカギを握る。
 鳴門市では、認知症について理解し、ネットワークなど地域の見守り事業を意識してもらうため、今年3月から、地域で見慣れない人やさまよっている疑いのある人に対する声かけ訓練を実施。警察官や民生委員らが後ろから声をかけない、目線を合わせて話をするなどを学んだ。
 市からネットワーク事業を委託されている市基幹型地域包括支援センターは「認知症を理解したり、接し方を学んだりすることで、ネットワークなどの支援に加わるきっかけになれば」と期待。PRチラシに印刷したQRコードで簡単に登録できるようにするなど、登録者を増やす工夫も凝らす。

◇助け合い重要性訴えて
 徳島文理大の古川明美准教授(高齢者支援)の話「地域のつながりが薄れつつある今、助け合いの重要性を繰り返し訴え、多くの住民を巻き込んだネットワークづくりをすることが重要だ」

◇増え続ける認知症高齢者
 厚生労働省によると、認知症の高齢者は2015年には推計525万人だったが、25年には730万人に達するとされる。県内では15年に4万2000人、25年には4万8000人となる見通しだ。
 政府は、15年に策定した「新オレンジプラン」で、認知症の人が住み慣れた地域で暮らし続けられる地域づくりを自治体などに求めており、SOS事業もその一環。県は認知症患者や家族を支える「認知症サポーター」の育成や、地域住民が専門家と情報交換する「認知症カフェ」を行うなどして支援している。
 県内では、阿南市が市の担当課などの連絡先を記した「見守りキーホルダー」を希望する高齢者に配布。行方不明になっても、発見者が市などに連絡することで身元が分かる仕組みだ。徳島市ではQRコードを読み取るだけで、不明者の発見情報が配信される「見守りあんしんシール」を導入する。

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