【大分】「余命宣告」医療現場の難しい判断 告知なし、遺族が提訴も

西日本新聞 2018/10/23

 乳がんで今年1月に死亡した大分市の女性=当時(57)=の遺族が、余命1カ月との宣告を本人も家族も受けなかったために「余命が充実したものになるよう手厚い配慮ができなかった」などとして、通院先のアルメイダ病院(同市)を運営する市医師会と主治医に慰謝料3190万円を求めて大分地裁に提訴した。
 訴状などによると、女性は2005年ごろに乳がんを患った。09年ごろに再発して肺などに転移。通院しながら抗がん剤治療を続けていたが、今年1月26日、容体が急変して死亡した。
 急死の説明を求めた遺族と病院側の話し合いで、死亡する9日前の検診の際に主治医が「余命1カ月」と判断していたことが判明。病院側は「余命告知の義務はない」と述べたという。
 遺族側は「医師や病院には診断結果の説明義務がある」と強調。医師らは余命宣告の告知を検討するために家族との接触も図っておらず「診療契約に付随する家族への告知義務に違反した」と主張している。これにより、家族一緒の時間を多く設けるなどの配慮ができなかったとしている。
 病院側代理人は「具体的な内容は訴訟の中で主張していきたい」としている。

宣告後に自殺の例も 医療現場難しい対応
 余命宣告を巡っては、最高裁が医師には患者やその家族への告知義務があると認める一方、病気の告知を受けた患者が自殺した例もあり、医療現場は難しい判断を迫られている。
 最高裁は2002年、余命1年のがんと診断したのに患者や家族に余命宣告しなかった医師について、「告知が適当だと判断した場合、診断結果を説明しなければならない」と告知義務違反があったと認定した。
 他方、がんの告知を受けて自殺した男性患者の遺族が「医師の配慮が欠けていた」として主治医らを相手取り、損害賠償を求めて提訴したケースも。余命宣告を受けて仕事や財産を整理したのに、余命を超えて長く生きていると戸惑う人もいる。
 終末期医療に詳しい「にのさかクリニック」(福岡市)の二ノ坂保喜院長によると、余命宣告は同様の病状で亡くなった人たちの統計データなどに基づくもので、患者個々の余命を断定することはできないという。「余命宣告との向き合い方は患者によって違う。医師が本人への宣告の有無や方法について最善の選択をするには患者との信頼関係が重要であり、その上で、個々のケースで判断するしかない」と話している。

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