変わりうる「胃ろう」への入居者、家族の意向 尊重重要

朝日新聞 2018年10月28日

それぞれの最終楽章・特養で(3)
特別養護老人ホームケアマネジャー・小山輝幸さん
 今回は、入居時と、その後病気になった時とで、胃に穴を開け管で栄養を入れる「胃ろう」について、ご家族の考え方が変わったケースを紹介します。

「それぞれの最終楽章」
 現在入居中の高田靜子さん(93)。ご主人は既に他界され、2人の息子さんがいます。ご兄弟で協力され、施設との対応もされています。2015年1月に入居。その際、ご家族のみなさまにいわゆる「延命措置」について確認しました。息子さんたちは「口から食べられなくなったら、胃ろうはしないで、看取(みと)り対応をしてほしい」と言われました。そのご意思は、書面に記録しました。
 そして18年1月12日、高田さんの誕生日のことです。脳梗塞(こうそく)を起こして、脳神経外科病院に搬送、入院されました。検査を受けると重度の脳梗塞でした。リハビリをしても再び口から食べるのは厳しい、と診断されました。今後の選択肢は、①施設に戻ってもらい、口を湿らす程度で看取り対応をする②胃ろうをして施設に戻ってもらう③鎖骨下の静脈から管で栄養を入れる中心静脈栄養(IVH)をする、の三つでした。
 こういうとき、「入居時に胃ろうを希望しない、と言っていらしたので、それでよろしいですよね?」という言い方をしません。「入居時には胃ろうを希望しないということでしたが、今もお気持ちは変わりませんか?」といった聞き方をするようにしています。時間とともに、入居者やご家族の気持ちは変わるからです。「誘導」してはいけないと思います。
 私は、ご長男(64)とご次男(57)に極力寄り添うようにしました。入院先の脳神経外科病院の主治医の説明(インフォームド・コンセント)や、ソーシャルワーカーとの話し合いにも同席しました。胃ろうを選択された場合のために、病院に、施設で対応可能な胃ろうの管理内容やお体の状態を、あらかじめ伝えておきました。そんなとき息子さんたちが「胃ろうの具体的なことを知りたい」と言われました。ホームに来てもらい、胃ろうに関する資料に高田さんの症状に合わせ書き込みをして、説明しました。
 「胃ろうをつけても、また食べられるケースはあります。でも率直に言って、お母様の場合は、重度の脳梗塞で唾液(だえき)もうまくのみこめない状態なのです。胃ろうにしても、食べ物でなく唾液を誤嚥して肺炎になる可能性も高いと思います」「入れた栄養剤が逆流して、誤嚥(ごえん)するケースもありますし、たんが出て定期的な吸引が必要になる場合もあります」「どこかの段階で、栄養剤を減らさないといけない時がきます。その際は、ご家族に了承していただく必要が出てきます」「長くなればなるほど、反応が少ないお母様に寄り添うことになるかと思います」……。
 入居者120人中5人ほどが胃ろうをつけて、それぞれの状態で過ごされている、ということもお伝えしました。その後も、息子さんたちから質問があれば、答えました。
 高田さんのことをどうするか、息子さんたちで話し合いました。その結果、「意思疎通は難しいかもしれないけど、まだ生きていてほしい。胃ろうをつける」と希望されました。
 もし老衰で徐々に衰弱され食べられなくなった、というケースなら、胃ろうは選択されなかったかもしれません。でも高田さんは脳梗塞になる前日まで、元気に食事されていました。急にバンと場面が変わってしまったのです。「胃ろうをしない」という選択は難しかったのかもしれません。
 振り返ってご長男は、こう話しました。「やはり事前の聞き取りと、実際に看取りが差し迫ったときとでは真剣度が違った。胃ろうのことを聞いたり、病院での話に立ち会ってもらったりして、再度よく考えたら、胃ろうをしてでも生きていてほしい、と思った。再入院するなど大変なときもあったが、今は声かけに反応もあり、胃ろうにしてよかったと思っている」
 我々は、ご家族の決断を尊重しました。ご家族の気持ちは、そのときどきで揺れます。考えも変わります。入居者さんやご家族の選択を、私たち施設スタッフで支えていくことが重要だと思うのです。

 <小山輝幸さん>
1974年生まれ。介護支援専門員。社会福祉士。明治学院大学社会学部を卒業後、一般企業に就職。2005年から横浜市の特養「グリーンヒル泉・横浜」に勤務。<アピタル:それぞれの最終楽章>

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