[スキャナー]外国人材 経済界は評価…「指導で疲弊」 受け入れ課題も

読売新聞 2018年11月3日

居酒屋「テング酒場」で働くベトナム人従業員(左)(1日午後、東京都千代田区で)=大原一郎撮影
 政府は2日、外国人労働者の受け入れ拡大に関する法案を閣議決定した。深刻な人手不足に悩む経済界は、拡大に向けた動きを評価する。想定される数十万人単位の大量流入に備え、教育・指導を始めとした企業の態勢をどう整えるかが課題となりそうだ。海外では韓国が、受け入れ人数を政府が管理する仕組みで労働力を確保している例がある。

■現場の担い手
 居酒屋「テング酒場」の運営会社「テンアライド」が東京都内に設けた外国人向け研修所。19~20歳のベトナム人留学生が、あいさつを練習する声が響く。
 「大変お待たせしました」
 料理の提供に8分以上かかったら「大変」とつけ加えるのがルールだ。
 従業員約2800人のうち、ベトナム人は約700人を占める。研修担当の塩川朋史氏は「外国人なしで店は成り立たない」と話す。研修で、接客のマナーや話し方をたたき込まれる。ベトナム人初の正社員となったグエン・バントアンさん(28)は、「トヨタ自動車に憧れて日本に来た。長く働きたい」と目を輝かせた。
 9月の有効求人倍率は1・64倍で、約45年ぶりの高水準だった。人手不足は、ファミレスが24時間営業をやめ、建設工事の工期が遅れるなど、企業活動に影響を及ぼし始めている。
 そのなかで、年々増えているのが外国人労働者だ。厚生労働省によると昨年10月時点で約128万人に上る。このうち、就労目的の在留資格が与えられる「高度な専門人材」は約24万人。留学生のアルバイトや技能実習生が、人手が集まらない飲食店や建設、製造業の現場の担い手となっている。
 ただ技能実習生は本来は国際貢献が目的で、原則、最長5年しか在留できない。留学生も週28時間以内しか働けず、制限がある。

■態勢づくり不安
 このため今回、単純労働を含む分野で外国人の受け入れ拡大への期待は大きい。一方で、来年4月からの受け入れに向け、態勢づくりが間に合うのか不安視する声もある。
 最大の課題は、政府が受け入れの条件に掲げる日本語能力や技能知識をどう教育・指導していくかだ。
 全国に約300の老人ホームを運営するSOMPOケアが2018年度、ベトナムから受け入れる技能実習生はたった2人だ。一から指導する専任の職員が必要で数十人規模で受け入れるのは難しいという。担当者は「外国人を数だけ増やしても現場が疲弊する」と明かす。
 文化、風習の違いから日本人の社員とトラブルになる事例も多い。いかに離職を防ぎ、長く働いてもらうかは、すでに外国人を受け入れている企業共通の悩みとなっている。
 
■懸念
 みずほ総合研究所は、日本の労働力人口が17年の6720万人から30年には5880万人に減少すると予測している。人手不足を外国人労働者で補う状況はしばらく続く可能性がある。
 ただ、人工知能(AI)やロボットの進化の先行きは読めない。野村総合研究所は、25~35年ごろには、働く人の半数近くがAIなどに置きかわる可能性があると予測する。
 経済同友会の小林喜光代表幹事は先月16日の記者会見で、「不足しているからといって、なし崩しに増やすのは良くない。人手が余るようになっても、強制的に帰国させるのは簡単ではない」との見方を示した。
 足元の人手不足に対し、労働者を増やすだけでは、効率化が進まず、生産性が改善しないとの指摘もある。外国人労働者の賃金を「日本人と同等以上の水準」とすることで、日本人も含めた全体の賃金水準が下がるとの懸念もある。
 東京五輪・パラリンピックが終わる20年以降も焦点だ。外国人が多く働く建設業界では、需要の反動減が見込まれる。日本建設業連合会の山本徳治・事務総長は「建設業界は、景気の波に左右され、雇用が不安定だ。受け入れ業種以外でも働けるようにするなど、議論を深めたい」と訴えた。

先駆の韓国 人数・募集 政府が管理
 早くから非専門職の外国人労働者を受け入れてきたのが韓国だ。政府が毎年の受け入れ数や募集手続きを管理し、質の高い労働力の確保を目指すのが特徴だ。
 韓国には1990年代、外国人に技術を教え、母国の発展に役立てる「産業研修生制度」があった。しかし、運用は実質的に民間任せだったため、研修生の失踪やブローカーの不正といった問題が相次いだ。
 韓国政府は2004年、人手不足に悩む製造・建設・サービス・農畜産・水産の5分野を対象に、外国人労働者に単純労働を認める制度を導入し、国内企業の求人数などから受け入れ上限数を定めた。さらに、ベトナムやフィリピンなど16の協定締結国に政府関連機関を置き、語学力などの選抜試験をパスした就職希望者に対し、単純労働が可能な「非専門就業」の在留資格を与え、韓国企業に紹介する仕組みを作った。
 この結果、賃金不払いなどの問題が少なくなり、韓国への就職希望者は後を絶たない。ベトナムでは今年、選抜試験の競争率が約10倍に達したという。韓国雇用労働省によると、今年8月現在、約22万人がこの資格を取得して国内で働く。
 韓国外国人労働者支援センターの李河龍イハリョンセンター長は「外国人の労働環境や韓国社会の人権意識は大きく改善した」と話した。
 ただ、外国人の大量流入への不安などから、一部の例外を除けば、「非専門就業」の滞在期間は最長9年8か月だ。その後も滞在を続ける不法就労者がおり、保険未加入などの懸念も出ている。高麗大の尹麟鎮ユンインジン教授(社会学)は、「少子化が進む中、社会に貢献する外国人労働者の定住に向けた議論が今後高まる」とみる。

深刻な人手不足に対応…参院選対策の思惑も
 政府が2019年4月からの外国人労働者の受け入れ拡大を目指すのは、深刻な人手不足を緩和し、経済成長の足かせを取り除くためだ。安倍内閣の安定的な支持率は好景気に支えられている面が大きく、来年夏の参院選を前に業界団体の要望をくむ思惑も透ける。 「介護や建設などではなかなか雇用が確保できない。(経済)成長を阻害する大きな要因になり始めている」
 安倍首相は2日の衆院予算委員会でこう述べ、外国人労働者受け入れ拡大の意義を強調した。
 与党内に慎重論が根強い中、受け入れ推進にかじを切ったのは、首相の右腕でもある菅官房長官だった。介護現場の人手不足を周辺から聞かされ、昨秋から水面下で政策課題として検討を始めた。2020年夏の東京五輪・パラリンピックに向け、建設業界などで人手不足が顕著なことも、理由の一つだった。
 関係省庁は当初、治安悪化や日本人の雇用への影響を懸念して及び腰だったが、菅氏が押し切ったという。これを受け、今年2月の経済財政諮問会議で首相が具体的な検討を指示。6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に、外国人労働者の受け入れ拡大が盛り込まれた。
 選挙での集票を当て込んだとの見方もある。
 政府は農業や介護、建設など14業種で受け入れを検討している。すべて業界団体側からの要望や陳情に応じたものだ。自民党幹部は「来春の統一地方選や来夏の参院選をにらみ、経済界や業界団体に恩を売る思惑なのだろう」と推し量る。
 今後の焦点は、外国人労働者の受け入れ人数をどうするかだ。自民党法務部会は閣議決定に先立つ法案審査で「基本方針を定める際には、党との議論を踏まえた上で調整」するとの決議を採択した。政府は受け入れ人数は法案に明記せず、人手不足の人数を省令に明記するのにとどめる方向だ。
 ただ、微妙なすれ違いも生じ始めている。
 公明党は「(受け入れの結果)国内の雇用状況に悪影響を及ぼさないよう努める」との決議をまとめ、外国人労働者が必要以上に増えないよう政府に求めている。しかし、山下法相は国会答弁で「(受け入れ数の)上限は設けない」と繰り返した。同党の斉藤幹事長は2日の記者会見で「与党審査の議論を100%ご理解いただいていない」と不快感を示した。
 
[解説]新制度詰めの甘さ否めず
 外国人労働者の受け入れを拡大する新たな制度は、詰めの甘さが否めない。
 たとえば、どの業種でどのくらい外国人を受け入れるのかについては、誰が見ても納得できる明確な基準が必要だ。しかし、政府が閣議決定した法案では依然、不透明だ。
 現在は14業種で受け入れを検討しているが、政府は制度開始後、恒常的に対象業種を見直す仕組みを作る方針だ。政府関係者は「業種が追加されたり、経済情勢が変化したりすれば、実際の受け入れ人数は変動する」と、極めて流動的なことを認める。
 受け入れ態勢の整備には、自治体や日本語学校、支援団体などの協力が欠かせない。現場では、不安視する声の方が多い。来年4月の新制度導入まで数か月しかなく、間に合うのかどうかも見通しがつかない。
 日本の医療を受ける目的で労働者として来日するケースなど、健康保険制度の悪用を懸念する向きもある。日本で学んだ技術を母国に伝える目的で創設した技能実習制度では、今年1~6月に4279人の失踪者を出した。
 外国人労働者の受け入れ拡大は、日本社会に大きな影響を与える。法案の国会審議は8日にも始まる。政府には、こうした疑問に答える責務がある。

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